掲載日 : [2010-02-24] 照会数 : 6221
韓食の世界化にむけて〈下〉「焼肉」と「プルコギ」
[ 日本でも人気の「プルコギ」 ]
切磋琢磨し 独自に世界発信
「日式」と「韓式」
今、私たちが韓国に行ってレストランで食べる「プルコギ」は、穴のたくさんあいた鉄兜状の焼き鍋に、汁がしたたり落ちるほどタレにたっぷりつけられた牛の精肉を載せて焼く。この鍋の周りに溝状のふちがついていて、ここに肉から出た肉汁がたまり、そこに牛の骨などからとった「肉水(スープ)」がそそがれ、肉とともにこれをスプーンですくって食べるというものである。
一方、焼肉と言えば、カルビ、ロース、ミノといった肉のさまざまな部位を鉄板や鉄網で焼いたものを指す。「プルコギ」は、いわば日本の「すき焼き風の牛肉料理」を指すのに対し、焼肉は肉の塊や内臓を焼いたものを指している。
こうした「プルコギ」は、韓国においていつ登場したのであろうか? 韓福眞によれば、51年に韓日館が作った料理が、「プルコギ」の始まりというのである。では、それがいつ頃から一般化したのだろうか?
65年の日韓修好条約締結後に日本で刊行された『カラーブックス韓国』には、「焼肉のもつ脂ぎった雰囲気で豪快にやっつけたい人は、街に出て『韓式食堂』という看板を探すがよい。店での注文は焼肉定食(プルコギチョンシク)といって、頼むのが無難であるとある。70年代の初めまでは、プルコギは、焼肉一般の総称であり、料理名としては認識されずにいたようである。
しかし、『韓国の旅』78年改訂版になると、「焼肉と一口にいっても、いろんな種類がある。代表的なのはプルコギ、カルビクイ、ソゴムクイ(塩焼き)、ロースクイ、ミノ焼きなど。プルコギは、薄切りの牛肉に砂糖、しょう油、ネギのミジン切り、ニンニク、ショウガのミジン切り、ゴマ、ゴマ油などを加えたものをジンギスカン鍋(皿)で焼いて食べるもの」となっており、「プルコギ」が一つの料理名として紹介されている。
81年版『今日の韓国』にも、「韓国料理の中で、外国人に広く知られていて人気のあるのがプルコギ(焼肉)である。あらかじめ醤油、ゴマ油、ゴマ塩、ニンニク、ネギなどで味つけした薄切りの牛肉を、炭火で熱した厚い鉄鍋の上に並べて焼きながら食べる」とある。
したがって、それまではプルコギは焼肉の総称する言葉であったが、80年代なると「プルコギ」という料理が日本人にも知られる韓国料理の一つとなっている。「プルコギ」が、わずか数十年の間に、韓国を代表する伝統料理となっているのである。
日本の焼肉は、在日韓国人によってもたらされたが、韓国の焼肉も日本の影響を受けて変容している。
日韓修好条約の締結された65年には、1年に1万人の日本人が韓国を訪れたが、現在は1日1万人近い。こうした人の交流に加えて、現在は情報の交流が発達し、日本と韓国の焼肉はそれぞれ影響を受けながら、かつ独自の焼肉文化を発展させ、それらを世界に発信している。
焼肉は、台湾でもそうであるように「韓式」と「日式」が併存する形で世界に広く普及していくだろう。そうした中で、それぞれの個性をうちだした競争的共生の道を歩んでいくことが望まれるのである。
朝倉敏夫(国立民族学博物館教授)
(2010.2.24 民団新聞)