掲載日 : [2009-04-15] 照会数 : 9107
「つくる会」歴史教科書阻止へ 共同アピール
[ 自由社版教科書の記述内容を批判する各団体代表 ]
自由社版検定合格 3度目の採択戦に奮起
「新しい歴史教科書をつくる会」(藤岡信勝会長)の主導した中学校歴史『新編・新しい歴史教科書』(自由社版)が9日、文部科学省の検定に合格した。同教科書の記述は、偏った歴史認識で近隣諸国から強い批判を浴びた現行の『改訂版・新しい歴史教科書』(扶桑社版)の内容をほぼ踏襲した。「つくる会」としてはこれが3度目の挑戦。今夏の採択阻止に向けて、歴史学会、教育界、市民など関係35団体は同日、共同でアピールを発表した。
自由社版『新しい歴史教科書』は文部科学省から516カ所におよぶ欠陥を指摘され、一度は不合格となった教科書。この大部分はごく単純な誤記・誤植だったという。「つくる会」では、「コンピューターの誤作動」(同FAX通信)を原因としている。再申請でも136カ所に意見が付いたが、すべて修正して合格した。
9日、中央大学駿河台記念館で共同アピールを発表した各団体の代表によれば、自由社版と現行の扶桑社版の記述項目は約9割がほぼ同じ。本文も写真や図版、導入部と側注を除けば、「小手先の改訂」にとどまっている。特に第4章の近現代史に関する記述部分で顕著だという。
例えば、清日・露日戦争以降の日本の戦争を美化・正当化、アジア太平洋戦争を「大東亜戦争」と呼ぶなどしている。これはアジア解放に役立った聖戦との立場に立つもの。韓国併合・植民地支配への反省はなく、むしろ正当化する内容だ。各代表は「これまで積み重ねてきた歴史研究、歴史教育に真っ向から対立するもので、学校現場への持ち込みを絶対容認できない」と語気を強めた。賛同団体の一つ、青年会の代表も「自由社版が文科省の検定を通ったが、現行の扶桑社版も含め絶対に採択を許さないとの立場を貫徹していく」とあらためて表明した。
扶桑社版「つくる会」歴史教科書は01年、公立中学校採択地区でゼロ。05年には東京都杉並区と栃木県大田原市で採択されたが、全国的には0・39%という低い採択率に終わった。このことが06年の「つくる会」内紛・分裂の主な原因になったともいわれている。
つくる会の「3度目の挑戦」を阻止するため、一部市民グループは3月26日、教育委員会に提示する採択候補のリストに2冊とも載せないよう文科省に請願書を提出した。杉並区と大田原市など、すでに扶桑社版を採択している自治体に対しては、今後あらためて取り消しを求めていくという。
扶桑社版も継続発行
中学校教科書の採択年にあたる今年、自由社版『新編』と併せ、二つに分裂したもう一方の八木秀次氏(高崎経済大学教授)を中心とする「教科書改善の会」でも、扶桑社の子会社の育鵬社から現行の『改訂版』を継続発行する異常事態となっている。
2種類の教科書はいずれも「代表執筆者・藤岡信勝」で、内容もほとんど変わらない。藤岡氏は現行の扶桑社判について2010年度以降の出版差し止めを求め、東京地裁で争っている。
一方、扶桑社でも「同一内容の教科書は著作権法に抵触する」と述べており、今後の訴訟いかんではどちらかが教科書を発行できなくなる可能性もある。
扶桑社は「教科書は執筆者、監修者、出版社が著作権を有する共同著作物。当社は(平成)22、23年度の教科書を引き続き発行し、教科書発行者としての責任を全うしたい」としている。
(2009.4.15 民団新聞)