組織強化にもつなげ
2012年の民団社会を特徴づけるのは、今年が国政選挙への参加元年ということだろう。11日の新年会に参席した韓国側来賓は、口々にその意義を語り、在外国民の権利・義務であるとの立場から、積極的に参与すべきだと呼びかけた。2月11日には、4月11日に行われる第19代国会議員選挙のための選挙人登録が締め切られる。選挙人登録数をどう伸ばすのか、会場で民団や傘下団体の幹部を中心に国政参与への思いを聞いた。
登録を大台に
民団北海道の金泰勲常任顧問は「一昨年に、在外選挙に向けた模擬投票を行った時の感動が忘れられない。多くの団員にその感動を味わってほしい」と話す。だが、現在の選挙人登録率は3%台の半ばだ。「北海道は広いので、車に分乗しながら各地を回り、登録を呼びかけているところ。締め切りまでには10%台に乗せたい」とのこと。
行使こそ義務
民団宮城の李根団長も、「これまで選挙権が一切なく、疎外感を味わってきただけに、国政選挙には意義深いものを感じる。多くの人に1票を投じてほしい」と願う一人だ。「民団宮城の機関誌、各種公文、電話などで広報している。公館の協力を得て、新年会などの行事に合わせて登録するよう案内している。家庭訪問などで何度でも呼びかけるほかない」と覚悟を決めている。
「せっかくの国政選挙権だ。権利の行使は義務だと考えてほしい」と強調し、「新年会など年初の行事を活用してPRを強化する」と語るのは、民団山口の韓賢澤団長だ。「山口は東西に広いので、広島と福岡の両公館で申請できるようにし、移動手段についても最大限の便宜を提供したい」とも。
家庭回り訴え
「今までのやり方では伸びない。原点に立って、支部事務所を中心に100㌔圏内の団員宅を戸別訪問しなければならない。汗をかいて毛細血管をつなぐような作業が必要」と民団新潟の金慶昭団長が語れば、民団神奈川の李富鉄団長は「選挙人登録が不調というが、役員が率先すれば何ら問題はない。家族を含めれば2倍、3倍になるではないか」と強調する。
期限切れ注意
民団西東京の金錦愛事務局長は「パスポートが切れている団員が更新しないまま、放置している例が意外と多い」と指摘し、「何らかの方便を講じてでも、更新を奨励すべきだ。更新と同時に選挙人登録の書類づくりもしてもらうようにして」と提案する。登録申請に公館まで足を運んだが、パスポートが期限切れだった、というケースは後を絶たない。
民団神奈川・湘西支部の白海秦支団長は、「週1回、戸別訪問をして登録を呼びかけている。だが、国会議員選挙は、人物像がはっきりする大統領選挙と違って、今ひとつピンとこないようだ」との印象を持っている。
情報なくても
韓国の政界動向について、もともとなじみが薄いのに加えて、与野党は再編されるか、再編含みで推移しており、政党名も改称されるなど、構図が分かりにくい。
「国政選挙に参加できるのは嬉しい。婦人会は登録を済ませたので、皆さんと一緒に投票に行きたい」と意気軒昂な婦人会東京・豊島支部の梁邦子会長は、こう強調する。「韓国の政治状況について情報が足りないという人もいるが、それは日本の政治についても同じ。自分の集められる情報のなかで最善を尽くし、投票することが大事だ。心配することより、まずはやってみること」
もっと啓蒙を
民団東京・文京支部の高公子さんは、「在日同胞は韓国の政治に関心がないわけではなく、韓国の新聞が読めないなど、知るためのチャンスがあまりない」とし、「どうして私たち在日が国政選挙に参加するのか、その意義をまず納得させるべきではないのか」と、こう提言した。
「本部から支部、支部から団員へと、啓蒙活動をする必要がある。たとえば、講演会をする場合でも、在日が解放後、韓国の発展に貢献したことなど、私たちの歴史も踏まえて、説得力ある言葉で語ってほしい」
足もとを固め
70歳代で2世の団員は「本国の政治動向には大きな関心がある。だが、一つ問題なのは民団組織が曲がり角にきていることだ。私らの世代と違って、若い世代に関心があるだろうか」と心配しつつ、こう訴えた。
「団員がもっと集まり、交流を深めていけば、韓国の政治についても自ずとディスカッションでき、関心が高まっていくのではないか。まずは足元を固め、質を高めながら、組織全体で動くことが大切だ。組織立て直しの契機にしてもらいたい」
存在感示そう
前出の婦人会豊島支部の梁会長も、「私たちは韓国に住んでいないからこそ、パワーを結集することが大事。在日がこぞって投票し、在日の存在感を示すことができれば、韓国はもちろん、日本の政府も動かせるのではないか。地方参政権問題でもプラスになる」と展望する。
全同胞あげて
民団中央本部の鄭進団長は、本紙新年号に掲載した新年辞で、旅券所持、選挙人登録、投票権行使を中身とする国政参与運動について、「居住国・日本に安定した基盤があってこそ祖国に貢献でき、祖国との紐帯を強固にしてこそ日本でも存在感を示せるという、私たちの特性を最大限に伸ばす」ものであり、「本団の組織強化に直接資するだけでなく、在日同胞としての共同体意識を育む」と指摘した。
