掲載日 : [2008-03-26] 照会数 : 3546
北韓の人権改善 正面課題にすえた韓国
[ 2月25日に就任した李明博大統領(写真)は、北韓の人権状況の改善に積極的に取り組むことを表明している
]
[ 南北離散家族問題は南北間の最大の人道・人権問題だ。再び会える保障がなく、別れを悲しむ北側離散家族(昨年10月金剛山で) ]
国際社会と足並みそろえ
「人類の普遍的価値」
積極的アプローチを表明
この10年、「わが民族同士」が強調される中で北韓住民の深刻な人権状況を、韓国政府もなおざりにしてきた。だが、「人類の普遍的価値としての人権」を強調する李明博政府のスタートとともに、再び北韓人権問題に光が当てられようとしている。北韓側が強く反発している中で、北韓の人権状況の改善へ、韓国政府がどこまで持続的に関心を注ぎ、具体的に取り組むのか。南北および海外同胞はもとより、国際的にも関心が集まっている。(編集委員・朴容正)
■□
南北離散家族問題の解決も
韓国政府は3日、ジュネーブ国連欧州本部で開催中の第7回国連人権理事会で人権問題に対する北韓の「行動」を促した。
韓国代表は基調演説で、「韓国は人類の普遍的価値としての人権の重要性に立脚し、北韓の人権状況が改善されていないという国際社会の憂慮に対して、北韓が適切な措置をとることを促す」と表明した。
同時に、北韓の人権に関する国連の活動について、「持続的で重大な人権侵害に対して効果的に対応できる適切な制度を持つべきで、国別の決議案はこれを最も効果的に促す制度だ」と主張、北韓とミャンマーに対する「人権特別報告官」制度の存続を積極的に支持した。
北韓の人権状況調査を担当する国連のマンターポーン特別報告官は13日発表した報告書で、昨年1年間の北韓人権状況について「民衆をおびえさせるために拷問や公開処刑が横行している」と指弾。こうした行為をやめるよう強く求めるとともに、司法と刑務所システムを改善する必要があると勧告している。また「北韓政権が難民が増加する原因を把握し、この過程で起きる人身売買問題を改善しなければならない」と促した。
米国務省が11日発表した「2007年人権状況報告書」は、「北韓は世界で最も組織的に人権を侵害している国家の一つだ」と指摘、「世界最悪の人権侵害10カ国」に指定している。
新政府は「人権は人類の普遍的価値」と明確にしている。李大統領自らが「言うべきことは言う」「人類の普遍的価値の立場からアプローチする」との立場を数回にわたり表明している。さらに「高齢の離散家族の南北自由往来、韓国軍捕虜や北韓に拉致された漁民の問題などを円満に解決することも私の重大関心事だ」と明らかにしてきた。
李大統領は11日、外交通商部で業務報告を受けた席でも「どうすれば北韓住民が幸福に暮らせるかを研究しなければならない。北韓と対峙して南北間の和解に損傷をもたらす考えはまったくない。北韓の人権問題への言及は、対北戦略からではなく、人間の普遍的幸福基準に基づくものだ。人間はどこに生まれようと最小限の幸福追求権がある」と強調している。
金夏中統一部長官も、記者会見などで、北韓の人権問題について「人類の普遍的価値という次元で北側との会談チャンネルを通じて提起する。韓国軍捕虜、拉北者、脱北者問題は国家的課題として解決したい」と述べ、積極的に解決をめざすことを約束している。
国家人権委でも積極対応へ転換
これまで北韓人権問題について、前政府に同調し「沈黙」してきた、と対北人権団体などから批判されていた国家人権委員会の安京煥委員長は19日、国内紙とのインタビューで「人権委が北韓の人権の実態を調査し、脱北者や北へ拉致された漁夫、戦争捕虜問題について政府に勧告も数多くしているが、このような活動を国民に積極的に知らせられない(過去の)状況があった」と釈明した。同時に「今年は北韓の人権問題(北韓人権改善のための政策活動強化)を国家人権委の6大重点政策課題に含めるなど、より体系的に対処していく計画だ」と力説している。
