掲載日 : [2010-08-15] 照会数 : 5844
好走韓国−そのDNA
[ ソウル市庁前は共同体を育む広場だ
] [ 海外でも人気のサムスンのブース ] [ 原発輸出国となった韓国では、新古里に新たに原子力発電所を建設 ]
「韓国企業の世界市場での躍進が目立っている。電気、電子産業を中心に、日本企業の低迷を尻目に競争力格差が開く。韓国勢の強さを謙虚に受け止め、学ぶべきはもの学ぶ必要があるのではないか」(日本経済新聞3月4日付社説)。新興国だけでなく、今や日本や米国までが韓国を研究する。植民地に転落したのが100年前。そして、解放から65年、建国からは62年。加えて、3年と1カ月余にわたる激戦で国土を壊滅させた6・25韓国戦争が休戦して57年である。短期間でここまで変貌した国はまず見当たらない。そして今、2万㌦レベルにある1人当たりGDP(国内総生産)の4万㌦実現を目指す。躍進する要因を大胆に絞り込めば、障害や矛盾に囚われない「電撃作戦」を可能にする国民性に突き当たる。
(フリージャーナリスト・朴景久)
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相反する気質こそ魅力
競争力を生む源泉 卓越したリーダーシップも
100年前と対照的
韓国企業が世界市場で伸びる理由について、日本のメディアなどはまず、時代の流れを捉える先見性と大胆かつ迅速な決断力に注目する。東アジアの黎明期にあって、《時代の流れも読めない、決断力もない》まま、亡国に至ったのがウソに思える。
10年ほど前よく耳にしたジョークに、タイタニック号の救命ボートの話がある。ボートに全員は乗り切れず、女性や子供を助けるため男たちに自己犠牲が求められる極限状態で、船長が次々に声をかける。
英国人に「あなたはジェントルマンだ」と言うと従容としてボートを離れ、ドイツ人には「これはルールなのだ」と言うと納得して従った。米国人には「あなたはヒーローになれる」と言うとガッツポーズで、最後に日本人に「皆さんそうしていますよ」と言うと周りを見渡しながら慌てて飛び込んだ。
型にはめにくく
架空の話とはいえ、「国民性」の違いを際立たせ、思わず笑いを誘った。そこに韓国人が居合わせたとすれば、どんな言葉がかけられただろう。親指を立てて「あなたは最高だ!」とか、「あなたは自尊心に従うであろう」とでも言われただろうか。
残念ながら的確な言葉が思い浮かばない。韓国人には特性があり過ぎ、しかもその特性が相反するせいか、型にはめにくいのである。
米国のスタンフォード大、エール大のロースクールを卒業し、CBS放送の有名なサバイバル番組「サバイバー」で優勝、在米韓国人社会の英雄になったクォン・ユル米国連邦通信委員会副局長の話が興味深い。33歳の彼は、「韓国人のDNAからどれほど多くの力を受けたか。誇りに思う」と言い、「リーダーシップの要素には互いに矛盾し、排他的な性格を持つものが多い」と指摘し、こう語る。
「タフでありながらも鋭敏でなければならず、固く決心しながらも良き傾聴者でなければならない。自尊心を持ちながらも謙遜しなければならず、時には炎のように情緒的でありながらも、献身的で忠実でなければならない」
彼は「こうした矛盾する気質、相反するリーダーシップの資質を備えた人たちこそ、卓越したリーダーになれる」とし、韓国人がまさにその典型だと断言する。韓国人特有の内面的な多様性は、内輪の葛藤や反目を招く場合も少なくないが、こうした特性の違いを理解し受け入れ合えば、とてつもない競争力の源泉になる、とも強調した。
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続く辛らつな自己批判
病的な浪費・不信感・出世主義 高水準の葛藤指数
80年代初頭に、当時の韓国を代表する碩学の討論をまとめ、『韓民族 その不死鳥たる理由』(白鉄編・成甲書房)が出版された。そこでは、「70年代に経験したリーダーシップ」以前と以後との国民意識について、概略こう語っている(「70年代」とは、高度成長を牽引し「開発独裁」と呼ばれた朴正煕政権時代のこと)。
力量知る機会に
