掲載日 : [2006-05-10] 照会数 : 8682
一人芝居・在日女性三代史 朴明子さん「柳行李の秘密」
[ 一人芝居「柳行李の秘密」を演じる朴さん ]
苦難の足跡浮き彫り
在日同胞2世の主婦、朴明子さん(64)=神戸市中央区=が自ら演じる出前芝居「柳行李の秘密」が、関西圏で静かな反響を呼んでいる。舞台に立つ朴さんはいまは亡きハルモニやオモニたちの声なき声を代弁し、解放前から解放後へと連綿と続いてきた苦難に満ちた在日女性の三代史を一人3役で演じている。日本人観衆からは知られざる在日の歴史に驚きの声があがっている。
ストーリーは、近所の主婦に誘われて日本の着物を買い、着付け教室にも通ったものの、「この格好では同胞の前に出て行けない」と最後まで袖を通さず、柳行李にしまったままだったハルモニの心の奥深く秘められた心情をオモニが娘に話して聞かせるというもの。話を聞いた娘はオモニの前で本名で生きると宣言する。
舞台は3畳ほどのスペース。小道具は座布団2枚とチマ・チョゴリ。そしてバックで流す音楽だけ。20分ほどの極めてシンプルで短い舞台。だが、「一人芝居」を通じてたくさんのメッセージを発信している。
「在日」という存在が日本の過酷な植民地支配が生んだ負の遺産であること、日本社会で差別なくありのままに生きられる環境を求めていると。舞台の最後、4隅をセットンで飾った座布団を誇示するのはなにやら示唆的だ。
初舞台は3年ほど前。自宅で一人の友人を前に演じた。友人は「私一人ではもったいない。みんなに見てもらいたい」と述べた。それから口コミで広がり、これまで関西圏で20回ほど出前公演をしてきた。観客は20人から100人まで。学校などでは200人以上を前に公演したことも。
朴さんにすれば「一人芝居は観客の反応を見ながら双方向で対話できる自己表現の手段」なのだという。これまで多くの観客から「感動した」という声を聞いてきた。なかには「韓国・朝鮮について知らなかったことがよくわかった」という反応もあった。観客が芝居に集中してくれると、「芝居の意図するところが伝わったようでうれしい」という。
東大阪市生まれ。差別と貧困に苦しんだ典型的な2世世代だ。中学を卒業しても家の事情で進学できず、かといって中小企業の女工にだけはなるまいと学校の就職斡旋も受けなかった。「まわり道」しながら大阪市内の同胞病院に看護師として勤務。後に結婚し、主婦業の傍ら通信制の高校に進んだ。このとき、演劇部に所属したことが「一人芝居」につながった。卒業後、近畿大学通信教育部法学部を卒業した。 「5人以上いたらどこへでも出前します」が朴さんのキャッチフレーズだ。問い合わせは℡・FAXとも078・362・0026。
■□
一人芝居あらすじ
ある日、清美は2枚の座布団を前になにやら考え込む順子オモニの姿を見つけ、理由を聞いた。オモニは「この座布団にはハルモニのいろんな思いがこもった座布団なのよ」と、「清美よりもっと小さかった」30数年前の過去を静かに語り始める……。
大掃除も終わり、柳行李を押し入れに戻そうというとき、順子は姉と一緒になって中を見てしまう。オモニからは「あけてはならない」ときつくいわれていた。
だが、好奇心には勝てなかった。中に美しいセットンのチョゴリとその下に日本の紺色の着物。黄色じみた帯もみつかった。
この着物はオモニが近所の日本人婦人から勧められて買い、「朝鮮婦人のためのきもの着付け講座」にも通った。だが、決して袖を通すことはなかった。オモニは「朝鮮人の魂に着物は着せられん」と順子に自らの心情を語った。数日後、オモニは着物をほどいて座布団にしてしまう。紺色の4隅には7色のセットンがあしらってあった。
(2006.5.10 民団新聞)