掲載日 : [2009-10-28] 照会数 : 5156
「残忍な再会」いつまで 離散家族を道具にする北韓
[ 再会を果たせずに多くの離散1世が亡くなった。高齢化で時間との闘いとなっている
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[ 3日後の離別。現行再会方式では、対面した家族が再度会うことはできない ]
南北分断と6・25韓国戦争(1950年〜53年)によって派生した離散家族は約1000万人。その再会問題は、最優先的に解決されなければならない南北間最大の人道的問題である。韓国は16日に北韓・開城で行われた南北赤十字実務接触で、先の秋夕離散家族再会行事(9月26日〜10月1日)に続き、11月にソウルと平壌で交換再会行事を、来年の旧正月ごろに金剛山で再会行事を、それぞれ行うことと金剛山の離散家族面会所の正常運営化などを提案した。だが北韓側は、「離散家族の再会を実施するなら相応の措置が必要だ」として、「見返り」を要求し、再会事業の継続実施に合意しなかった。
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南北協議開始から37年
対面者は2万人のみ 〞完了〟に後80年かけるのか
現在、離散家族が自由に再会したくてもできない同族国家は、地球上で唯一韓国・北韓だけである。秋夕や旧正月に全人口の半分が帰省する韓国で、離散家族は行くことのできない故郷と60年以上も再会できない家族を思い、悲しみを募らせている。
高齢化する1世 時間との闘いに
1千万人といわれてきた南北離散家族のうち、これまで再会を果たしたのは、南北首脳による6・15共同宣言(2000年)後に実施された計17回の再会事業でも約2万人(家族・親戚含む)にすぎない。高齢化によって再会を果たせずに亡くなる家族が後を絶たず、残り少ない時間との闘いとなっている。
大韓赤十字社によると、88年からこれまでに再会を申請した12万7547人中、約3分の1(4万1195人)が死亡した。残る生存者8万6000余人も、そのほとんどが高齢者だ。90歳以上4000人、80代が2万8000人、70代が3万3000人。
再会の機会を待ち続けて最終的に夢を果たせなかった同胞の数は、南側だけでも07年に4303人、08年5626人と毎年増え続け、今年は6000人を上回ると予想されている。
南側抽選競争率は800倍にも
これまでのように、北側の事情により再会行事ごとに南北が選抜したそれぞれ100人が相手側家族・親戚と会うやり方には限界がある。現在再会を待つ南側の8万余人は800対1の競争をくぐらなければならない。行事参加者の規模が小さすぎるだけでなく、行事そのものが不定期で継続するかどうかも不透明だ。今回の再会行事も約2年ぶりの実施だった。
秋夕再会行事の参加対象者に選ばれなかった75歳の韓国在住者が、悲観のあまり列車に飛び込み自殺する事件も起きている。自殺事件は今回が初めてではない。
今後、仮に毎年1000人ずつ再会を果たしたとしても、韓国にいる8万余人の申請者全員が夢を果たすには80年の歳月が必要という計算になる。だが、10年後には再会希望者は何人残っているだろう。
南北離散家族の再会問題は、72年の「7・4南北共同声明」に基づき、同年8月に南北赤十字間で正式に協議が開始された。再会が実現したのはそれから13年も後の85年9月。解放40周年を期して南北からそれぞれ50人が平壤とソウルを相互訪問した。それも、1回だけで継続されなかった。
その後2000年8月、6・15共同宣言(第3項=人道的問題を早急に解決していく)に基づき、15年ぶりに平壤・ソウル同時相互訪問の形で家族対面が再開された。
02年4月からは、北側にある金剛山地域を会場とする形式に変更され、何度か中止・延期を繰り返しながら行われている。南北双方は07年11月の第9回赤十字会談で、今後は毎年双方から400人ずつ再会申請を受け付けることで合意したが、履行されていない。
平均年間2回もない機会(9年間17回)に各100人ずつ会う現行方法では離散家族問題の解決が不可能なことは明白だ。
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北側監視下の2泊3日
言葉だけ「自由往来」 書信の交換すら守らず
家族同士の宿泊未だに許されぬ
家族再会行事は、2泊3日(当初は3泊4日)の日程で団体・個別・参観・お別れと共同夕食会及び昼食会からなる。
団体面会は訪問団の交換第1日目に約2時間行われ、個別面会は2日目に南側家族の宿泊場所で家族・親戚どうしだけが会う形で進められる。参観は三日浦観光または巧芸団(サーカス)観賞をし、最終日にお別れの面会が約1時間持たれる。
いずれも厳しい制限・監視下の対面で、家族同士の宿泊は許されていない。互いに別れを惜しみ、長生きしてまた会おうと涙にくれながら誓い合うが、現実には、再び会うことはできない。「残忍な家族対面」とも称される所以である。
家族同士の再会は、最も基本的な人道問題であり、南北双方とも加入している「市民的および政治的権利に関する国際規約」など国際的な宣言や取り決めに明記された基本的人権である。
