震災対策に結束 若者の発奮導く
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はじめに
被災者支援を最優先
創団65周年にあたる2011年は第51期執行機関の結びの1年で、「明るい同胞社会構築のため全在日同胞を網羅する指導母体として組織基盤の再構築」を目標に掲げてスタートした。
しかし、第65回定期中央委員会(2月18日)後1カ月も満たない3月11日に発生した東日本大震災によって、被災同胞の支援事業を最優先する方針に修正し、与えられた責務の完遂に全力を尽くしてきた。
本団は過去の災害支援事業の経験を生かし、挙団的支援活動を展開した。表現しがたいほどの悲惨な現実であったが、各級組織幹部と団員は同胞愛と人道愛を遺憾なく発揮した。
日本社会の多民族・多文化共生社会を形成する外国籍地域住民として、被災者の痛みをともにし、日本社会の復旧・復興に少しでも参与するために全力を尽くした。
何よりも我々に力を与えたのは、わが祖国大韓民国であった。いち早く李明博大統領が慰問メッセージを送り、緊急救援隊を派遣してきた。国民が贈ってきた義捐金と物資は、韓国の存在を日本人に示す契機となった。
◇国際・韓半島情勢
顧みれば昨年は、政治、経済、社会、自然にいたるまで、地球レベルの変動が相次いで起こった1年であった。
年初から北アフリカのチュニジアから始まった市民革命は、エジプト、リビアの長期独裁国家に波及した。ギリシャの債務危機で始まったEUの金融不安は、世界同時不況を憂慮する声が出るほど不安定かつ流動的であった。
このような困難の中で韓国は貿易量世界7位という実績をあげた。しかし、韓半島の平和と安定に直結する東北アジアの情勢は、南北の緊張激化と、中国・北韓と韓米日という構図が鮮明に現れた1年であった。
12月17日、北の金正日国防委員長が死亡した。軍事挑発を繰り返し、拉致事件、ドル紙幣の偽造や麻薬などの国際犯罪疑惑、加えて歴史に逆行する三代世襲を強行し、孤立化を招いた張本人だ。経済破綻により食糧難に苦しむ状況の中で、いかなることが起きるか予測しがたい状況だ。
東日本大震災支援事業を推進しながら、在外国民選挙参与運動と17年目の地方参政権運動の並行推進、次世代育成1000人プログラム、そして創団65周年記念式典や統合プロジェクトなど組織基盤の再構築に向けて努力した。昨年の諸般事業について総括する。
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在外選挙参与運動と地方参政権獲得運動
初の選挙権 より関心を
09年2月の韓国国会で公職選挙法が改正され、韓国国籍を有する在外同胞に対して投票権が付与された。
第65回定期中央委員会で在外国民選挙参与運動を全団的に推進することを決定。今年4月の第19代国会議員選挙、12月の第18代大統領選挙に、多くの団員が行使するよう勧める運動だ。東日本大震災により遅れること5カ月。被災者支援事業の中間総括を行う全国地方団長・中央傘下団体長会議(7月末)から本格的にスタートした。
中央本部に「在外国民選挙参与運動民団中央推進委員会」を、地方本部に推進委員会をそれぞれ設置した。12年1月30日現在、推進委員会は40地方本部に設置、延べ80カ所以上(支部40、傘下団体を含む)で実施された研修には延べ2400人が参加し、選挙人登録を推進した。
しかし、11月13日からの選挙人登録は不振な状況だ。韓国中央選挙管理委員会によれば、内外国民と国外不在者の選挙人登録は有権者の5%。700万韓人のうち有権者は約223万人で、このうち在日同胞は約46万人(在外選挙人約37万人、国外不在者9万3000人)。在外選挙人対象者のうち旅券保持者は23万4000人で、19歳以上は21万人と推定した。
創団以来、無権利状態の中で権益擁護活動を積極推進、地域住民として地方参政権を要求する運動を継続してきた。ところが、名実ともに韓国国民としての権利が付与されたにもかかわらず、あまりにも低調だ。登録と投票のため2回行かなければならない煩わしさ、旅券所持の原則、言語問題など、さまざまな原因が考えられるが、初めて有することになった参政権の意義について改めて考えたい。
