掲載日 : [2009-04-01] 照会数 : 5749
<民論団論>遅すぎた邂逅に涙
田口耕一郎氏と金賢姫の2人
不幸なままで終らせてはならない
洪栄基 民団埼玉・西部支部副団長
09年3月11日12時、テレビニュースを見て、本日この時刻をしっかり記憶する。
30年前、北韓権力による日本人拉致被害者、田口八重子さんの子ども、田口耕一郎さんが母の消息を知りたいと、金賢姫(キム ヒョンヒ)元工作員に初めて会う場面である。彼は今31歳、田口八重子さんが行方不明(拉致)の時は1歳の赤ん坊であった。金賢姫が抱きしめたいと、耕一郎さんをやさしく抱擁し、親子のように腕を組む姿に、この世の人情は熱い涙をながした。不幸な運命が不運の運命を暖かく抱きしめたのだ。
だが、私は一言、怒りたい。不幸な金賢姫がこの地に一人の人間として生まれ、今は自由の国、韓国に住んでいるのに誰が彼女の手や足を縛り、言論の自由を奪ったのか、ということだ。乳のみの赤ん坊が瞼に映り、涙で夜も眠れぬ母に代わり、その赤ん坊に母親の話を聞かせてあげたいのに、だ。
一方の耕一郎さんは金賢姫に会い、お母さんの顔立ちなりとも聞きたい、知りたいと願い、5年もの長い間、手紙でお願いを重ねたのに、なぜ、5年もの長い歳月が必要だったのか!
われわれ庶民たちは、日本と韓国を向う三軒両隣のように往来しているのに、なぜ、彼らの願いは叶えられなかったのか! 時間がないわけでもない、旅費がないわけでもない。だったら何が彼らの自由な面談を妨害したと言うのだ。
私は日本に住んでいる韓国人の一人として、納得がいかない。北韓の独裁者たちは嘘も我らの式、貧乏も我らの式、これが偉大な主体思想と国民を欺瞞しているが、大韓民国の民主主義も、我らの式にさせたと言うのか!
昨年秋、ソウルのある講習会場で黄長先生の祖国統一に関する講演をお聞きした。民族分断の解消と祖国統一の名のもとに、自分の全てが封じ込められたとは。自由民主の国、大韓民国が…軍事政権と戦い抜いた大統領様が…と思うと、情けなくため息をついた。
太陽の光が注がれていた。人民たちへの光のはずが、独裁権力を温めただけではないのか。北韓の人々の真実の叫びを退けた政治博士様たちに、私はお尋ねしたい。国民の苦労と汗をかき集め、ノーベル平和賞までいただきながら、太陽政策はどこに注いだのですか? 金剛山も自払いで観光し、開城工業団地もわが業者が金を払い設備をした。北韓の権力に与えた太陽の恩恵は何だったのか。核兵器による脅迫とミサイルを飛ばすとの恐喝が恩返しなのでしょうか。
北韓権力の心の内を、DNAまでも知り尽くした、黄長先生や金賢姫元工作員の真実の叫びを聞かず、国民の税金を無駄使いした以前の大統領様たちを問いたい。北韓の独裁政権に与えた莫大な財の一部を、死の峠を越え脱北してきた彼らに与え、彼らの北韓改革・開放運動を応援していたなら、祖国統一への動きはより進んでいたと思うからだ。
私は願う。黄先生も金賢姫も、これからこの国の統一のため、世界平和のため力を注いでくださることを切に願う。世界の人々は、あなたたちの勇気に励まされ、あなたたちと同じ未来を見て、あなたたちを応援し、ともに歩いています。
(2009.4.1 民団新聞)