■□
「反民族的正体さらす」
北韓 李明博政府を初非難
北韓は李明博政府の対北政策を見定めるべく、昨年12月の韓国大統領選挙結果や今年2月25日の李政府発足に関しても一切言及せず、慎重な態度をとってきた。
だが、韓国政府が国連人権理事会で、北韓の人権状況改善措置を求めたことに対し、激しい調子で非難するようになった。
ジュネーブ北韓代表部の参事官は、3日の理事会での答弁権行使で「南朝鮮側は南北関係に否定的結果を招く、そのような無責任な発言に伴うすべての結果に責任を負わなければならない」と主張した。
6日には祖国平和統一委員会(祖平統)が「最近南朝鮮の保守執権勢力は、ありもしないわれわれの人権問題に難癖をつけてきた」とするスポークスマン談話を発表した。談話は「親米事大と売国反族、同族対決に狂った彼らの反民族的な正体を再度さらけ出すだけである」と決めつけ、北韓人権問題への言及中止を要求している。
李大統領を直接名指ししなかったが、北韓が韓国の新政府について公式に言及、非難したのは、これが初めてだ。
北韓当局の対南政策に同調してきた「6・15共同宣言実践海外側委員会」(朝鮮総連が主要メンバーに)も13日に発表した声明で、「南側は国連の舞台にまで人権問題を持ち出し北側を冒涜した」と非難している。
■□
「主体思想」の呪縛いつまで
人命犠牲に「先軍」政治 あるのは支配者の「尊厳」だけ
「人権先進国」と政治宣伝続ける
北韓当局は、これまでも「北の人権問題」が国際社会で提起されると、その都度、「米国とその追従勢力がわれわれの国際的権威とイメージを失墜させ、われわれの制度を揺さぶるためにねつ造した謀略の所産だ」などと主張してきた。
「わが人民は、自主的人間の真の人生の花を咲かせてくれる人権尊重の思想である偉大な主体思想をもっており、人権を実質的に保障してくれる人民大衆中心の最も優越した社会主義制度で暮らす誇り高き人民である」「わが人民は『苦難の行軍』、強行軍を行ったその困難な時期にも社会生活のすべての分野において真の人権を享受してきた」(07年8月17日「労働新聞」編集局論説「帝国主義の『人権』攻勢を断固として踏みつぶそう」)。
あたかも「人権先進国」「人権大国」であるかのような政治宣伝だ。だが、「主体思想」のもとでは、人民大衆は必ず首領(金日成主席死後は金正日国防委員長)の指導を受けなければならない。しかも、首領の権威は絶対的であり、全ての人民大衆は無条件に従わねばならない。そして、団結して無条件に忠誠を捧げなければならず、生命をも投じて擁護・固守しなければならない。
基本的人権は、歴史的に国家権力の勝手な支配に対抗する理念として確立された。それは、「人間が人間であることに基づいて当然有する」一人ひとりに与えられなければならない権利だ。
民主主義は、違った価値観や文化を持つ他者を認めることから始まる。民主国家においては、国家権力は個人の思想および良心(内心の自由)に干渉してはならないことを基本原則としている。それに反して、北韓当局は「主体思想」の名の下に個人に対する全面的干渉・統制を当然視して実行し、身体の自由まで奪っている。
北韓の憲法では、公民の自由な言論やデモ、集会、結社の自由などの保障がうたわれているが、それは文字面だけに終わっている。首領の指示なしに進められるすべての組織、会議、集会は、不法と見なされ弾圧の対象となる。政治犯収容所が全国に12カ所設けられ、15万〜20万人が収監されているという。
