掲載日 : [2008-10-08] 照会数 : 5045
南北関係の現状と今後の望ましい方向性(下)
[ 「南北基本合意書」が調印された91年12月の第5回南北総理会談
] [ 6・15共同宣言を発表した00年6月の南北首脳会談 ]
過去10年 韓半島の平和と統一に何がもたらされたか
あるべき関係と政策再整備
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「6・15」見直し不可欠
非核化と並行推進へ
李明博政府 妥当性基準に対北事業
核実験で前提崩壊
では、こうした過去10年の苦い経験を克服するには、どうすべきか。
2000年6・15南北首脳共同宣言は事実において失効、空洞化した。まず、その弊害を明確にし、出直す必要がある。
第1に、北韓の核実験強行で6・15宣言の前提が崩壊したことだ。
初の南北最高責任者の会談で、経済など広範囲な協力に合意した前提は、緊張緩和・信頼構築・交流協力に関する、これまでの南北合意の順守である。核実験は南北非核共同宣言(92年2月発効)の明白な違反だ。南北の信義は破られたのである。
実際に当時の金大中大統領は、首脳会談の呼び水となったベルリン演説(00年3月)で、北韓の道路、港湾、鉄道、電力、通信などの社会資本拡充までを韓国政府が支援する前提として、①対南武力挑発の放棄②核兵器放棄の約束順守③長距離ミサイルの放棄を要求し、韓国国民と対外への公約としたのである。
公約違反という点では、07年に盧武鉉前大統領が署名した10・4南北首脳共同宣言も同様である。核放棄を除外したまま、和解と経済協力の促進を約束した。
金大中氏の私案
第2に、6・15宣言の第2項で「南の連合案と北の低い段階の連邦制案に共通性があり、今後この方向で統一を志向する」として、韓国の確認された統一方案から逸脱したことである。
韓国の公式統一方案は連邦制を排除し、南北連合から単一国家への統一を図ることを明確にしている。
北韓の高麗連邦制案が統一とは矛盾することは、よく知られている。南北の体制を別々にしながら統一の最終形態としているからだ。自分が不利なら北韓体制を温存するという、術策的な分断固定化方案に他ならない。
そもそも6・15宣言のこの部分は、金大中氏の私案である3段階統一案(①南北国家連合②連邦制③単一国家統一)を下敷きにしたものであり、韓国最高責任者が公文書に私文書を忍び込ませて、北韓の策略にすり寄った不当なものである。
統一戦線戦術に
第3に、あたかも統一が始まったかのように大衆をまどわす北韓の統一戦線戦術に華々しく利用され、また、それを容認したからである。
6・15宣言第1項にうたわれた「わが民族どうしだけで」の文言は、6・15宣言記念祝典などの大衆行事で北韓側と韓国の親北派(従北派)によって連呼された。あたかも無条件で対北支援を行うべきであるかのように主張して、素朴な同族感情を利用して大衆を惑わす役割を果たした。
だが、「わが民族どうし」は、北韓への人道支援や非政治的な交流協力には妥当しても、現実の統一のスローガンとしては虚構にすぎない。
自由と民主主義、人権の価値観が通用しない、一人独裁・全体主義体制の北韓とは体制・価値観があまりにも違いすぎる。さらに、1人当たり国民所得で17対1もの格差があり、生活様式も大きく異なる現実では、直ちに「わが民族どうし」となる基盤がないのだ。 こうした分断の冷厳な現実のゆえに、歴代韓国政府の統一方案が示すように、民族共同体の回復を通して段階的に統一を図る必要があるのだ。経済失墜と社会大混乱を回避するためである。
この現実を大衆に隠し、北韓が経済危機をよそに核・ミサイル開発に熱中している事実から大衆の目をそらし、無条件の対北支援に駆り立てる統一戦線戦術。その横行を許さないけじめが必要だ。
買った首脳会談
6・15宣言の弊害の第4点は、6・15首脳会談が疑惑のカネで買った会談であることが明らかになったからだ。
この対北不法送金事件は、首脳会談から2年後の秋から表面化し、国会が任命した特別検事の捜査の結果(03年6月)、首脳会談直前、金大中大統領側近の指示により現代グループを通して首脳会談の代価として5億㌦が不法に北韓側に送金されたことが判明した。
これは大法院判決(04年3月26日)で確定し、判決は「大統領の統治行為」との被告の主張も否定して有罪を宣告した。 そして真相究明の追及を受けた現代娥山の鄭夢憲会長は03年8月、現代社屋から投身自殺した。55歳の若さだった。事件の核心事実を永遠に隠すためだったとみられる。北韓側といかなる取引があったのか、その全貌は未だに闇に包まれている。
なお、盧武鉉大統領・金正日委員長による07年10・4共同宣言も、大統領任期末に行われた実質なき形式的内容だった。特に、財源の権限もないのに、所要資金14兆3000億ウォンともいわれる経済プロジェクトを約束した点で、根本的再検討は免れない。
新政府の原則とは
今年2月に就任した李明博新大統領はこれまで、記者会見などを通して、北韓の非核化の進展に並行して北韓の1人当たり国民所得を3000㌦に引き上げるという「非核・開放・3000」構想を発表するとともに、大要次のような対北韓・統一政策の原則を表明した。
①北韓核問題の解決を優先する=韓半島の平和と東北アジアの安定を南北協力関係促進の前提とする。