我が民族は訓民正音の制定時代にルネサンスを起こすことができず、実学の台頭による近代化の機会を迎えながらも生かせなかった。日本の植民地政策によって、独立心がなく、創造力もなく、怠惰であると擦り込まれた。韓国人自らが自分を「葉銭(ヨプチョン)」(旧韓国時代の貨幣。併合後は無価値になった)にたとえたほどだった。
70年代の経験は、一度はくぐり抜けねばならない陣痛であり、その過程は自分自身の真の力量の程度を知る貴重な機会となった。短期間に得た中進国の名誉によって、韓民族は努力さえすれば、どの先進民族にも劣らない、本来の優秀性を実感的に体得した。
民族の潜在的な能力を歴史から掘り起こし、まさに「不死鳥」のようであるとして、国民に自負心を根付かせようとする内容だ。しかし、10年後には早くも、「物質的な豊かさと精神性が調和しない」ことに対する嘆きが強まる。東亜日報が90年の年間を通して連載し、「大韓言論賞」を受賞した『韓国人診断』がその代表例だ。
ここでの指摘は辛らつである。身のほどをわきまえない自己顕示、社会全般にしみわたった不信感、公徳心に背を向けた競争、計画性のないせっかちさ、病的にまで進んだ排他心・虚礼虚飾・浪費・利己心・出世志向主義などを次々と槍玉にあげた。1人当たりGNP(国民総生産)がまだ、5000㌦に満たない時点である。韓国人の奢侈病は常識の段階を超え、外国人から「シャンペンをあまりにも早く開けすぎた」と皮肉られるほどだった。
同じ頃のこと。米国の政治学者、サミュエル・ハンチントン教授は「私は90年代初、60年代当時の韓国とガーナの経済状況が著しく似ていた事実を発見し、大変驚いた」と書き、韓国の発展に文化が決定的な役割を果たしたと診断した。倹約・勤勉、教育・投資、組織・綱紀、克己精神などがシナジー効果を発揮したと言うのだ(01年9月出版の『文化が重要だ』)。
どちらが「地」で、どちらが「皮」なのか、韓国人自身も判断しかねるはずだ。ただ、それから20年が経過した今日でも、『韓国人診断』で指摘された問題が俎上に乗り、しかもより深刻に論議される現実がある。
韓国の1人当たりGDPは07年に2万㌦台を記録して以降、その大台の手前で足踏みしている。労働争議など集会及び示威の発生件数は米国の3・5倍、軽犯罪法違反摘発件数はOECD(経済協力開発機構)諸国のなかでは飛び抜けて多い。韓国の社会葛藤指数がOECD国家の平均値になるだけでも、1人当たりGDPは27%増えると推算(サムスン経済研究所09年報告)されるほどだ。
絶妙バランスで
従来の模倣と量的集中に依拠した産業構造は、これ以上の成長を担保しない。つまり、4万㌦時代はこれまでの延長線上にはなく、パラダイム(ある一時代の人々のものの見方考え方を根本的に規定している枠組みとしての認識の体系)の転換を通じた質的成長が求められる。社会的共同利益を生むための無形資産である規範・信頼・協力・参与意識などモラルの向上も期さねばならない。
国民意識の改革なくしてもう一段の飛躍は望めない、との危機意識が強まるのも当然だ。韓国は今、大きな転換期、決断期にある。
これまでのところ、建国後最大の決断は62年、第一次5カ年計画を発表し、北韓に対する攻撃的な政策を止め、経済建設優先に転じたことである。さらには64年、インドをモデルにした内部指向的な同5カ年計画を輸出志向的な戦略に、躊躇なく修正したことだ。そこを起点に、猛烈な勢いで世界の階段を登り、今日の貿易立国を築いたのである。
97年から98年のIMF危機に処しては、巨額の公的資金を投入して金融機関の不良債権を処理し、上位36財閥の半数以上を含む不実企業を市場から強制退出させる一方、戦略産業の強化を果断に進めた。これが今日の世界市場での競争力につながった。外圧によるものであったとはいえ、貿易立国を補強する的確な決断であった。
ちなみに、韓国経済を成長路線に乗せた二つの大きな決断が、朴正煕大統領と金大中大統領という、韓国の激しい政治的葛藤のなかで代表的な政敵であった2人によってなされたことは、韓国現代史のダイナミズムを象徴するものと言っていい。韓国特有の矛盾や葛藤がその内部で、バランス機能を働かせる絶妙さを感じないわけにはいかない。
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渇望される成熟社会
4万ドル達成めざす 障害に囚われず速度優先で
知識財産こそ力