住民は、首領に忠誠を尽くす核心階層(20%)を頂点に、動揺階層(60%)、敵対階層(20%)と3分割され、さらに51種類にも細かく規定・差別されている。職業選択、居住移転、移動の自由もなく、日常的に当局の支配と統制、動員の対象とされ、監視下に置かれている。
東ドイツ最後の駐北韓大使だったハンス・マレツキー氏は「金日成親子と国民の関係は、封建領主と農奴の関係だ。北韓国家は、国家全体が強制収容所」だと主張している。
日本からの北送同胞も、特別な政治力や経済力がある者以外は、動揺階層、敵対階層に分類され、規制・差別を受けながら厳しい生活を強いられている。
民主制国家ではありえない飢饉
前述の「労働新聞」編集局論説は「人権は国家自主権により保障される。人権すなわち国権である」と、基本的人権の歴史を全く無視した、そして国際社会の常識からかけ離れた主張を繰り返している。
しかも、同論説では「国力において基本は国防力だ。先軍は真の人権を擁護するための政治だ」とし、金正日国防委員長が体制生存のために唱え推進している「先軍政治」という名の軍事独裁体制を賛美し、決死擁護を何度も呼びかけている。
この「先軍政治」の一環として北韓は、南北間の正式合意である「韓半島非核化共同宣言」(91年12月)に反して核およびミサイル開発を強行し、テポドン発射に続き核実験まで実施、韓半島に新たな緊張を醸成した。しかも、数百万もの北韓同胞が核・ミサイル開発推進の犠牲として餓死した。そもそも人権を尊重する民主的体制であるならば飢餓は起きなかったし、飢饉の常態化もなかった。
この間、過酷な状況に絶えられなくなった10万〜20万にのぼる住民の脱出・難民化と新たな離散家族問題を生んだ。
「敵どもは、人工衛星の打ち上げだけでも数億㌦は優にかかっただろうと言っているが、それは事実だ。私は人民がろくに食べることができず、豊かに暮らせないことを知りつつも国と民族の尊厳と運命を守り、明日の富強な祖国のために資金をその部門に回すことを許可した」(金正日委員長。99年4月22日付け「労働新聞」)。
現代国家・政府は国民のためにあり、国民の生命を守り生活を安定させることが最高指導者の基本的役割としてある。金正日発言は、そのような最重要役割を公然と否定したものにほかならない。「生命の尊重」は人権の基本中の基本であり、その軽視・無視は最大の人権侵害である。
北韓は、韓国側の北韓人権改善要求について、海外の翼賛団体を動員してまで、「2000年および2007年南北首脳会談の合意内容と精神(「わが民族同士」と相互尊重)に反する」と激しく非難している。
だが、同胞愛とその発揮があってこその「わが民族同士」だ。国連をはじめ国際社会が、北韓の人権問題に強い関心を寄せ、改善を求め声をあげている時に、韓国政府が、北側同胞のために積極的役割を果たそうとするのは当然のことだ。
拉北・国軍捕虜脱北者問題等も
北側同胞の人権状況に持続的に関心を持ち、機会があるたびに改善を促していかなければならない。しかも南北間には、依然、一千万離散家族の再会・再結合という最大の人道・人権問題と拉北者、韓国軍捕虜帰還問題などが未解決のままにある。これも、北韓の人権状況と無関係ではない。
言論・表現の自由すらない北韓住民とちがい、自由にものを言える海外居住同胞、それも「南北統一」推進を看板に掲げるグループが、「南側は国連の舞台にまで人権問題を持ち出し北側を冒涜した」などと、北韓当局を擁護し、韓国政府を非難するのは、本末転倒もはなはだしい。
南北の交流・協力推進の本来の意味は、北側をして核開発の放棄を促し、南北間の軍事的信頼と平和体制の構築をめざすと同時に、双方の民主的発展・統一のための基盤の構築にある。
南北同胞と在日を含む海外同胞が切望している南北統一は、「民主的先進国家」の建設である。北側での民主化推進が不可欠だ。そのためにも北韓における基本的人権の保障が急がれる。
