「宥和政権」誕生へ総力…「6・15宣言実践」合言葉に
◆与野党の再編統合が進行中
4月の国会議員選挙は、8カ月後に5年に一度の政権選択となる大統領選挙を控えて、民心の動向を測るうえでも重要な選挙として内外から強い関心を集めている。
在外選挙人登録した在日同胞は、比例代表枠国会議員選出のための政党投票となる。
韓国の政治発展はもとより南北の民主的統一推進を願ってやまない在日同胞にとっては、投票の際の重要な参考・判断材料の一つとして今後与野各党が提示する対北・統一政策公約への検討が欠かせない。
与野党とも、大統領選挙の前哨戦視される国会議員選挙を目前にして、少しでも有利な場を占めようと昨年末から再編・統合過程にある。北韓の金正日国防委員長の突然の死も加わり、これまで以上に、与野党はもとより野党との選挙連帯をうたう従北勢力などの動向を注視する必要がある。
韓国内の従北勢力は、この間、北韓独裁政権の核開発強行に象徴される人民生活を犠牲にした「先軍政治」と戦争威嚇や韓国哨戒艦「天安」撃沈、延坪島無差別砲撃などによる南北間緊張醸成、人権抑圧と3代権力世襲などについて事実上擁護してきた。李明博政府の「共生・共栄」対北・統一政策について一方的に「反民族・反平和・反統一」などのレッテルを貼り、激しい非難を繰り返している。
日本においても北韓独裁の忠実な代弁人である総連が、その別働隊である韓統連(在日韓国民主統一連合)とともに「6・15共同宣言(2000年6月の第1回南北首脳会談)の復活・実践」「政治決戦」の名の下に、北韓独裁に宥和的で、コントロールしやすい政権の誕生を求めて、「選挙参与キャンペーン」を展開している。
総連の機関紙「朝鮮新報」(昨年11月7日付け)は「ソウル市長選挙(10月26日)は、6・15北南共同宣言の基本精神に立ち返り、統一の流れを切り開くことのできる政権を誕生させるプロセスとなる来年の国会議員選挙と大統領選挙の行方を占う『前哨戦』となり、その結果の意義は深い。/南で国会議員選、大統領選を迎える2012年を機に、『第3の6・15』時代が切り開かれる可能性が浮上した」などと強調。
韓統連は「韓国民を苦しめ、南北関係を悪化させた李明博・ハンナラ党政権」「このままでは国が滅ぶだろう。次の国政選挙で平和、民主主義、和解を促進させる政権を誕生させなければならない」「自主・民主・統一の実現を早めるため、選挙権を行使して進歩的政権交代を実現しよう」と主張している。
北韓独裁と総連・韓統連は、「6・15宣言」の「基本精神」として「わが民族同士」を強調している。北韓側は、かねてから「わが民族は金日成民族」だと規定、「金正日将軍は民族の領袖」、「金日成・金正日父子誕生日は民族最大の慶事」だと喧伝している。しかも北韓の唱えている「統一」とは、「南朝鮮解放統一」(朝鮮労働党規約)であり、独裁権力の父・子・孫「世襲」の合理化、金日成王朝の持続を至上課題としている。
「6・15宣言」はこうした北韓独裁の「民族」・「統一」論を否定していない。第2項で「南と北は、国の統一のための南側の連合制案と北側の低い段階の連邦制案がお互いに共通性があると認め、今後この方向で統一を志向していくことにした」と謳いながら、最も肝心な統一の中身、どのような統一国家をめざすのかについての言及はない。
◆対北政策めぐる南南葛藤を助長
このため北韓は「6・15宣言」以後も、従来の「民族」・「統一」論をくり返し強調、誇示している。昨年の年頭の3紙共同社説でも「主席の生誕100周年を金日成民族の史上最大の祝日、人類史的大慶事として迎えなければならない」と強調している。
そのような「民族」・「統一」論に対して韓国内の「6・15宣言」支持政党や「6・15宣言実践南側委員会」をはじめとする親北・従北団体・勢力は、なぜか一度も異を唱えていない。
韓国の国会議員選挙に向けた北韓の最大の狙いは、こうした親北・従北政党・勢力の伸張であり、それを弾みとしての大統領選挙での「宥和的政権」の誕生による経済支援の再開・拡大と3代世襲黙認、「非核化」の先延ばしとされている。
