多事多難の辛卯年を送り、壬辰の新年を迎えました。
親愛なる団員・同胞の皆さんにとって、この1年が明るい未来への確かな一歩となるよう願いながら、謹んで新春のごあいさつを申しあげます。
世界に走った激震
昨年は、ニュージーランド地震に続く東日本大震災、韓国を襲った1907年以来の記録的な豪雨、タイの長期にわたる大洪水など、世界が自然の脅威にさらされました。また、EU(欧州連合)構成国の財政破たんが瞬く間に、世界を景気悪化の悪循環に陥らせ、政治の無力さを見せつけました。
一方で、政治的不義が正される年でもありました。「ジャスミン革命」は「アラブの春」へと拡大し、いくつかの長期独裁政権を崩壊させました。キューバやミャンマーでも民主化が進展しています。こうした動きは、残された独裁国家をいっそうの孤立に追い込みました。
激震の1年が金正日国防委員長の急死によって締めくくられたのも、あながち偶然と言えないでしょう。民衆に過酷な犠牲を強いる「先軍政治」を振りかざし、金日成生誕100年を機に「強盛大国」の大門を開くと喧伝しながら、3代世襲を進める最中のことです。
2011年の世界はまさに、各分野で地殻が変動したのです。なかでも、東日本大震災は、創団65周年の私たちが次世代育成と組織基盤拡充を柱に据え、永住外国人の地方参政権問題の局面打開を探りつつ、新たに提起された在外国民選挙参与運動に総力をあげる方針を掲げ、出発点に立とうとする矢先でした。
被災者支援に全力
しかし、私たちは一瞬の迷いもなく「被災者支援民団中央対策本部」を設置し、非常体制に入りました。激甚被災地の地方本部と密接に連携し、焦燥感にかられながら同胞の安否確認に心血を注ぎ、同胞と日本人とにかかわらず全被災者を対象に生活必需品の提供や炊き出し、医療支援に組織をあげて取り組みました。
この間、対策本部に寄せられた義捐金だけでも、全国の各級組織・傘下団体をはじめ団員個人や同胞企業、本国の国民や諸団体、海外同胞団体などから総額3億円を超えました。この義捐金は、激甚被災地を中心に、同胞被災者をはじめ各民団地方本部、地方公共団体などに伝達されました。
被災地以外の各民団や傘下団体も、独自に炊き出しや物資提供を行い、「10月のマダン」に被災者のためのチャリティー企画を盛り込むなど、多様な支援活動を展開しました。婦人会恒例の全国大研修会が福島県での東北ブロックで締めくくられたのも特筆すべきです。
一連の支援活動は、同胞の生活者団体であると同時に、共生理念を掲げる地域住民団体である本団の位相を明確にし、存在価値を再認識させる契機となりました。再起を期す被災同胞と地域社会への力強い激励メッセージとなり、同胞から「民団の力はすごい」「私たちの誇りだ」との声が相次ぎました。
ここぞという時の独自のセーフティネットとして、本団組織が見事に機能したのです。同胞皆さんの熱誠に心から敬意を表します。
次世代育成へ前進
親愛なる団員の皆さん。
昨年の本団は、前半期を被災者支援活動に集中しつつも、本来の運動・事業をおろそかにはしませんでした。なかでも、創団65周年事業の目玉ともいうべき「次世代育成1000人プログラム」は、大きな成果をあげました。
7月から10月にかけ中・高校生、大学生、青年会員ら目標を上回る1100人が参加しています。同世代間の仲間意識と本国との絆を育み、青年会の活性化に弾みをつけただけでなく、多くの若者が民団への関心を高め、次代を担う意欲を明確に示し、私たちを勇気づけました。
創団65周年式典は「夢を次世代へ」をメインスローガンに開催されました。全国の組織有功者約280人に表彰状、感謝状を授与し、長年のご苦労を顕彰することができたのは感無量です。先輩世代の自己犠牲精神に学び、いかなる激動にも揺るがず、在日同胞の未来に責任を負う組織力量を養うべく、決意を新たにすることができました。
諸事業に懸命に取り組んできたとはいえ、在外国民選挙参与運動については出遅れ感があります。本年4月の国会議員選挙に向けた在外選挙人登録事業の受付締め切り(2月11日)が迫っており、本団は年頭から選挙人登録事業に集中しなければなりません。
