フラッシュ同胞企業人<32>1点ものを手づくり
特注熱交換器のフィンを製作
孫製作所の孫生吉代表
コンビニの冷蔵庫は店舗によって大きさが違うため、特注にならざるをえないが、そのコンビニの冷蔵庫や航空機、レーシングカーなどの空調に使われる特注ラジエーター(熱交換器)のフィンを製作する。
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注文多い試作品
「1点ものを手作りで仕上げる。新商品の試作品など、特別な用途に使われるものが多い。かつてライバルは5〜6社あったが、今では当社だけが生き残り、細々とやっている」
100坪近い工場には、時代を感じさせるプレス機が2台(45トンと50トン)置かれている。「30〜40年前に購入したもの。これも特注だったので、同じものはない。工場長の手入れが良いのか、故障せずに持ちこたえてきた。集中力が大事で、この40年間、大きな事故やけががなかったのが幸いだ」
フィンの材料はアルミニウム。「薄く、曲がりやすい。トンカチ1本で叩きながら傷つけないように成型していくのが技術力。どんな仕事にも対応できるのが当社の強み」と強調する。
「すぐにやってくれ」と持ちこまれる、緊急の仕事は日常茶飯事だ。中には、「今日中に仕上げてくれ」と、トラックを停めたまま、出来上がるまで待つケースもあるという。
父親の閏斗さん(81)が借金のカタに工場をそのまま譲り受け、新たに「孫製作所」の看板を掲げたのが1967年。当時は受注量にあわせて技術者も多かったが、現在、40年を超すベテランは工場長のみとなった。
社員はパートを含め数人で、年間の売上額は3000万円ほどに減少した。
16年前、父親が体調を悪くしたので、飲食店関係の仕事を辞め、代わって工場を任された。
「仕事がいつ入ってくるかわからず、予定が立たないのは、昔も今も同じ。しかし、特注の材料はすべて持ちこまれるので、工賃の効率性はよい。在庫が不要なことと、競争相手がいないのが強み。不況のなかで受注量は減っているが、それでも必要とされる顧客がいるので、なんとか持ちこたえたい」
この地域は宅地のため、本来ならば工場を建てることはできない。宅地としての法律が施行される以前から開業していたので、特例として唯一認められた。しかし、立て直しはできないという。
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本名社名に誇り
「孫製作所」の看板には、並々ならぬ愛着心を示す。「社名を見ただけで、日本人でないことはすぐわかる。父親の生きざまのシンボルと言えるかも知れない。自分も本名を通してきたが、年齢を重ねるほどにその価値が理解できるようになった」と思いを語った。
青年会東京本部の会長を5年間務めた。「昼間は仕事をしながら、もっぱら夜に青年会の仕事をした。多くの同胞と交流できた点、いい体験だった」
◆(株)孫製作所
〒213‐0034 川崎市高津区上作延541
(TEL 044-866-5507)
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1967年東京生まれ。法政大学第二高校卒。飲食店経営などを経て、(株)孫製作所を引き継ぐ。元青年会東京本部会長。
(2009.2.4 民団新聞)