掲載日 : [2009-03-11] 照会数 : 8208
「白磁の人」映画化へ 韓・日・在日で製作委
[ 朝鮮の壺を手にとる浅川巧を紹介するパネル説明文と遺品(北杜市浅川伯教・巧兄弟資料館) ]
植民地下の韓国で慕われた浅川巧を共同顕彰
【山梨】日本の植民地統治下の韓国で朝鮮朝時代の陶磁器や家具などの民芸に独自の美を見いだすなどの業績を残し、多くの庶民から慕われた浅川巧の人間像をテーマにした劇映画「白磁の人」(同制作委員会、神山征二郎監督)が韓、日、在日3者の協力で制作される。
鄭進民団団長が制作委最高顧問
小説『白磁の人』映画制作委員会(代表、長坂紘司)は05年1月、浅川巧の出身地である山梨県知事をはじめ、県内外の文化人や実業界からも多くの賛同者を得て発足した。今年2月には民団中央本部の鄭進団長が制作委最高顧問に加わった。文化庁や外務省も側面的な支援を約束している。
韓国では06年3月、制作委員会(崔季煥代表)を発足させた。これで韓・日・在日3者が共通の目的で制作にあたるという態勢ができたかっこうだ。中心となって呼びかけたのはソウル市忘憂里共同墓地に眠る浅川巧を守ってきた趙在明さん(山林文化研究院長)。
原作は江宮隆之さんの小説「白磁の人」(94年河出文庫)。神山征二郎監督がメガホンを取り、6月から韓国で撮影を開始する。「県民映画」をめざし、制作費約2億5000万円の多くは一般市民からのカンパでまかなう。上映は韓国併合100年の節目にあたる2010年を予定している。
映画化が動き出すまでには、二人の在日同胞2世の下支えが大きな役割を果たした。一人は松本市在住の李春浩さん。李さんは5年前から映画化を夢見て独自に山田洋次監督に働きかけてきた。最終的には実現に至らなかったものの、制作委員会事務局では「ホタルの火を灯した」と今も高く評価している。
「夢のまた夢」とされた映画化を実現させたもう一人の立役者が、浅川巧の出身地、高根町清里(現在は北杜市)で浅川巧を慕う全国の有志に呼びかけて毎年、「清里銀河塾」を主宰している河正雄さん。
河さんは、同町が地元に建設した浅川伯教・巧資料館に高麗白磁と朝鮮白磁の復元に生涯をかけた人間国宝、池順澤氏の大作を寄贈した。資料館関係者は「その大作の寄贈なくして資料館の設立はありえなかった」とも話している。
二人とも「韓日の垣根を取り払い、新たな友情を確立したい」と、映画制作の呼びかけ人に加わっている。この思いは制作委にも引き継がれている。事務局長の小澤龍一さん(元山梨県生涯学習センター所長)は「浅川巧の精神を現在に呼び戻し、最も近い隣国との間に新たな懸け橋をつくりたい。それは国家の陰影に蝕まれた近・現代史を紐解きなおす一里塚でもある」と話している。
映画はシネカノンが制作・配給する。制作委員会では「山梨県民が誇れる県民映画」として全国で上映運動を展開していく。出演俳優など主要キャストは14日、制作記者会見で発表される。制作委事務局は同資料館内(℡0551・42・1447)。
浅川巧とは 1914年、朝鮮総督府商工部山林課林業試験所雇員として渡韓。韓国語を学び、白磁ばかりか箪笥、膳などの木工品、童話、童謡、料理まで様々な民俗文化を研究した。『朝鮮陶磁名考』『朝鮮の膳』などは名著として評価が高い。関東大震災時の朝鮮人虐殺の報道には「とうてい信じられない。朝鮮人を弁護するため東京に行きたい」と日記に書き記した。1931年、40歳で死去したときは多くの韓国人が棺を担ぎ、別れを惜しんだ。
(2009.3.11 民団新聞)