掲載日 : [2010-05-19] 照会数 : 8927
ハングル書芸は奥深い 書家の金周會さんに聞く
[ 市民と専門家が文字と印刷について語るグループ「もじもじカフェ」主催の「ハングルと書家」で話す金周會さん ]
「書はある意味で、人間の歴史の文化的象徴でもある。人間の精神性がそこにはあると思っている」と話す書家の金周會さん(50)。韓国のハングル書芸(書道)については、日本ではあまり知られていない。ハングル書芸の奥深さなどを聞いた。
一字、一画に精神性
「人生かける価値ある世界」
韓国は15世紀半ばまで固有の文字を持たず、漢文を使っていた。ハングルは朝鮮第4代の世宗大王が、漢文の分からない一般国民の誰もが読み書きできるためにと、1446年に公布した文字。
ハングルの書体は漢字と同じく変化してきた。最も伝統的な書体は『訓民正音』の正音体(板本体)と、主に宮女たちが使った宮書体(宮体)だ。ハングル公布から約200年後に完成されたという、流れるような文字で、漢字の行書体に相当するフルリム体は、縦の線が人間の背骨のようにつながり、当時の「洗練された美意識」を表したもの。
内なる世界追い続けて
だが、この書体はただ単に美しいだけではなく、縦の線が1本になっているのは当時、「人間の考えを正し、乱さないためにする大事な理想教育の一つだった」というハングル書芸の背景にまつわる話は興味深い。
金さんにとっての書とは、「自分の人生の全てをかけても価値のある世界」だ。「書は人なり」と言われる。その人の考えや人生といった内なる世界が映し出される。「自分の中にそれを求めよう、その本領に入ろうと追求していくのが専門家」だと、書に対する考えを示す。
書はもともと好きだった。高校1年のとき、韓国で有名な書家だった校長のもとで指導を受けた。だが、出会いから4カ月後に死去。
「先生から恩恵を受けていたことと、突然、亡くなったことで書というのが自分の中に刻み込まれた」
書家を目指したのは除隊後だ。「生涯を通じて追求し続けられるものが、書芸だと思った」
ソウルの芸術殿堂書芸博物館で学んだ。当時、「昭和の三筆」と呼ばれた一人、書家の故手島右卿さんが書いた草書の作品「虚」を見た。解説に「能の舞台を見て、演者が足拍子を踏む時の響き合う音から触発されて表現した」とあった。
衝撃を受けた。「書に対する考え方や感覚、書に向き合う作者の姿勢をその1作品で教えられた気がした」。「手島先生の精神を学びたい」。日本への留学を決意した。
創作と共に普及活動も
金さんは自らの創作活動はもちろん、韓国書芸を広める活動も行っている。ハングル書芸を良く知らない人たちの中には、「芸術性が弱い、字の形や画数が少なく、変化に乏しい」という評価もあるという。
だが金さんは、「ハングルの大家たちは、文字を構成する一字、一画の打ち込みから難しいと話している。そこにハングルの奥深さがある。興味本位で難しい、楽しいという人と、専門家が同じ表現を使っても、根底にある土台や構造は全く違う世界」と強調した。
シンプルの中に難しさ
ハングル書芸の醍醐味は「自分と向き合わせてくれるところ」と語る。シンプルで難しいハングル。形を良くしようとしても、なかなか思うようにはならない。「自分との闘いがここにはある」
「いいものはどんなところに持っていても、その輝きを失わない。世間の流行とか、流れはいくらでも変えられるが、定着したものを意図的に変えるのは不可能。最後まで残る書の作品とは、冷静で非情、情けは入っていない。そこに自分の心を開く構えや、様式があるかないかです」
「人間の精神文化の綴りが人間の歴史」と考える金さん。奥深いハングル書芸への追求は続く。 韓国書芸の問い合わせは書文化「筆鋒」(℡03・5273・2414)。
(2010.5.19 民団新聞)