掲載日 : [2003-05-14] 照会数 : 7964
東京・墨田区自主学級「えんぴつの会」発足(03.5.14)
[ 真剣に先生の話を聞く92歳のハラボジ(手前) ]
夜間中学卒業生の受け皿
「生涯学習」の拠点に
在日同胞高齢者7人が長年の夢に邁進
「文字書きたい」1世の願い支援
夜間中学を卒業してもさらに勉強を続けたいと希望する生徒たちの受け皿として先月22日、東京・墨田区で開講された自主学級「えんぴつの会」(光明幸子会長)で、在日同胞の7人のお年寄りたちが学んでいる。苦労の時代を経て、念願であった学びの場で熱心に学習に励んでいる。
「えんぴつの会」の在籍生徒は在日同胞、中国残留孤児、日本人の10代から90代までの約20人。そのうち7人が在日同胞だ。
最高年齢の92歳のハラボジは、「生涯勉強したい」という強い気持ちの持ち主。現在、区内の文花中学夜間学級(3年)と掛け持ちで勉強を続けている。
ハラボジは済州道の出身。学ぶ機会は無かった。1947年に渡日して以来、廃品回収業や飲食業などの仕事をしながら9人の子どもを育てあげた。今は学ぶことが楽しくて仕方がない。先生の質問にも大きな声で答えるほど、元気一杯だ。
授業中、教材のプリントの漢字に一生懸命ひらがなをふっていたのは、78歳のハルモニ。韓国で結婚後、17歳で渡日した。夫は強制連行によって日本に渡り、言葉では言い尽くせない苦労を経験した。そんな夫を支えながら二人三脚で子育てをしながら頑張ってきた。
読み書きができなかったハルモニは、学校や病院での手続き、駅の標識などが理解できずに苦労してきたという。一大決心をしたのは、64歳の時。自分で字が書けるようになりたいと夜間中学の門を叩いた。卒業後はさらに、区内のお寺で行われていた多聞寺学習会で勉強を続けてきた。
ハルモニは「自分の名前が書けることが嬉しい。健康であればずっと続けていきたい」と意欲を見せる。
申庚烈さん(84)は14歳で渡日。解放後は大阪から東京に移り住んだ。4年間夜間中学で学んだ後、もっと勉強したいと同会に参加した一人。
7人の在日同胞のうち、5人が夜間中学と掛け持ちで学んでいる。夜間中学での勉強だけでは満足せず、読み書きをもっと上達させたいという思いからだ。
同会は、すでに開設されていた多聞寺学習会を吸収合併し、元夜間中学の教師らによって発足された。離職や休職中の教師らもボランティアとして参加。教室は今年3月、文花中学が移転したために空き校舎となった教室を借りている。
同会発足メンバーの一人で、42年間夜間中学で教壇に立ってきた見城慶和さん(65)は、歴史的背景を背負った在日同胞に対して特別な思いを持つ。日本の植民地支配、戦争、差別という厳しい環境の中で学びたくても学べなかった1世が「文字を知らないまま死にたくない」と語った言葉に胸を打たれた。「必死になって学びたいという人たちのお手伝いがしたい」と語る。
見城さんは在日同胞の生徒たちに歴史の証言者として、自分史を綴ってもらいたいと考えている。それは日本人が日本という国を知るうえでも将来のために必要なことだと強調する。
「1世は生きるために生きてきた。最初は固い表情で来た在日同胞の方が、教室で学んでいくうちに自信をつけていきます。自分が自分らしく生きるために学ぶことは欠かせないということを教えられます。そういう意味では僕らの先生です」
今後授業で、韓国語学習も行っていく予定だ。
「えんぴつの会」は毎週火曜日13時半〜15時半、木曜日14時半〜16時半、金曜日13時半〜15時半。随時受付。問い合わせは、見城慶和(080―3205・6244)。
(2003.5.14 民団新聞)