北韓の人権状況の改善は、北送同胞の苦痛緩和とも無関係ではない。北韓の人権問題に、在日同胞も、もっと関心を高め、人権保障へ声を大きくしていくことが求められている。
■□
新政府の対北政策 ソ・ジェジン統一研究院先任研究委員
非核化への決断促す
見返りに大規模開発支援
さる2月25日、李明博政府が船出した。「経済再建」を掲げて大統領に当選したが、対北政策に対する国民の関心も少なくない。
李明博大統領は、就任辞で「実用」と「非核・開放・3000」などを強調しながら北韓の積極的な変化を導く政策を展開することを示唆した。
特に南北関係については「理念の基準ではなく、実用の基準で解決していく」とし、「北韓が核を放棄し、開放の道を選択すれば、南北協力に新たな地平が切り開かれる」と述べた。
李大統領が強調した「非核・開放・3000構想」は、北韓が核を放棄し、開放の道を選ぶならば、10年後の北韓の一人当たりの国民所得が3000㌦に達するよう、経済面において積極的に支援することが核心となる内容である。
特に、北韓の一人当たり国民所得3000㌦を達成するためには、北韓において300万㌦以上の輸出企業100社の育成、30万の産業人材の養成、400億㌦相当の国際協力資金の造成、新・京義高速道路の建設、人間らしい生活のための福祉支援などの大規模開発支援を約束している。
ひと言でいうと、李明博政府の「非核・開放・3000構想」は、北韓自らが非核化への決断を促進するための、より大きなインセンティブ提供を明らかにしたものである。
「非核・開放・3000構想」の目標は、北韓の開発を支援し、韓半島においてひとつの経済共同体を実現することである。このような究極的な目標の実現のためには、第一に、核問題の解決と体制の改革・開放が必要であり、第二に、北韓を正常な国家へ誘導しなければならない。
北韓の体制改革・開放化とは、米国及び日本との国交正常化を通じて、北韓を資本主義の国際金融市場に編入することを意味する。これは、北韓が体制維持と経済再生のために求めている政策目標でもあり、6者会談2・13合意に盛られた内容でもある。
また、北韓の正常国家化とは、北韓が人権蹂躙、テロ支援、大量破壊兵器の開発・拡散を行う国であるという汚名を濯ぎ、国際社会の正常な一員として編入させることであり、国際金融機構の活用を可能にし、経済的な自立のための国際的な環境を整えることを意味する。
北韓との関係改善を通じて、鉄道及び道路をロシアにつなげ、天然ガスなど豊かな資源を陸路で輸入するだけでなく、さらには韓国企業の活動舞台を北韓と大陸の北部へと拡大できる。
シベリアへ直接走るTKR‐TSRの連結を通じて、北方からガスなど天然資源の供給を受け、韓国商品の北方への輸出を図ることで、南北経済共同体の実現にも資することができる。
最後に、大統領の就任辞でわれわれが注目すべきものは、李大統領が南北首脳会談をいつでも開催できる、と明らかにした点である。
李大統領が「統一のため南北首脳がいつでも会って、胸襟を開いて話し合うべきだと考えている。その機会は開かれている」と述べ、首脳会談を通じた南北関係の発展に強い意志を表明した。
もはやボールは北韓側にある。北韓が、理念の束縛から離れて実用路線への政策大転換を果たすか、さもなければ門を硬く閉ざした「隠遁の国」で残り続けるのか、北韓の選択に世界が注目している。
去る2月26日に成功裏に行われた「ニューヨーク・フィルハーモニック」の平壌公演が世界にみせるための政治的な行事ではなく、改革・開放の曳光弾(幕開け)になることを期待している。
◇
(大韓民国第17代大統領職引継ぎ委員会統一・外交・保安文化委員会諮問委員歴任)
(2008.3.26 民団新聞)