まずは選挙人登録
親愛なる団員の皆さん。
今年の国政選挙から実施される在外国民選挙は、「参政権は国民主権の原則を実現するための最も基本的で必須的な権利」であり、それを与えないのは「平等権の侵害」にあたるとの憲法裁判所の判決に基づき、制度化されました。
これは、大韓民国の憲政史上でも極めて重い判断です。在外国民である以上、国政選挙権を権利として受け止め、行使する義務があります。国内の有権者とは違い、その第一歩は選挙人登録申請から始まるのです。
選挙人登録は強制できるものではありません。しかし、登録したいのに方法が分からない、分かっているが旅券がない、書類準備ができても公館まで出向くのが面倒だ、などの理由で二の足を踏む状態を放置することは、「棄権」以前の、無自覚で無責任な資格放棄とのそしりを免れません。
5大綱領の筆頭に「大韓民国の国是を遵守する」を掲げる本団は、在日韓国国民の1人でも多くが自ら選挙人登録をするよう、可能な限りの便宜を提供し、最善の環境を整える責務があります。同時に、そのすそ野を広げるために、韓国籍を有する団員のすべてが旅券を所持するよう導くべきです。
本団に結集する同胞たちは、祖国の近代化と発展に心血を注ぎ、祖国の危機には自己犠牲を惜しまず立ち上がりました。民団社会なくして今日の躍進する韓国は存在しない、とまで内外から評価されるその功績は、大韓民国の国力増進の中にこそ私たちの希望があり、我が国の国際的地位が向上してこそ私たちの浮かぶ瀬がある、との政治を超越する心情に発しています。しかし今年から、本団を中心とする同胞社会と祖国との関係は、新たな次元に入ります。
私たちはそれを、能動的に迎えましょう。国政参与運動により多くの価値を見出すべきです。居住国・日本に安定した基盤があってこそ祖国に貢献でき、祖国との紐帯を強固にしてこそ日本でも存在感を示せるという、私たちの特性を最大限に伸ばすのです。これはまた、見通しの悪い世界を生き抜く私たちの糧となるものです。
旅券所持の推奨も
本団が展開できる国政参与運動とは、旅券所持の勧奨と合わせて選挙人登録を促進し、投票権行使を呼びかけることに尽きます。
在日国民でありながら、何らかの理由で選挙人登録に必要な旅券を持たず、故郷や祖国と疎遠になったままの同胞はかなりの数に上ります。旅券所持を勧奨し、母国訪問を民生事業の一環として推進する必要を痛感します。
旅券所持勧奨運動は、祖国や本団と縁の薄い同胞を掘り起こし、本団の組織強化に直接資するだけでなく、在日同胞としての共同体意識を育み、故郷・祖国の現状をつぶさに確かめ、絆を回復する一助となるでしょう。
本団の歴史には、大韓民国建国を受けた韓国籍取得運動があり、韓日会談妥結後には永住権申請促進運動がありました。70年代には、本国の戸籍整理奉仕団と協力し、戸籍整理事業を全国展開した実績もあります。いずれも、祖国と居住国における法的地位を明確にし安定させようとするものでした。
旅券所持を勧奨し選挙人登録申請を促進する運動は、そうした歴史的な運動にならぶものであり、在日国民を大韓民国の憲政体制と公に結びつけ、法的地位をもう一段高める運動といって過言ではありません。
親愛なる団員の皆さん。
私はこの間、韓半島の分断構造は地殻変動期にあり、いついかなる急変事態があっても不思議ではないと強調してきました。北韓独裁者の急死はその振幅を激しくしこそすれ、鎮静化させるものではありません。
在日同胞も好むと好まざるとにかかわらず、韓半島情勢に大きな影響を受けます。であるならば、先進統一祖国の早期実現のためにも、国政に対してより意識的に、力強く関与すべきです。その手段の一つである在外国民選挙参与に、最善の努力を傾けましょう。
終わりにいま一度、本年が団員ならびに同胞皆さんにとって、安寧の中にも気力の充実する1年となるよう祈念します。
(2012.1.1 民団新聞)