韓国の資金で昨年7月に金剛山地域に常設面会所が1カ所設けられ、今回初めて使用された。離散家族の苦痛を少しでも軽減するためには、面会場所を金剛山地域に限定せず、しかも1人でも多くが早い時期に自由に再会できるようにしなければならない。
「せめて死ぬ前に家族と会いたい。さらに可能ならば故郷を訪問し両親の墓参りをしたい」との離散1世の願いを早急にかなえてやらなければならない。
金正日委員長の「故郷訪問」約束
北韓の金正日国防委員長は、6・15共同宣言直後の8月に平壤を訪問した韓国のマスコミ社長団との会見で、「来年には(離散家族が肉親の)家まで行けるようにする」と強調した。だが、この約束は今日なお実行されていない。
「南北離散家族と親族間の自由な訪問と自由な再会」は37年前の第1回南北赤十字会談の開催に際して合意をみていたものである。
00年の南北首脳会談より9年も前に、南北の総理が署名し双方の国会等で承認した「南北基本合意書」(南北間の和解と不可侵および交流・協力に関する合意書)でも、「離散家族・親族の自由な書信往来と、離散家族の往来と再会および訪問を実施し、自由意思による再結合を実現する」ことが明記されている(第18条)。
それにもかかわらず、いまだに、離散家族の自由な南北往来と自由意思による再結合はもとより、定期的な再会と書信の交換すら保証されていない。
「わが民族同士」をキーワードとする6・15共同宣言からも、すでに9年になるが、この間故郷訪問・墓参については、南北間で公式に討議すらされていない。北側がかたくなに拒んでいるからである。「北韓最高指導者の言明」、「甘い約束」は、いつもその場限りのものだった。
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急要す拡大・制度化
最大の人道問題「民族同士」言う前に最優先的に解決を
韓国の李明博大統領は、さる8月の「国民との対話」で、「南北対話が再開されれば70歳以上の離散家族が南北自由往来できるよう最優先的に努力する」と表明している。
離散家族の苦痛が制度的に軽減されるならば、同族・同胞としての情愛がいっそう深められ、南北の一体感も強まる。離散家族問題の解決は、南北関係の発展、統一推進に大きな位置を占めている。
「同胞愛」は「わが民族同士」の根底をなすものである。
北側の最高指導者に、真の「同胞愛」があったならば、とっくに「自由往来」は実現し、南北間最大の人道問題は解決されていたはずだ。
「統一」運動団体を自称する「6・15南北共同宣言実践委員会」は南側・北側・海外地区委員会の共同あるいは個別の行事で、その都度「わが民族同士」の精神を強調した「宣言」などを発表している。しかし、離散家族問題の早期解決を、南北当局に提言したことは一度もない。離散家族問題の解決は言及すらされず、完全に無視してきた。それでいて、「民族統一時代に突入」などと喧伝している。
「わが民族同士」の精神を大事にし、その実践を謳うならば、60年以上も続く「わが民族最大の苦痛」である離散家族問題の解決へ、再会行事の定例化・規模拡大はもとより、「随時再会」と「再会のための自由往来」の早期実現を北韓最高指導者に強く促してしかるべきだ。
北側は72年の南北赤十字本会談開始に際し、「赤十字機関の関与なしで家族、親戚、親友たちが任意で南北を往来して当事者たちを確認する」ことを主張。85年の赤十字会談でも「当事者が赤十字発行の委任状を持ち、別れた当時住んでいた場所に赴き、1カ月滞在して調べる」と「自由往来」を強調していた。
なぜ、赤十字会談開始から37年後の現在、再会者の数は2万人にとどまり(対面場所も北側地域の1カ所に限定され、しかも北側の監視付きでしか許されない)、再度会うことはもとより書信の交換すらも実施されていないのか。
離散家族の再会は、政治的問題とは切り離され純粋に人道的問題として、最優先的に制度的に推進されなければならない。
赤十字間会談で「3大原則」提示
韓国側は8月末の南北赤十字会談で、離散家族問題と関連して、①離散家族交流事業はいかなる政治的事案にも関係なく進めるとの人道主義精神の尊重②全面的な生死確認と常時の面会、ビデオレターの交換、故郷訪問など根本的解決③拉致被害者と韓国軍捕虜問題の解決のための相互協力という3大原則を北側に改めて提示している。
分断国家であった東西ドイツの場合、離散家族の再会・往来は、人道的問題として制度的に保障され、実施された。
また中国と台湾との間でも、87年末から両岸の経済・文化交流および人的交流が急増し、05年には「両岸間に離散家族の苦しみはない」として政治と人道主義を分離して、3通(直接の通信、通商、通航)を推進。中国・台湾間では、まだ首脳会談が開かれる状況になくても、離散家族の交流・故郷訪問は制約なく実施されている。
ちなみに、台湾企業の中国進出に伴い、120万人が大陸に居住しており、台湾の訪中者は463万人(07年)に達した。
旧東西ドイツ間の家族往来を知り、また中国・台湾両岸間の家族往来を知る世界の人々、とりわけ隣国・日本の人々の目には、「自由なき離散家族対面行事」の再開を「最高指導者の特別な配慮」によるものと公言し、その継続には「見返り」が必要だと強調してやまない北韓当局の態度と、そのような北側に同調する「統一」運動団体による離散家族問題の解決を置き去りにした「わが民族同士」の「合唱」騒ぎは、この上なくグロテスクで奇異に映っていることだろう。
(2009.10.28 民団新聞)