掲載日 : [2010-10-06] 照会数 : 7133
<社説>独裁弱体化のなかの北韓・世襲
民生転換へ圧力強化を
独統一から20年
東西ドイツが統一して、この3日で20周年になった。旧東西間の経済格差が大幅に縮んだとはいえ、旧東側には依然として不遇感が強く、旧西側には膨大な費用を負担し続けることへの不満が残る。旧東は旧西を「高慢」と感じ、旧西は旧東を「お荷物」扱いする「心の壁」は消えていない。
経済的な困難など多くの矛盾を抱えたことによっても、分断による政治的、軍事的負担をなくし、ドイツの未来に新たな可能性を広げ、全欧州の平和的な新秩序形成に決定的な役割を果たした歴史的意義は否定できない。その意味合いは時を経るにしたがって大きくなっていくだろう。
かつては、ドイツより韓半島南北の統一が容易だと信じられていた。ドイツ統一は新たな脅威となる強大国を誕生させるのに対し、軍事・経済大国に囲まれている韓半島の統一国家は周辺の脅威にならない、との常識的な考えからだ。統一への希求は、わが民族の方が強いことも相まって、必ずしも希望的な観測だったとは言い切れまい。
しかし、現時点ですでに20年が遅れた。今後どれだけ遅れるのか。北韓の崩壊による吸収統一の可能性が現実味を帯びているのに、北韓自らの態度変化によるソフトランディングという望ましい方向へ転じる兆しはまだ見えない。
先月28日の党代表者会と党中央委員全員会議は、44年ぶりと17年ぶりの開催であるにもかかわらず、経済・統一・外交の深刻な懸案には一言もなく、3代目への世襲公然化、それにともなう新指導部の構成、金正日路線を正当化する党規約の改定を行っただけである。見えたのは、守旧の穴倉に後ずさりで閉じこもる指導部中枢の姿だ。
恥も外聞もなく
改定規約の序文で、労働党は「偉大な首領金日成同志により創建された主体型の革命的マルクス・レーニン主義の党」から「偉大な首領金日成同志の党」に変わった。また、「全社会を主体思想化し、共産主義社会を建設する」とあった党の最終目的からも、「共産主義社会の建設」の部分を削除した。
一方で、「金日成朝鮮」という文言を規約で公式化し、「党は先軍政治を社会主義の基本政治方式として確立」すると明記、「継承性の保障が党建設の基本原則」とまで盛り込んだ。
「共産主義社会の建設」を放棄したのは、かつて世界を二分した価値観による検証に耐えられず、それを唱える能力がないことを自ら認め、手垢のついた「自主性」の殻に閉じこもることを意味する。「先軍政治」を党運営の根幹にすることで金正日総書記の権力維持と保身を図り、「継承性の保障」によって血族・縁者一族による統治と再びの血統による世襲を合理化した。
2代目への世襲時にはそれでも、党幹部用の部外秘の提綱「後継者論」で、封建王朝やブルジョア君主制の世襲制と同一視されることを嫌い、「首領の代を継ぐ傑出した指導者は、首領を血統的に継ぐ人物だということもあるし、そうでないこともある」「問題は資質と風貌である」としたうえで、「血統的に継承する人物である時には、人民大衆からより高い尊敬と信頼を得ることができる」と取り繕っていた。
今回の世襲作業では、資質の検証も省略したばかりか、最低限の体面すらかなぐり捨てている。ただ、3代目を公の場に登場させ「金日成の生まれ変わり」だと印象づけることには必死だった。実質的な指導者に「風貌」がいくばくかの意味を持つとしても、そのこだわりはあまりに異常である。
民衆無視できず
いずれにせよ、カリスマ性もなければ何ら実績のない27歳の3代目は、後継作業を大幅に省略して登場せざるを得ない。独裁体制はその中枢部において、紛れもなく不安定な権力移行期に入った。そうでなくとも北韓は、内外から鋭い矛を突きつけられている。
韓国や関連主要国による各種制裁は確実な効果をあげ、平壌政権を苦境に追い込んできた。中国は庇護者である一方で、改革開放を促す圧力体でもある。昨年のデノミ断行が民衆の怒りを呼び、事実上撤回されたことが示すように、権力側の弱体化に反して、市場活動で力をつけた民衆の存在は無視できない。
権力移行期から安定期に入るのを待つのではなく、不安定な権力世襲期こそ、韓国を中心に主要関連国が連携を強化し、武力挑発への抑止体制を強化しつつ、人権・民生の向上へ舵を切るよう誘導し、追い込む好機にしなければならない。
(2010.10.6 民団新聞)