掲載日 : [2008-05-14] 照会数 : 4898
<読書>越境者 松田優作 死後20年、蘇える「在日像」
70年代に一世を風靡した刑事ドラマ「太陽にほえろ!」に長髪、ジーンズ、サングラスのスタイルで登場し、ジーパン刑事の役を演じたのが松田優作だ。
この「太陽に…」のレギュラー出演で人気が出始めた73年、優作は帰化申請をした。動機書には「在日韓国人であることがわかったら、みなさんが失望すると思います。特に子供たちは裏切られた気持ちになるでしょう」とある。持てるエネルギーをすべて演技にぶつけてもなお、自己満足しない硬派の顔の下で、彼もまた在日であることの現実に葛藤し続けた一人だった。そのことに痛みを覚える。神経が鋭敏で、細やかな気遣いができる人間には気を許したというのも、「在日に対して優しいか無神経か」を計る尺度からだったのだろう。
名優の金子信雄から無礼な態度を叱責された優作の隣に居合わせたことから一緒に劇団を飛び出す羽目になり、同棲、結婚、長女出産を経験した著者は、暴力事件で逮捕、裁判沙汰で世間から指弾される優作を一途に支えた。が、体をむしばんでいた病魔のことは知らず、離婚後は介護する立場でもなくなった。
差別される場所から逃げたい願望と、スターになりたい夢をバネに、18歳で下関を飛び出し、39歳で人生を疾走し終えた優作への没後20年目の恋文という味わいがある。
(松田美智子著、新潮社1600円+税)
℡03(3266)5611
(2008.5.14 民団新聞)