ゼロからコツコツ努力
脱北者が日本で定着するために、まず求められる能力が日本語だ。しかし、数十年をまったく違う体制下で過ごしてきただけに、ゼロからの習得には様々な困難がつきまとう。それでも、「日本語能力試験」(国際交流基金・日本国際教育協会主催)で最難関とされる「N1(1級)」に合格した同胞もいる。
呉山輝さん(26、仮名)もそのひとりだ。日本に入国してからわずか3年の快挙だった。
呉さんは生後間もなく祖父母に抱かれて北送船に乗り込んだ元在日同胞を母に持つ。日本語習得に取り組むようになったのは、脱北して北京の日本大使館で保護されていた1年間のこと。教材は脱北時に持ち込んだ初級教本だけ。当時、大使館職員がプリントアウトしてくれた日本語のネットニュースは1割程度しか理解できなかった。
日本では毎日が「勉強モード」だったという。外出すると意識的に看板を眺め、電車内では吊り広告の内容を理解しようと努めた。テレビ放送で理解できない単語が出てくると紙に書きとめた。「すぐに忘れてしまうが、2回、3回と繰り返していくうちに毎日3,4語ずつ覚えていった」。
日本語を母語としない人を対象とした日本語能力試験は09年、「N1」に初挑戦。このときはわずかに合格ラインに届かず、翌10年に雪辱を果たした。韓国語と中国語に加え、いまは日本語もよどみない。多言語を駆使できるため、都内のアルバイト先でも重宝がられている。正社員として迎えられる日が来るのもそう遠くはなさそうだ。
大学入学者や公務員就職も
脱北者の日本定住を支援しているNGO「北朝鮮難民救援基金」の加藤博理事長によれば、日本語を習得して大学に入学したり、市の交通局に就職した人、民宿経営者になった人もいるという。 加藤理事長は「どんな願いや希望でも、信じて努力すれば必ず実現する。そうすれば日本社会で生きていく自信につながる。定住者たちよ、頑張れ」とエールを送る。
(2012.1.25 民団新聞)