掲載日 : [2009-09-16] 照会数 : 7230
<寄稿>結成から30周年迎えた全外教
「民族名を呼び、名のる」、進路保障実現へ
地をはう実践いまも
全国在日外国人教育研究協議会(以下、全外教)は本年結成30周年を迎えた。この間、日本の学校に通う子どもたちが持っている歪められた韓国・朝鮮観を正し、教育全般を通して「本名(民族名)を呼び、名のる」ことに取り組み、さらに子どもたちの進路保障を実現するために「国籍条項」などの差別撤廃を訴えてきた。この30年間の成果も多いが、民族差別の壁はまだ学校現場に残っている。(寄稿 小西和治)
報告集891本
在日外国人教育に関わる各地の実践と運動は過去30回の全外教研究集会で論議され、報告されてきた。研究集会の名称は発足時の「在日朝鮮人教育研究全国集会」から2段階の変化の後、03年に現在の「全国在日外国人教育研究集会」と改められた。
そして、過去の研究集会で発表された891本の全レポート内容が発表年度・分科会別に一覧表にまとめられ、全外教研究所発行の「研究紀要 在日外国人教育NO.2」に掲載された。これらのレポートは地をはうような貴重な実践の記録であり、現在の在日外国人教育に多くの示唆を与える箴言的な役割を果たすものであろう。
全外教設立以後30年間で、在日外国人の子どもを取り巻く状況は着実に変化してきた。日本社会には、差別と排外の壁が存在し、就職差別の厳しい現実があった。全外教は、各地の民族差別撤廃運動と共にこれらの壁に風穴をあけ、企業への就職や公務員採用(国籍条項撤廃)を勝ち取り、子どもたちの未来に展望を与えてきた。
全国の公立小・中・高校に勤務する外国籍の常勤教員数は、88年には50人にすぎなかったが、97年には98人、08年には215人に増加した。91年の韓日覚書によって、全国的に外国籍者教員登用の道が開かれたのが増加の原因だ。
残る排外と差別
しかし、外国籍教員が一人もいない自治体がいまだに存在し、絶対数も不足している。また、外国籍教員は日本人の教諭に指導される常勤講師で、教諭より一段下の「下級教員」であるという差別が教育現場に持ち込まれた。
本名(民族名)で通学する在日コリアンの子どもの率も増えてきているが、全国的に見ると、まだ80%以上が通称名で通学せざるを得ない状況が残っている。最近、外国籍の子どもが海外修学旅行に参加できなかったという証言がよせられた。学校や旅行業者の在日外国人の存在への理解不足と、パスポートやビザについての基礎知識不足がその原因である。
これらの状況に対して全外教は、結成以来の「本名(民族名)を呼び名乗る」教育実践は勿論のこと、具体的な諸課題の解決に向けての努力を続けている。今年度、外国籍の子どもの海外修学旅行がスムーズに行われるよう、「外国籍の子どもの海外修学旅行・研修旅行Q&A」というパンフレットをJTB(日本交通公社)と協力して刊行した。
12月に記念集会
また、在日外国人員差別の解消を目指す日本弁護士連合会への人権救済申し立てを全面的に支援し、差別撤廃の歴史を振り返るために本年12月12日午後、同志社大学新町キャンパス臨光館で、全外教30周年記念 反差別・多文化共生社会をめざす集い‐シンポジウム「外国籍教員任用の現状をめぐって」を開催する。日本教職員組合等の後援を得たこの集会は、当事者の声を聞き問題解決の道筋を明らかにできると期待している。
今、日本社会は大きな曲がり角にさしかかっている。政権交代の一方で社会そのものの右傾化・国粋主義化も進んでいる。そして、在日外国人教育・多民族多文化共生教育に取り組む教員は全国的には、まだ圧倒的に少数である。
教室では、韓国・朝鮮籍を持つ子どもの数は逓減気味であるが、ニューカマーや外国にルーツを持つ日本国籍の子どもは大幅に増加している。全外教が30年間の歩みの中で獲得してきた、在日コリアンを中心とする外国人教育の質を新しい状況の中でどう継承発展させていくのかは緊急課題である。
日本唯一の在日外国人教育全国組織の果たすべき役割はますます重大になっていくであろう。全外教研究所も、在日外国人の子どもたちに寄り添い、共に生き生きと学べる学校の創出を目指す教育実践や運動を側面的に支援できるよう、その活動を充実させていきたい。
■□
プロフィール
こにし・かずはる 1946年生まれ。元兵庫県立高等学校教員、コリアンカルチャークラブ顧問。91年以後、全朝教(現全外教)運営委員・役員。高校定年退職後の現在は全国在日外国人教育研究所で事務局長、私立大学で非常勤講師も。
(2009.9.16 民団新聞)