国政参与運動により多くの価値を見いだすべきだとする意見は、時を追って強まっているようだ。60歳代前半のある商工人は、「民団は国政参与を運動として展開すると言ってきた。つまり、選挙人登録をし、投票するだけでなく、組織活性化など複合的な運動にしたいはずだ。国会議員選挙には間に合わなくとも、大統領選挙に向かって全同胞を巻き込んでもらいたい」と語った。
さらば寂しさ
「自分の家族で韓国籍は私だけ。日本の選挙のたびに寂しい思いをした」という民団埼玉の白守義監察委員長は、「生まれて初めて国政選挙に参加できるようになって、喜んでいる。登録も最初の日に済ませた。妻は、私が大統領選挙に直接投票できることをうらやましがっている」と話し、「国会議員選挙では政党を選択するが、在日同胞に対する姿勢を基準に投票したい」と心待ちにしている。
■□
韓日来賓あいさつ(登壇順)
善隣・連携 深化の年に
■鳩山由紀夫・前首相(民主党衆院議員)=皆さまの長年の努力のおかげで日韓間の距離は徐々に近づいている。昨年「朝鮮王室儀軌」が引き渡された。まだ様々な問題が残っているが、皆さまと協力して一つひとつ解決していきたい。中でも大きな課題である「地方参政権付与」については、今年こそ超党派で解決していきたい。今日、日韓関係の強化が望まれており、皆さまと一緒にすばらしい関係が築かれることを願っている。
■李相得・韓日議員連盟会長(前国会副議長)=韓日友好協力関係は、かつてなく発展している。しかし、未整理の多くの問題が残っている。この場におられる日本の政界の皆さまに、これらの問題にさらに関心を持ち、解決へ多大な支援を望みたい。今年は韓国で総選挙と大統領選挙が実施される。母国の選挙に初めて参加する在日同胞の皆さまが、こぞって貴重な1票を投じてくれるようお願いする。
■江田五月・民主党最高顧問(前参議院議長)=昨年の東日本大震災では炊き出しなどのボランティア、義捐金など、民団の皆さまに大変世話になり、温かい声援、支援に感謝している。「朝鮮王室儀軌」が引き渡されたが、日韓関係にはまだ課題がある。両国関係がますますよくなるよう、超党派でもっと前へ進めなければならない。よりよい地域社会を一緒につくっていくために全力をあげていきたい。
■河村建夫・日韓議員連盟運営委員長(自民党衆議院議員)=東日本大震災では韓国および民団の皆さまの大きな力添えに大変感謝している。民団の存在は日韓の関係強化に大きな地位を占めている。北朝鮮情勢がどうなるか朝鮮半島が大変な時、日韓関係の一層の強化が求められている。超党派で未来志向の共存共栄の日韓関係の構築に努めたい。
■金守漢・韓日親善協会中央会会長=今年は母国で、2大選挙が実施される。在日同胞の大切な1票1票が祖国の「国泰民安」と国家命運に重要な影響を与える。その国の政治水準は、その国の国民水準をそのまま反映する、掛け値なしの反射鏡となる。在日同胞の皆さまの自負と冷静な理性をもって、海外同胞社会の模範となる選挙になるよう願ってやみません。
■太田昭宏・公明党全国代表者会議議長=昨年、日本は大変な年だった。東日本大震災では、韓国および民団の皆さまに大変お世話になった。日韓関係では日本政府が保管する朝鮮王朝ゆかりの古文書が韓国に引き渡されるなど、様々な前進のあった年だった。皆様とは地域のためにともにがんばってきた。永住外国人への地方選挙権付与は、共生、分権、人権の日本をつくるためにも必要だ。公明党は引き続き実現に努力する。
■山崎拓・自民党前衆議院議員=日韓の政治関係強化のために微力ながら努めてきた。東日本大震災での民団の皆さまの温かい支援に本当に感謝している。今年は韓国では大統領選挙の年です。皆さまには、それこそ清き1票を投じ、日韓関係がさらに一層強化され、北東アジアの平和と安全に力を注ぐ政権を誕生させるよう願っている。
■金慶根・在外同胞財団理事長=祖国と在日同胞社会の発展と絆のために努力を重ねてきた皆さまに深く感謝する。民団が在日同胞社会の求心体として、さらに発展する1年になるよう願ってやまない。今年は皆様が国政選挙権を行使する意義深い年だ。在外国民による初の国政選挙参加であり、皆さまの要望が反映され、わが民族にとり大きな飛躍の契機になればと願っている。
■志位和夫・日本共産党委員長(衆議院議員)=民団と韓国からの復旧、復興のための支援に心から感謝する。日朝平壌宣言、6者会談の共同声明に基づき、核、拉致、過去の清算などを包括的に解決し、北東アジアに平和的環境をつくるために力を尽くす。「従軍慰安婦」問題の解決も含めて、歴史問題の清算をはかってこそ未来へ向けた友情が築ける。永住外国人への地方参政権の実現のため超党派で前に進めたい。
■福島みずほ・社会民主党代表(参議院議員)=民団と婦人会の皆さんによる、被災者支援に感謝したい。皆さまは、今年韓国で実施される総選挙と大統領選挙に選挙権を行使できます。一方、日本ではまだ地方参政権がありません。付与へ各党と一緒に全力で頑張りたい。外国人が日本人とともに平和に暮らせることが大事であり、もっと住みやすい日本になるよう、一緒に力を合わせていきましょう。
(2012.1.18 民団新聞)