掲載日 : [2009-07-01] 照会数 : 14834
宝塚トップから女優への旅立ち 安蘭けいさん
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ルーツを 常に忘れずに
今年4月、宝塚歌劇団星組トップスターから退団した在日韓国人3世の安蘭(あらん)けいさんが、女優として新たな一歩を踏み出す。デビュー作となるのは、2003年に主演した宝塚歌劇の「王家に捧ぐ歌」をミュージカル化した「The Musical AIDA」(東京公演8月29日〜9月13日、大阪公演9月18日〜10月4日)。初演から6年を経て新生アイーダ役に再び挑む。
思い出の役 再び
同胞の期待に応え「新しい私を」
「宝塚という看板がなくなって、ちょっとすっきりした感じもありますが、でもまだ宝塚に身をおいて、休んでいるという感覚は残っています」。退団から2カ月経った取材当日、安蘭さんは開口一番にこう語った。稽古は今月に入ってから。つかの間の時間をのんびり過ごしていた。
1991年、宝塚歌劇団に入団。月組公演「ベルサイユのばら〜オスカル編」で初舞台を踏んだ後に雪組、00年に星組に組み替えした。星組トップ就任は06年11月。
女優デビューを飾る「The Musical AIDA」のアイーダ役には思い入れがある。03年に上演されたオペラ「アイーダ」を原作とした「王家に捧ぐ歌」は、エジプトの若き将軍ラメダスと、宿敵エチオピアの王女アイーダの命をかけた永遠の愛を描き、月刊「ミュージカル」誌の年間ベスト・ミュージカル第1位に選ばれた。
さらに文化庁芸術祭優秀賞を受賞、美しいソプラノと優れた演技力でアイーダ役を熱演した安蘭さんは、宝塚歌劇団の現役ジェンヌでは初の松尾芸能賞演劇新人賞を受賞した。安蘭さんを代表する作品の一つといわれている。
「大好きだった役だから、もう一度できるのが嬉しい。でも今度は相手が男性なので不安というかワクワクです。共演者が変わることで、これまでとは違うアイーダができあがればいい」。その大きな瞳に輝きが増す。
宝塚に19年在籍した。常に心がけてきたのは「初心忘るべからず」。長くいると、舞台に立つ生活が「当たり前」になってくるが、その「当たり前」の感覚に慣れようとは思わなかった。でも、何かあるたびに思い出したのは「好きだから宝塚に入ってきた」という気持ち。振り返ることで、ぶれそうになる自分の意識を改めた。
宝塚時代に得た宝物は仲間と礼儀。特に宝塚音楽学校の礼儀作法や規律の厳しさは有名だ。89年に同校入学。礼儀作法の厳しさを経験している。この礼儀作法が、舞台で役立つことを後に知る。宝塚の95周年の長い歴史のなかで、諸先輩たちから受け継がれてきた礼儀という伝統の重さに思いを馳せる。
受け継がれた尊い命大切に
「あいさつや上下関係などについて勉強しました。でもそれは宝塚でなくても韓国にも、日本にもその国の礼儀はあります。それを自分たちで守って残していくことは、その国を大切に思い、発展させていくことにつながっていくのでは」
安蘭さん自身「韓国の血は忘れたくない」ときっぱり。「今、自分が存在するのは、祖先から受け継がれてきた尊い命のおかげ。このことは分かっていたい」
そんな安蘭さんを見守ってきた在日同胞のファンは多い。これまでにも「勇気をもらった」など数多くの手紙が届いた。
「宝塚を辞めたことでがっかりされたファンはいますが、私の決めたことには納得してくれています」。今も頑張れコールは続々と届いている。
「トップになるという夢を達成することはできたけど、それは簡単なものではなかった。私が夢見ていたものは、本当に大きかった」。これから女優として、いろいろなことにチャレンジしたいと思っている。
「男役から女性に変わる第1作目です。その後、どのように変わっていくかは分かりませんが、私が変わっていく段階を見ていただきたい」
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来月から東京・大阪で
東京公演=8月29日〜9月13日/東京国際フォーラムホールC。前売り開始7月19日。
大阪公演=9月18日〜10月4日/梅田芸術劇場メインホール。前売り開始7月26日。いずれも問い合わせは梅田芸術劇場(℡06・6377・3800)。
(2009.7.1 民団新聞)