掲載日 : [2008-10-01] 照会数 : 5649
社会の闇同胞3世がえぐる 戯曲「1945」
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戦争を通して描く戯曲「1945」
演出家と出演2人の思い
世界の一線で活躍する演出家、ロバート・アラン・アッカーマンさん(通称=ボブ)率いる演劇集団「the company」が、敗戦直後の日本の闇市を舞台に繰り広げられる人間模様を描く世界初演「1945」(イチ・キュー・ヨン・ゴー)を上演する。この作品は劇作家、青木豪さんが書き下ろした新作戯曲。多彩なキャスト陣に交じり、光る演技を見せるのが「パッチギ!LOVE&PEACE」のヒロインで脚光を浴び、これが初舞台となる中村ゆりさん、そしてアッカーマン作品の常連で、同団のアソシエイト・アーティスティック・ディレクターも務めるパク・ソヒさんの2人の在日韓国人3世だ。25日から11月3日まで、東京と新潟で上演される。公演を目前に、追い込みに入った3人に思いを聞いた。
抑圧の中の逞しさ
「在日ゆえのパワー」でリアルに
戦争開始の虚実からめ
芥川龍之介の短編小説「藪の中」を元に、舞台を終戦直後の闇市に設定した戯曲「1945」。混乱のさなかで起こった殺人事件を軸に、それを取り巻く登場人物を通して、現代社会の闇を暴き出すサスペンス・スリラーだ。
−−「1945」をタイトルにしたのは。
ロバート・アラン・アッカーマン(ボブ) その年が日本の敗戦の年で、終戦直後の東京の闇市を舞台に、当時の雰囲気や匂いが伝わるようなタイトルにしたいと思ったからです。
−−芥川龍之介の「藪の中」を下敷にしたのは。
ボブ 直接的なつながりは、「藪の中」を原作にした黒澤明監督の「羅生門」です。私は何十年と日本で演劇をやってきました。必ず欧米の戯曲で日本人の俳優を使っていました。日本人が登場するものはありませんでしたが。
そろそろやってみたらと言われたときに、日本の敗戦と現在のイラク戦争とを兼ねることができないかと思いました。イラクに大量破壊兵器があるとか、アルカイダが潜んで活動しているとか、そういうことを根拠に戦争が始まりましたが、何一つとして本当ではなかった。
どんな戦争でも発端を探っていくと、絶対そこに真実ではない話が表れるということで、日本で今起きていることもからめて、この作品が生まれました。
−−コリアンを登場させた理由は。
ボブ パク・ソヒさんと長年、一緒に芝居をやってきて、日本と韓国の関係についての話を彼から初めて詳しく聞きました。いつかそれを描く戯曲もできるといいねという話をしてきました。
敗戦直後という状況のなかで、当時の在日韓国人は抑圧されていたがゆえに、生き延びるために犯罪に走る組織をつくったという歴史的背景がある。私自身もニューヨークで生まれたユダヤ人として、非常にそこは共感できる部分でした。
朝鮮人ギャングの大木襄(チェ・ヤンイ)を演じるパクさんは「1945」には、企画段階から深く関わってきた。
ぼくにしかできない役
−−パクさんは1世のギャング役ですが、役作りで参考にしたものは。
パク・ソヒ いろいろな資料や写真をみたり、祖母の話を聞いたりしました。粗暴のなかにもおしゃれで粋だったり、愛嬌を併せ持っていたりして、悪人だけど人間的にすごく魅力的です。朝鮮人の役を演じるのは舞台では初めてですが、僕にしかできない役だと思って演じます。
−−中村さんの演じる紗耶子は気性の激しい女性です。どんな点がむずかしかったですか。
中村ゆり 当時の女性がきれい事では生きていけない状況に追い込まれていったときに、人間の本性だとか、生きていく逞しさがもろ出しになってこそ、リアルな表現ができると思います。
−−この作品で共演することになりました。お互いについての感想は。
中村 「パッチギ」で初めて一緒になり、心に残っていた俳優です。在日に生まれ、今までは負の要素になっていたこともあったと思う。でも今、自分なりにやっていて負の要素がプラスに変わっている気がします。私たちにしか感じられないことや、自分たちにしかないそのパワーをソヒさんにも感じます。
パク 芯の強い人で彼女を見ていると、オモニたちの顔が見えてきます。コリアンの男にとってオモニは、大きさや強さを感じる存在です。まさに紗耶子役はぴったりですね。
−−最後に作品のPRをお願いします。
頑張る同胞の姿をぜひ
中村 この作品は奥が深くまた、エンターテインメント性が高いので、ご覧になった方々が、がつんと何かを持って帰れる作品だと思います。あとは同胞の方々に、私たちが頑張っている姿をぜひ観てほしいですね。
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公演の日程
〈東京公演〉10月25日〜11月3日(休演日27日)/世田谷パブリックシアター。チケットS席7000円、A席6000円、B席5000円。開演時間は曜日により異なる。チケットは(℡03・3466・0944)問い合わせは(℡03・5465・1656)。いずれもゴーチ・ブラザーズ。平日11〜19時。
〈新潟公演〉11月5日。詳細の問い合わせはゴーチ・ブラザーズ(℡03・5465・1656)平日11〜19時。
(2008.10.1 民団新聞)