②南北協力事業は妥当性を基本とする=北韓の要請に引きずられた、むやみな支援はあり得ない。事業評価を厳正に行い、効果の上がる支援でなければならない。
③韓国の負担能力を土台にした対北支援を行う=韓国の発展なしに対北支援はあり得ない。自己の能力に適合した支援を行う。
④南北関係の改善と対北支援は国民合意の下に推進する=非政治的な人道支援、例えば食糧、医薬品など民生支援を優先させ、大型経済プロジェクトには事業の妥当性と国民合意が必要である。
⑤北韓住民の生活の質を高めるのに役に立つかどうかを基準とする。
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「南北基本合意書」原点に
北住民優先の支援を
「先軍」廃止と人権改善迫ろう
平和・統一の道筋
李明博政府の対北・統一政策は、過去10年間の政策の重大な問題点に照らして極めて妥当な方針といえる。実用主義を掲げる李大統領らしい原則表明でもある。
これに基づいて核問題を結果的に軽視した過去の統一政策、また、任期末に大型事業を約束した前政権の措置は改善されるだろう。
しかし、過去10年間の統一政策の乱脈と、それによる国論分裂を考慮すれば、もう一度原点に返って国民合意に基づく統一政策の再整備が必要ではないだろうか。これまでの統一政策の基本が忘れられているのである。 国民的合意に基づき発表された韓国の統一方案は、韓民族共同体統一方案(89年9月)である。各分野専門家と各階層国民の検討と意見を総合し、国会公聴会を経て大統領が国会で表明した。
この方案の骨子は、「民族成員すべてが主人となる単一の民主統一国家」の樹立をめざして、自主・平和・民主原則に基づき、交流協力により民族共同体の回復と発展を図り、これを安定的に推進するために南北首脳会議をはじめとする協議機構と南北連絡代表部を設置し、やがて南北総選挙によって統一する−−というものだ。
この統一方案に基づいて韓国は南北高位級(総理)会談で北韓と協議を続け、92年2月、北韓との間で南北基本合意書および非核共同宣言を発効させた。南北基本合意書の和解条項では、大量殺傷兵器の除去を含む段階的軍縮の実施を明記している。非核共同宣言はいうまでもなく核兵器を実験せず、持たず、持ち込まず、核再処理とウラン濃縮施設を持たない−−と規定している。
この韓民族共同体方案の骨格は、現在でも南北いずれの立場からみても、妥当である。この骨格を国民合意の原点とし、これを土台に統一政策の一貫性と継続性を維持していくべきだと考えられる。
政策目標の明確化
次に、韓国として対北韓政策の目標を明確化する必要があるだろう。
過去10年の苦い経験が示すように、北韓をして韓国を自己の体制維持に利用しようとする姿勢を根本から改めさせ、民族共同体の回復と発展に真剣に応じるよう、その姿勢を向き直させなければ、どのような対北政策も実効を期待できず、またしても大局を見失い、平和と統一に逆行する結果を招きかねない。
次のような目標が考えられる。
①当然ながら核兵器の放棄推進とミサイル開発の抑制である。これまでのように、言葉では言いながら、実際にこれを推進する手立てを軽視する政策を反復することがあってはならないだろう。
②先軍政治の廃止である。いかに政治的安定のためだと言っても、現実において先軍政治路線は、平和と統一および北韓の経済再建に逆行する。国際的な技術や資本の導入も不可能にするものだ。
③住民生活向上重視の経済再建優先政策である。北韓が現在のような疲弊を続ければ、経済再建の最大の資源である住民の体力と活力が枯渇する。さらに、北韓の子供たちの栄養不良や成長不全が続けば、北韓の将来の活力が失われ、民族全体の将来に重大な打撃となるだろう。
④北韓の自助努力を重視する支援である。北韓は本格的な食糧危機打開策を講じないまま外部からの食糧支援に頼り続けている。また、無償支援や、借款名義だが事実上の無償援助ばかりを継続しては、北韓の自助の決意と能力を高めるのは困難だ。
⑤人権の改善である。現在のような前近代的な北韓の人権状況では、住民生活向上政策の推進力を保持することはできず、経済再建の担い手である北韓住民の活力は委縮するばかりである。
透明化の推進
過去10年の苦い体験は、対北政策・支援の透明化が極めて重要であることを示している。
まず、国民的に確認された統一方案にのっとって、対北支援の目的を明確にし、統一・対北政策をより公開的に進めることが求められる。
次に、対北支援結果に対して、実質ある検証の推進が必要であろう。対北支援が軍倉庫に消え、真に北韓同胞のためになっていなければ、韓国納税者が納得するだろうか。
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李明博政府発足から1カ月後の今年3月29日、北韓は韓国政府職員の軍事境界線往来を拒否して南北対話を中断し、金剛山観光客射殺事件で南北関係は膠着状態となった。
しかし、従来と同様、南北対話と交流協力は必ずや再開されるだろう。 われわれ在日同胞は、北韓の姿勢を転換させ、韓半島の平和と統一に実質的な進展をもたらす統一・対北政策の遂行に積極的に参加し、その一翼を担う決意である。
(民団中央本部平和統一推進委員会・小委員会)
(2008.10.8 民団新聞)