掲載日 : [2003-03-12] 照会数 : 6660
民族学校に公立大受験資格を−民団が要望書(03.3.12)
[ 抗議のため傘下団体代表らと日本文科省を訪問、「要望書」を読む鄭夢周文教局長(左から2人目) ]
「多文化共生社会に逆行」…
民族学校除外に抗議
民団、傘下団体と韓学代表が要望書提出
民団中央本部(金宰淑団長)は各傘下団体代表や東京韓国学校関係者とともに11日、日本文部科学省を訪れ、民族学校卒業生への国・公立大学受験資格付与を見送るとの同省方針に「国際人権規約、子ども権利条約はいうに及ばず、日本の多文化共生社会にも逆行するもの」と抗議、「韓国系民族学校卒業生に大学受験資格を求める要望書」を提出した。
「要望書」は鄭夢周文教局長名義。民団東京本部、婦人会中央本部、青年会中央本部、体育会中央本部の各代表、東京韓学関係者らの見守るなか鄭局長が文科省大学課の亀田徹課長補佐に手渡した。
「要望書」のなかで民団側は、文科省が民族学校への国立大学受験資格付与を見送ったことは「外国人に対する差別事象をなくし、基本的人権を土台に世界の平和と多民族共生をめざす」とした日本政府の閣議決定事項「国連人権教育10カ年計画」に著しく反すると指摘。人種差別撤廃条約との関連からも、文科省の今回の方針を「受け入れられない」と抗議した。
民団側は、文科省が米英両国の3つの評価機関の認証を受けた外国人学校に限り大学受験資格を与えるとしたことにも、「要望書」の中で「アジア蔑視」「時代に逆行するもの」と強い不快感を表明した。
最後に、日本の公立や私立大学の半数以上が独自の判断でアジア系学校卒業生の受験資格を認めている現状に「問題が生じるどころか日本の国際化に寄与していると評価されている」と指摘、すべての外国人学校に受験資格を与えるようあらためて再考を促した。
これに対して文科省大学課の亀田課長補佐は、「総合規制改革審議会からの答申を受けて検討が始まった。検討にあたって特定の外国人学校を除外することはなかった。ただし、答申では『一定水準の教育の確保』がうたわれており国際的に活躍している評価機関の認定に従うことになった。入学資格の見直しについてはこれからも様々な観点から検討していく」と述べた。
政治状況を反映 冷静な判断欠く
宋基泰さん(61)=京都韓国学園副理事長=イラクや北韓情勢の余波を受けて正しい判断を見誤ったのでしょうね。古い時代の精神構造に逆戻りしたようで残念です。緊張状態が過ぎて冷静になれば、文科省としても民族学校を認めなかったことを恥ずかしく思うときが来るのではないですか。教育はいろんな分野で誰にも平等にチャンスを与えるべきです。時の政治状況でくるくる変わるのはバランスに欠く。
民族知る権利奪いかねない
金容海さん(75)=中央民族教育委員会委員長=拉致問題があるにせよ民族学校排除は在日の一員として許せないこと。これでは自分の民族を知る権利を奪いかねない。文科省は民族学校が教育水準向上のため真剣に努力している実態を調べたのか。非常に憤まんやるかたない。
民族学校排除の合理的根拠示せ
朴一さん(46)=大阪市立大学教授=文科省の本音は「教育水準」ではない。北韓を取り巻く政治状況の反映ですよ。朝鮮学校の教育課程はここ数年大きく変わった。朝鮮学校のほうがインターナショナルスクールよりもずっと日本の教育課程に準拠しています。大検がなくても立派に日本の大学を突破する能力も持っています。文科省は民族学校を排除するなら、説得力ある根拠を示すべきだ。
子どもたちの夢を摘む決定
朴正恵さん(60)=大阪府民族講師会共同代表=民族学級に通う子どもたちはより民族的なものを学びたいと、夢をふくらませながら民族学校へ転校していく例も多い。もし朝鮮学校であれば、その時点で将来の夢をかなえるうえで一定の制約を受けてしまうと思う。そこが教育にたずさわるものとしていちばん腹が立つ。
在日同胞側の働きかけ必要
金末美さん(41)=千葉、主婦=昨年、民族学校にも受験資格を認めるとの報道があっただけに東京韓学に通う高校2年の次女は納得いかない様子でした。日本はなんでも欧米優先。インターナショナルスクールに限って認めるということですが、これも納得いきません。もっと私たちが一致団結して文部科学省に働きかけていかなければならないと思います。
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文科省への要望書 全文
貴省の「規制改革推進3ヶ年計画」の一環として、大学受験資格について「インターナショナルスクールは認め、その他の外国人学校は認めない方針」との報道に、私たち在日韓国人は、驚き、憤り、そして哀しみを持って受けとめました。
