掲載日 : [2010-09-08] 照会数 : 8990
「統一費用」論議深める時 「急変」にも対応怠りなく
[ DNZ(非武装地帯)を警備する韓国軍兵士 ]
南北等質化も視野に
積み上げ式「基金」など諸案
李明博大統領が光復65周年の記念辞で、▽平和▽経済▽民族の各共同体の過程を経て平和統一を実現するとの3段階統一構想を提示し、「統一は必ず来る。その日に備えて統一税など現実的な案も準備する時だ」と述べたことで、いわゆる「統一費用」の問題がクローズアップされた。統一の時期・方式など仮定が少し違うだけで費用に大きな違いが生じる。論議を深めて常に意識し、準備を怠ってはならない重要なテーマだ。
「特定用途に使う目的税は財政運用が限られるため、先進国ではあまりない。いつ実現するか分からない統一に向け、国民が気軽に新税に同意するか疑問」(中央日報電子版)。「(天安艦撃沈事件以降)南北関係が極端に冷え込んだ今、統一税導入を持ち出すことがタイミング的に正しいのか」(東亜日報電子版)。「(莫大な財政赤字を抱える政府にとって)統一に必要なのは豊かな財政なのだ。政府自らの引き締めが先だ」(中央日報)。
記念辞から一夜明けた8月16日の国内主要紙の社説は否定的なニュアンスが強い。主として、発表のタイミング、目的税という方式、財政上の優先順位が問題にされた。李大統領は17日、「率直にいって、これまでの政策は分断の管理だった。今後は真剣に統一に備える統一政策に取り組まねばならない」と述べ、「統一税」云々は国民に直ちに税負担を求めるものではなく、統一への心の準備を呼びかけたものだと強調している。
北韓は17日、「愚かな妄想である北の急変事態を念頭に置いたものだ」とし、「不純極まりない統一税妄言の代価を確実に支払うことになるだろう」と例によって脅迫してきた。だが、海外メディアは、「今回の統一税の提案は、『北韓の崩壊に備えるべきだ』という問題意識が韓国国内で広まりつつあるなかで出たもの」(米ワシントン・ポスト)、「韓国は統一税の準備を考えるほど、金正日政権の崩壊を確信している」(英タイムズ)などと報じた。
それもそのはず、北韓がいつ急変事態を招いてもおかしくない状況になってから久しい。それだけに、この問題への対処は本来であれば、すでに盤石でなければならなかった。「統一税」発言が唐突な印象を与えたために、等閑視されてきた現状に波紋を広げ、いわゆる「統一費用」の問題をクローズアップさせる効果を生んだのは歓迎すべきことだ。
民間での論議一時は封印に
実は、統一税・統一費用に関する問題提起は新しいものではない。ドイツ統一翌年の1991年、韓国開発研究院(KDI)が最初に提議して以降、民間レベルでは何回も論議されてきた。しかし、北韓を刺激するテーマだけに、金大中・盧武鉉両政府のもとでは封印された経緯がある。
統一費用の概念について統一部は、「南北の異質な二つの体制が統合され、一つの体制として安定した状態に至るまでに要する一切の費用」と規定している。国土の統合、統治機関の一元化、さらには南北社会の等質化進展までを念頭に置き、投下費用の性格を大きく3段階に分けた。
第1段階は北側住民に緊急提供する食糧・医薬品など「危機管理費用」、第2段階は政治・軍事、経済・社会などの「統合費用」、第3段階は「所得格差解消費用」だ。1から3へ段階が移行するにつれて、治安維持にともなう政治・軍事的なリスクは軽減する半面、費用は膨らむものと展望される。
ドイツ統一時、東独マルクは西独マルクに対し公式レートで3分の1、市場レートでは8分の1の価値に過ぎなかった。西独政府がこれを1対1で交換する通貨統合をはじめ、1990年から2009年までに投じた統一費用は、総額で2兆ユーロ(218兆円)と推定されている。
独統一以上の負担を覚悟も
OECD(経済協力開発機構)は2010年度版の韓国経済に対する報告書で、南北の社会・経済格差の拡大によって統一費用が急増する可能性を警告した。