北韓は、「2012年に強盛大国の門を開く」と喧伝してきたが破綻した経済の再建はメドすら立っていない。韓国の政界再編・政局流動化に照準を合わせ、従北勢力を総動員しての李明博政府・与党非難に拍車をかけ、対北政策をめぐる与野党の葛藤を助長することが予想される。
北韓は1昨年、西海で46人が犠牲となった「天安」撃沈に続き1400人が生活する韓国の延坪島に無差別砲撃を加え死者4人をだし、住民の島外避難事態まで引き起こした。いまだに謝罪せず、「延坪島だけでなく青瓦台が火の海になるだろう」と戦争威嚇をして憚らない。
従北勢力は、そうした北韓の軍事的攻撃・挑発には目をつぶり、北側に公式な謝罪を要求する李明博政府を逆に激しく非難している。同時に、北韓による軍事的挑発を牽制、韓半島で戦火再発抑止役を果たしている駐韓米軍の撤退と、北韓による対南工作・破壊活動の防止・取締法である国家保安法の撤廃運動を展開している。
◆実態は「反民主」「反統一」
北韓独裁の意を忠実に代弁している「6・15宣言実践海外委員会」(総連と韓統連が主導)も、声明などで「南北関係を、いつ戦争が起こるかもしれない最悪の危機に陥らせた南側当局」「南側当局は、反統一と対決の道でのみ生きていける、生まれつきの反民族政権だ」と強弁している。
これは、白を黒と言いつのり、世論を都合のいい方向に誘導しようと扇動するデマゴギーにほかならない。
従北勢力が黙認・支持している「金日成民族」僭称と「金王朝による統一」固執は、「民主的先進統一国家」建設に逆行する、それこそ「反民族」「反民主」「反統一」以外の何物でもない。
北韓独裁は軍事最優先の核・ミサイル開発のために300万もの同胞を餓死させた。のみならず、徹底した住民監視体制のもとで思想・良心の自由、表現・結社・選挙の自由など基本的人権を一切認めず、政治犯収容所に閉じ込められた20万人には生命の保障すらない。命がけの脱北も後を絶たない。
従北勢力は、「平和・民主・進歩勢力」を自称しながら、北韓における広範かつ重大な人権侵害には沈黙を続け、北韓独裁支援のための協力拡大を声を大にして唱えている。
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「金日成民族」否定せず…「先軍」・核開発を擁護
国内外同胞の願いと正反対
在日同胞はもとより南北同胞および海外同胞が切望してやまない南北統一は、平和・民主・自主を基本原則として推進され、「南北社会の等質化・先進化」(経済発展と平和・民主・人権の価値観共有)を図るものだ。
南北間には分断克服・平和統一に向けての道筋を示した「南北基本合意書」(南北間の和解と不可侵および交流・協力に関する合意書)と「韓半島非核化共同宣言」がある。いずれも92年2月の発効に際して北韓の金日成主席は「民族の前に誓った誓約」であり、「祖国の自主的平和統一の道で達成した高貴な結実であり、その履行にあらゆる努力を尽くす」と明言した。
この20年、金日成・金正日父子が、「誓約」どおり、核開発を放棄し、相互信頼関係の構築に力を注いできたならば、非核化・平和の制度化と共生・共存の経済協力を通じた経済共同体の実現と統一にむけ南北関係は大きく進展したはずだ。未曾有の餓死事態はもとより、食糧難の常態化と10万〜20万にものぼる住民の脱北・難民化と韓国入りという、新たな人道問題および離散家族問題も生じなかっただろう。
民主平和統一への当面の最重要課題は自明である。北韓が「民族の前に誓った誓約」を順守、核兵器と長距離ミサイル開発を廃棄し、南北間の緊張緩和に努め、「先軍」から経済再生・民生重視へ政策を転換させ、韓国をはじめとする国際社会の持続的かつ大型支援が可能な改革・開放に踏み切り、あわせて人権改善に努めることだ。
韓国の各党には、民主平和統一推進を大前提に、従北勢力と明確に一線を画し、北韓に対して①「金日成民族」僭称の撤回②「基本合意書」と「非核化共同宣言」の再生・履行③軍事最優先・南北対決の「先軍政治」から、民生・民族・民権重視の「先民政治」への政策転換を呼びかけるなど積極的な「対北・統一政策」の提示が望まれている。
(2012.1.1 民団新聞)