私ども韓国系民族学校の4校の内、2校(大阪に設置されている白頭学院と金剛学園)は一条校として認可を受けており、残り2校(東京韓国学校と京都韓国学校)は、各種学校ではありますが、日本の高等学校教育に準じた教育をしてまいりました。
ご存知のごとく、韓日国交正常化のおり、教育差別の状況に対して、日本政府は「日本人と同様の機会を確保する」という趣旨に沿って、就学案内の発給や外国人教師の採用などがなされてまいりました。
また、スポーツ大会など様々な差別状況の改善もなされました。さらに、日本の公・私立高校に次々と韓国語講座が開設され、センター試験科目にも採用されるなど、大いに意を強くして来たところでありました。
特に、貴省が中心となり、日本全国で押し進めておられる「外国人に対する差別事象をなくし、基本的人権を土台に世界の平和と多民族共生をめざす国連人権教育10カ年計画」は8年目に入り、着実に成果をあげておられ、私どもも地域住民の立場から歓迎し、積極的に係わってまいりました。昨年には、幼少の頃からの民族的自覚を培うために私どもが実施しました「オリニ(子ども)・ソウル・ジャンボリー」にもご後援を頂く等、貴省の施策の幾つかにつきまして高く評価をしてきたところでございました。
そのような立場から、私どもの前述しました2校につきまして、今回こそは、大学受験資格が与えられるものと期待を抱いてまいりました。
しかし、私たちの願いは空しい期待となってしまいました。貴省の今回の決定は、新たな差別を生み出すものとして受けとめざるを得なく、貴省のこれまでの取り組みの経緯と日本社会の動向から、私たちは受け入れることができません。
まず、第一に、日本政府が95年12月に閣議決定を行い、内閣に人権教育のための国連10年推進本部を設置し、「教育は人間の人格の完成並びに人権及び基本的自由の尊重の強化を志向する」と確認したこととに著しく反する決定と指摘せざるをえません。日本国も加入しております「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約(人種差別撤廃条約)」の中で「締約国は、人種差別に導く偏見と闘い、諸国家間及び人種的又は種族的集団の間における理解、寛容及び友好を促進し並びに国際連合憲章の目的と原則、世界人権宣言、あらゆる形態の人種差別撤廃に関する国際連合宣言、及びこの条約を普及させるために、特に授業、教育文化、及び情報の分野において即時、かつ効果的な措置を取ることを約束する」と述べていることにも抵触するのではないでしょうか。
第二に、国際機関とはいえ、民間評価機関の認定を受けたインターナショナルスクールの卒業生の受験資格を認め、他方、国家(政府)の承認を受けているアジア系学校の受験資格を認めないというのはアジア蔑視以外の何ものでもありません。第2次世界大戦後、日本政府は戦前の政策を深く反省し、アジア諸国との様々な条約によって、歴史認識をはじめ「理解、寛容及び友好を促進」していく努力を重ねて来られた事と承っておりますが、今回の決定は、それらの努力に逆行するものとして到底、容認できるものではありません。
第三に、私たちは、かつて日本の韓国侵略と植民地支配の結果、渡日と居住を余儀なくされた在日韓国人であります。戦前は民族蔑視と同化政策のもとにあえぎ、戦後は、引き続き排除と同化の最中にあって民族教育の弾圧を受けるなど、日本の歴史の負の証人であります。それ故に、私たちは韓日両国の過去の不幸な歴史を繰り返してはならないとの思いから、歴史の痛みを共有し、韓日友好親善の架け橋的役割を担ってきました。現在、日本の公立や私立大学の半数以上は独自の判断で、アジア系学校の卒業生に対する受験を認めており、そのことにより、問題が生じるどころか、かえって彼等が地域社会に貢献していることから日本の国際化に寄与していると評価されております。
その私たちの努力を踏みにじるたけでなく、未来の韓日関係を築く、私たちの子ども達をも切り捨てることは、国際人権規約、子ども権利条約は云うに及ばず、日本の多文化共生社会にも逆行するものと指摘せざるを得ません。
以上の点から、貴省の今回の決定に対し、在日韓国人の総意をもって抗議の意を表明するものであります。そして、改めて、人権と平和の時代、21世紀をめざすには教育において他に無い事を強調させていただき、外国人学校に新たなる枠を設置するのではなく、すべての外国人学校に受験資格を与えるよう、再度、誠意ある対応を心から要望するものであります。
(2003.03.12 民団新聞)