掲載日 : [2010-08-25] 照会数 : 6698
辛苦の歴史「しわ」に刻み 朴成喜タッチョンイ浮生展
[ 作品に囲まれた人形作家の朴成喜さん ]
人形の中に魂を吹き込み、人生の喜怒哀楽を表現する人形作家、朴成喜(48)さんの日本初の韓紙人形展「朴成喜タッチョンイ浮生展」が9月8日から14日まで、東京・新宿区の韓国文化院ギャラリーMIで開かれる。作品のテーマは「老人」。お年寄りたちに対する朴さんの敬愛の念が込められている。
人形に込める敬愛
魂ゆさぶる作品 日本で初公開
朴成喜さんの人形を初めて見た人たちは、その表情のリアルさに驚くに違いない。口元に手を当てて、大笑いするハルモニ、優しい眼差しで、遠くを見つめるハラボジ‐。人形の一つひとつが個性にあふれ、今にも動き出しそうだ。
祖先の精神が宿る韓紙使い
朴さんは人形作家になる以前、書道塾を15年間経営していた。生徒たちが練習で書いた後の書道紙(韓紙)が大量に捨てられていた。それを見て、何気なく器を作ったのがきっかけとなった。 「作ってみたら、思った以上の素敵な作品ができた。それからほかの物をどんどん作るようになった」
人形作家として活動を始めたのは2005年から。同年には「大韓民国韓紙大展」に入賞。06年には「第1回クラウンヘテ・タッチョンイ公募展」で奨励賞を受賞した。
3年ほどは子どもを中心にした作品を作った。「老人」を題材に選んだのは、さまざまな展示会のときに、出品されたほかの作品と差別化を図りたかったからだ。
通常の人形作りでは、土台に紙や粘土を重ねていくが、朴さんの場合はこの土台を使わない。韓紙を適当な大きさに揃え、基礎から一枚ずつ貼っては乾かすという作業を繰り返しながら、形を整えていく。ほかの材料と比べて時間がかかるうえ、乾いた後には修正できない。「すべての過程が大切。満足いく完成度を得るのが難しい」
作品は背丈が40㌢ほどの大きさだ。1体の制作に2、3カ月かかる。人形の完成後に表情を作り、自らが染めた韓紙で服を着せる。
朴さんが使う韓紙のタッチョンイとは、クワ科の植物である楮(コウゾ)が原料。繊維質が柔らかく、粘り強くて堅さもある。韓国ではその独特な質感と丈夫さなどから、工芸用の紙として重宝されている。
以前、楮の樹皮で帽子を作ったとき、湿度の高い日に帽子が湿っぽくなり垂れ下がってしまった。「保湿性と通風性があり、生きて呼吸している。その時、我々の祖先たちの精神のような紙だと思った」
疎外された人扱いたかった
朴さんの、作品を見た人たちの心を動かしたいという願いが、人形に命を与える。
「老人」をテーマにしたのは、「社会という大きな枠の中から疎外される階層を扱いたかった」からだ。
「韓国のお年寄りたちは、貧しい生活の中で子どもたちを育て、産業化と民主化を同時に起こした主役でもある。彼らの顔に深く刻まれたしわは歴史の勲章であり、自己犠牲と家族に向かう愛の象徴だと考えている」
「過ぎし日を回想する中で、波乱万丈の生涯を送ったのちの悔恨、はかない人生を意味する〈浮生〉などをタッチョンイの質感を通してリアルに表現した」
日本での初個展を目前に朴さんが、在日同胞にメッセージを寄せてくれた。「この世の中で一番温かく、安らぐ場所が母の胸の中だと言われている。日本にいらっしゃる在日同胞の1世、2世はもちろん若い方たちも、私の作品を見て両親と母国に対して郷愁を感じ、それを記憶の中に留めてくれることを願う」
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朴成喜タッチョンイ浮生展
開館9月8日〜14日、10〜17時。入場無料。出品約60点。問い合わせは韓国文化院(℡03・3357・5970)。
(2010.8.25 民団新聞)