それによると、08年の北韓の人口は2330万人で韓国の47・9%だが、GDP〈国内総生産〉は2・7%(247億㌦)、1人当たりGDPは5・6%(1060㌦)に過ぎない。また、乳幼児死亡率が93年の1000人当たり14・1人から08年には19・3人と大幅に増加し、女性の平均寿命も下落傾向を示している。
統一時のドイツの全人口8000万人のうち、西と東の人口比は4対1、西の1人当たりGDPは約2万2000㌦、東はその11分の5であった。韓国の人口は北韓の2倍強に過ぎず、所得格差は東西ドイツのそれを大幅に上回る。韓国が抱える負担は、西ドイツの比ではない。
米国のシンクタンクであるランド研究所は今年、北韓のGDPを5〜6年以内に2倍にするには620億㌦、韓国の現水準にまで引き上げるには1兆7000億㌦が必要とする研究結果を発表した。ゴールドマン・サックスも00年、05年に統一すると仮定して、統一後の10年間で北韓の労働生産性を韓国の50%に引き上げるには1兆7000億㌦、同等にするためには3兆5500億㌦の投資が必要と発表した。
李明博大統領に直属する未来企画委員会の委嘱を受けたKDIは、北韓が李大統領の提唱する「非核・開放・3000」構想を受け入れて漸進的に自立度を高める場合と、急激に崩壊した場合との二つを想定した研究結果を6月に報告した。
前者のシナリオが順調に進行すれば、2011年から2040年までの30年間、韓国の財政負担額は年平均で約100億㌦にとどまる。これは平和・経済共同体が構築され、北地域が高い成長率と投資率を維持することで、40年には1人当たりGDPが1万6000㌦になると仮定したものだ。ちなみに、その段階で韓国の1人当たりGDPは6万㌦に達している。
一方、後者のシナリオになってしまえば、北地域に所得補填をしなければならず、大規模な投資もできないため、30年間の年平均費用は720億㌦に膨張する。急変事態による統一費用は、そうでないときの7倍に増えるという推算だ。KDIが91年当時、ドイツ型吸収統一を想定して算出した統一費用は、10年間で最大2446億㌦であった。
韓国の一部には、北韓崩壊による統一費用が莫大なため、分断を維持しなければならないとの意識や、統一すれば生活水準が下がるといった統一恐怖症まで生まれている。
膨大な費用に勝る平和効果
南北統一費用の推定値は研究機関によって開きがあり、統一の時期・方式などの仮定が少し違っただけでも大きな違いが生じる。費用をあえて低く見積もって「民意」に迎合することも、膨大な負担のみを強調して統一への冷ややかな態度や嫌悪感を醸成することも避けたい。
祖国統一は、韓半島と在外の同胞8000万人について回った同族戦争の危機と分断管理コストを一掃でき、全民族の安全と繁栄ばかりか東アジアの平和と発展を担保する。何よりも韓国経済は、北韓の軍事的脅威に起因する成長限界論を吹き飛ばし、飛躍的な成長への潜在力を手にできる。
北韓の人的資源と自然資源が韓国の資本・技術と結びつけば、ゴールドマン・サックスなど権威ある国際的な研究機関が予測するように、韓国の1人当たりGDPは4万㌦を超え、21世紀中盤にはG7に入る強国になり得る。統一費用に勝る果実があることを想起すべきだ。
統一部では、既存の南北協力基金(1兆ウォン=約727億円)について、使った分だけ埋め合わせていく充当式から積み上げ式に変更し、統一基金として拡大運用する案を検討中だ。まず可能なところから手をつけることである。
統一税や統一費用に関する論議は、南北統一が民族的な熱情なくしては不可能な自己犠牲をともなうと同時に、実現が近づけば近づくほど高度な政治判断と行政能力の比重が高まることを教えている。必要なのは、南北の実態に合わない民族主義的なスローガンではなく、国民の総意と一体になった合理的な判断だ。それを可能にするのは、対北・統一政策の透明性であり、国民的な合意の積み重ねである。
(2010.9.8 民団新聞)