掲載日 : [2008-04-02] 照会数 : 5398
焼肉ドラゴン 作・演出の脚本家の鄭義信氏に聞く

高度経済成長にわく関西地方都市の片隅で、焼肉屋を営む在日韓国人家族のたくましく生きる姿を描いた、韓日合同公演「焼肉ドラゴン」が17日から27日まで、東京・渋谷区の新国立劇場で上演される。作・共同演出にあたった脚本家の鄭義信さん(50)が、在日の話しをストレートに書いた初めての作品として注目され、5月には韓国公演も控えている。作品に対する思いを鄭さんに聞いた。
在日の家族愛テーマ
生き様 韓・日に伝えたい
「焼肉ドラゴン」の時代設定は1969年から71年にかけて。日本経済が驚異的な急成長を遂げたのは55年から74年までで、「東洋の奇跡」とも呼ばれた。70年には大阪で日本万国博覧会が開催され、総入場者数は日本国内で開かれた万博史上最多となった。
鄭義信さんは作品の背景となるこの時代を「古き良き時代」「美しい時代」というノスタルジーだけではとらえていない。経済成長の影で70年には安保闘争や労働争議が起こるなど、時代の大きなうねりがあった。また万博開催にともなう、大阪国際空港滑走路の拡張工事に在日韓国・朝鮮人労働者たちも各地から集まった。
「関西全体が万博ということで浮かれ気分になり、労働者が集まって活況を呈しました。でも高度成長で活気づいても在日はその当時、職業の選択はありませんでした。その恩恵に預からなかった人たち、そういう裏の歴史みたいな部分をきっちりと描きたいなと思いました」
焼肉屋を設定したのは、在日を象徴する職業の一つだから。そして「新国立劇場を焼肉の煙で一杯にしよう」という理由からだと笑う。
今回、在日を前面に押し出したのは、この作品が日韓合作であったうえに、日本も韓国も在日に対する理解が薄いという思いからだ。「日本人側も韓国側も在日に対する認識があまりありません。この作品は日本でも韓国でも公演をします。在日韓国人の家族の話を通して、在日のありようみたいなものを意識してくれたらいいなという思いがありました」。鄭さんは韓日の俳優たちを集めて自身の生い立ちも話したという。
鄭さんがさらに表現したかったのは家族愛だ。「家族は最も、小さな共同体ですが、時代がどんどん共同体の基盤を日本から奪いつつあります。高度成長という時代の波のなかで、それこそ特急列車に乗っていろいろなものを切り捨てていった結果、今に至るということです。在日の家庭ですけど、それぞれの生き方みたいなものが、普遍的な家族の物語としてとらえてもらえると思っています」
◆ ◆
共同演出を手がける梁正雄さんとは初のタッグ。出会いは2年前になる。韓国人の演出家候補たちに会ったなかで、一番若くて意欲があったと当時の印象について語るなかに、絶大の信頼を寄せているのがよく分かる。
「この物語は在日の歴史の1コマですが、日本ではこういう歴史があって、こういう生き方もあるということを受け止めてほしい」との思いを日本と韓国公演に込める。
〈公演日程〉
17〜27日(21日休演)。上演時間は曜日で異なるため要確認。チケット料金A席4200円、B席3150円。問い合わせは新国立劇場ボックオフィス(℡03・5352・9999)。
■□
あらすじ
高度成長に浮かれる時代の片隅で、「焼肉ドラゴン」の赤提灯が今夜も灯る。店主・金龍吉は太平洋戦争で左腕を失ったが、それを苦にすることなく淡々と生きている。家族は、先妻との間にもうけた2人の娘、後妻・英順とその連れ子、そして英順との間に授かった一人息子。ちょっとちぐはぐな家族たちと、滑稽な客たちで、今夜も「焼肉ドラゴン」は賑々しい。ささいなことで泣いたり、いがみあったり、笑ったり。
そんな中、「焼肉ドラゴン」にも、しだいに時代の波が押し寄せる。
■□
プロフィール
鄭義信(チョン・ウィシン) 1993年に「ザ・寺山」で第38回岸田國士戯曲賞を受賞。その一方、映画に進出して、同年「月はどっちに出ている」の脚本で、毎日映画コンクール脚本賞、キネマ旬報脚本賞などを受賞。98年には「愛を乞うひと」でキネマ旬報脚本賞、日本アカデミー賞最優秀脚本賞、第1回菊島隆三賞、アジア太平洋映画祭最優秀脚本賞など数々の賞を受賞した。さらに01年度芸術祭賞大賞受賞ほかを受賞した「僕はあした十八になる」(01/NHK)などテレビ・ラジオのシナリオでも活躍する一方、エッセイ集「アンドレアスの帽子」なども出版。現在も〈文学座〉〈こんにゃく座〉ほかに戯曲を提供する傍ら、自身も作・演出を務めるユニット〈海のサーカス〉に参加している。07年10月新国立劇場「たとえば野に咲く花のように」の脚本を手がける。
(2008.4.2 民団新聞)