掲載日 : [2010-05-26] 照会数 : 13513
新人在日教師奮闘記 国籍の違いをプラスに
[ 李相雲さん
] [ 金秀勇さん ]
関西で新たな在日同胞教員2人が、学校現場で奮闘している。李相雲さん(東大阪市立荒川小学校)は努力の末、保護者の外国籍に対するマイナスイメージを払拭した。金秀勇さん(生駒市立鹿ノ台小学校)は5回目のチャレンジで奈良県の教員採用試験に合格した。奈良では初めての外国籍教員の誕生だ。二人とも国籍の違いをプラスにしていきたいと話している。
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在日児童の心を開く
李相雲さん 東大阪市荒川小
李相雲さん(28)は09年度大阪府の小学校教員採用試験に合格。東大阪市立荒川小学校(宇佐美智子校長)での教員生活は今年で2年目に入った。現在、2年生の担任として26人の児童を受け持っている。
赴任当初、クラス担任を任され、5月連休明けから希望に燃えて保護者宅を訪問したときのことだった。ある保護者から突き放すかのように言われた。「入社した会社で上司を選べないように、私たちも学校の担任を選ぶことができません」。李さんはショックを覚え、なにも言い返せないまま家を辞去した。希望の翼を無理矢理へし折られたかのようだった。それにもめげず、李さんは授業に集中した。「どうすれば子どもたちにいちばん分かりやすく教えられるか」をいつも考え、授業実践を繰り返した。
すると一度は李先生を忌避した同じ保護者が学期末に学校を訪れ、「李相雲先生が担任でよかった」と言ってくれた。このことは、教師になっていちばんうれしく、そして忘れられない思い出となっている。
この間、クラスに在籍する在日同胞児童2人の心の変化も李さんを励ました。それまで通称名を名乗っていたのが、いつの間にか「僕の名前の本名は」とクラスメイトに語りかけるようになったのだ。目を輝かせながら出自を明かす子どもたちを前に、李さんは「教師になってよかった」と笑顔を見せた。
李さんは大阪府立高校を卒業して韓国国際教育振興院に1年間、語学留学した。その後、西江大学語学センターで学び、そこで出会った教師から影響を受けて教職員を志すようになったという。
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奈良初の外国籍教員
金秀勇さん 生駒市鹿ノ台小
金秀勇さん(26、生駒市)は奈良県の10年度教員採用試験に外国籍として初めて合格した。5回目の挑戦が実った。現在、生駒市立鹿ノ台小学校(井岡弘人校長)で3学年担任として日々励んでいる。
金さんは大阪市生まれの3世。小学校5・6年生のとき、当時の担任教師に学校の楽しさを教わった。教師をめざして奈良教育大学に進み、小学校教師の教職員免許を取得した。卒業時の06年度に初めて採用試験にチャレンジしたが果たせず、卒業して鹿ノ台小学校で期限のある常勤講師に就いた。その後も不安定な身分に甘んじることなく、繰りかえし試験にチャレンジしてきた。
金さんは「どこに落ちる原因があるのか、わからなかった。自分がだめだとレッテルをはられたみたいで悔しかった。5回目の受験のときは、通名で受験しょうかとも思った」という。そんな金さんを思いとどまらせたのは、「それだけはやめて」というオモニの一言だった。金厚子さんは、「通名で受験すれば、たとえ合格したとしても、胸のどこかにひっかかるものが残るはず。オモニはそのほうがもっと辛い」と諭した。
合格発表の結果は昨年9月、インターネットで知った。「うれしいというよりほっとした。やっと国籍の違いを認めてもらったような気持ちだった」。赴任先は期限付きの講師として経験を積み重ねてきた鹿ノ台小学校だった。正式採用されたことで、1年ごとの契約更新は必要なくなった。
「子どもたちは外国人ということだけで興味を示す。できるだけその不思議に応えてあげたい」「日本人教師という存在が個性なら、外国籍教員も個性です。校長にはなれませんが、国籍が違うことが学校現場でプラスの方向で変化することもあるのではと前向きに考えています」と話した。
(2010.5.26 民団新聞)