新たな転換期に処して、韓国政府は1人当たりGDP4万㌦達成、「一流先進国化」実現に強い目的意識を持っている。4万㌦時代になれば、内外の衝撃を吸収しやすい体力・能力が生まれる。90年代初頭以降の10年に及ぶ不況の中でも3万㌦台を維持し、「黄金の不景気」とも呼ばせた日本がその典型だ。
政府には、先行する経済に政治・社会・文化水準が追いつかず、足を引っ張るケースが減少するという、切実な期待もある。いつまでも二段跳びで階段を駆け上がるわけにはいかない、安定した踊り場にたどり着いて余裕を持ちたい、との思いが伝わってくる。
韓国が置かれた転換期とは例えば、韓国を代表する創立40周年のサムスン電子とポスコの2企業の合計より、98年創業のグーグルが大きな企業価値を持つような、知識産業が巨大な富を生み出す国際経済の潮流から来る。
それへの対応は着々と進んでいる。サムスン電子はこの間、「特許なくして未来はない」の合言葉を掲げ、世界企業の米国内特許登録件数で2位を占めるほどの、攻撃的な特許経営を展開してきた。「製品を部品の結合体」と見るのではなく、「国際特許の複合体」と見るパラダイムだ。
サムスン電子、LG、現代、ポスコに限らず、努力の積み重ねは凄まじく、韓国企業の知識財産競争力は数年内に一段とグレードアップする展望という。政府は09年7月、国家知識財産システム革新のために、知識財産強国の実現戦略の推進を本格化させている。
知識産業時代を先導する創意的な人材を、集中的に育成することが何より優先される。これに失敗すれば、中国・インド・ブラジルなど、後発工業国の浮上によって埋没することになりかねない。こうした危機意識を政府と財界はしっかり共有している。
図太くなければ
韓国人は日本人に比べて計画性がない、緻密さがない、ルーズで自己本位だとよく言われる。これら韓国人自らも認める欠点は、ある局面では物怖じせずに大胆な行動も可能にする強みに変換される。
南南葛藤には根深いものがあるうえに、北韓という軍事的な脅威に背中も腹もさらしており、経済建設の成果をいつ水泡に帰してもおかしくない状態にある。世界市場では先進国と新興国の挟撃を恐れなければならない。図太くなければ「韓国人」をやっていられないのである。
異常なほどのストレスに耐えながら、果敢に前進するのが韓国の、当然の姿になっている。「走り続けなければ、しかも隘路をも巧みに走り続けなければ倒れる」との強迫観念は相当に強い。どんなに企業規模が拡大しても、小回りの利く中小企業的な意識を失わないだろう。CEOは鉄道の運転手よりはバス、バスよりはタクシー運転手の心構えだ。
その韓国人が信頼を置くのは自分の家族・職場・学校(同窓)など「内集団」である(ソウル大社会発展研究所07年報告)。韓国人の強さは、気心が通じ意気に感じれば、火の中といえども目標達成に献身する特有の活力であり、イザと言う時の底力だ。これといった定型を持たない柔軟性、強靭性とも言える。
「電撃戦」に活路
そこで「電撃作戦」である。障害や矛盾に囚われない電撃作戦と言ったのは、「囚われない」ことよりもむしろ、大局を整えることで障害や矛盾を相対的に小さくしていくという意味だ。電撃作戦と聞けば、第2次世界大戦におけるドイツ軍の侵攻を思い起こすだろう。ここではナチスの、戦争の、ということはさて置いていただきたい。
ドイツによる電撃作戦の主役は戦車部隊で、それもスピードに優れた中型戦車だった。だが当時、ソ連の世界最強のタイガー戦車とは装甲の厚さも違い、まともにやり合っては勝ち目がない。ドイツ軍は難敵のタイガー戦車や強固な陣地に囚われず、むしろ回避しながら進撃し、背後の兵站網を叩き、掌握することで難敵を孤立させていった。つまり、拠点の攻略よりは面の支配を優先させたのである。
政府の「4万㌦大作戦」は、社会の葛藤を解消もしくは緩和する努力を徹底しつつも、それ以上に、大きな構想と明確な目標に向かって国民を動員する「電撃作戦」と見ていいだろう。「意気」にどう伝導させるかだ。
「人間の歴史は虐げられた者の勝利を忍耐づよく待っている」(『タゴール詩集』山室静訳・弥生書房)。これまでの真の先進国がそうであったように、韓国は革新と創意に基盤を置いた何かを通して、人類の発展に寄与できるはずだ。
(2010.8.15 民団新聞)