与党民主党は参院選挙に敗北後、ねじれ現象の国会運営と保守陣営の執拗な反対で、永住外国人に対する地方参政権法案の上程に明確な姿勢を取らなかった点、非常に残念だ。
しかし本団は決して地方参政権を放棄してはならない。歴史上初めて付与された韓国国政参政権を行使する姿を日本社会に示し、地域住民である外国人をどのように処遇するか、日本社会に反問すべきだ。
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次世代育成運動
功を奏した1千人事業
本団の重要な課題である次世代育成事業を運動化し、創団65周年記念事業として「次世代育成1000人プログラム」を推進した。本プログラムは、2010年まで韓国政府の招請事業として実施された中・高校生および大学生の母国訪問研修の代案として、関係部署の協力と支援を得て本団が新たに設けたもの。
その趣旨は、同胞子女の成長過程で韓国人としての主体性確立に効果を上げ、世代別に実施することで次世代育成のための諸事業の体系化を図るところにある。
当初、3月に第1次大学生班として実施する予定だったが、東日本大震災により延期措置をとり、7月から集中的に推進した。
対象者別に1次(高校生)、2次(中学生)、3次(大学生)、4次(青年会=西日本)、5次(青年商工人)、6次(青年会=東日本)とし、参加しやすい3泊4日の日程で推進した。
各地方本部および傘下団体の積極的な参与により、運営スタッフ90人を含めて総1181人が参加し、成功裏に終えることができた。
特に青年会は自らの課題とみなし率先して全体運営に積極参与した。4次と6次の実質的な運営を担うなど、力量を発揮した。青年会はこの事業を通じて地方組織の再建を具体的目標に掲げ、全国巡回訪問事業を展開、計2315世帯を訪ね、1879世帯で直接面談したという点は高く評価すべきである。
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3大事業
民団の存在内外に示す
◇東日本大震災支援
東日本大震災はマグニチュード9の巨大地震で、これによって発生した津波は日本の東北地方と関東北部の広い太平洋沿岸地域を強打した。さらに福島原子力発電所で水素爆発が重なり、損失は実に甚大だ。
今回の大震災に対して韓国の在外国民として、同時に地域住民として全力で被災者支援事業を展開した。各地方本部の必死の救援活動と復旧・復興支援活動に対して敬意を表する。
◇創団65周年記念式
過去の記念式典は10年ごとに開催し、その都度創団精神を振り返りながら課題を再認識する場としてきた。06年は創団60周年という意義深い1年であったが、組織理念の葛藤によりやむなく組織正常化に向けた努力を優先せざるを得なかった。
15年ぶりに開催された昨年は、創団時の中心人物であり初代団長として活躍した「故朴烈氏に対する顕彰事業」などを行った。「次世代に夢を!」をスローガンに、各界代表ら500人が集った。
◇組織基盤の再構築
東日本大震災の影響で先送りされたのが、組織基盤の再構築と財政自立化、統合プロジェクト事業である。名称を「在日活性化基盤構築の研究会」に改称して推進した。
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各種事業
そのほか各種事業の推進結果を下記の通り要約報告する。
祖国の平和統一
民主平和統一諮問会議の第15期日本地域協議会は計434人の諮問委員で構成され、出帆会議は8月23日から近畿、中部、東部、西部の順で各地域協議会別に開催された。
天安艦撃沈事態(10年3月26日)と延坪島武力挑発事態(10年11月23日)から1年にあたる昨年、天安艦事態に対して中央団長談話文を、また延坪島事態時には抗議集会と総連中央に対して直接的な抗議行動を通じて本団の強い姿勢を内外に表明した。
生活相談センター
開設から5年目を迎えた「民団生活相談センター」は、本団が生活者組織としての存在感を示している。昨年も第2回「本国セミナー」を開催し、本国との紐帯を強めると同時に、大韓法律救助公団と業務協約書を交換するなど、その機能と役割をさらに拡大している。
相談時間も延長して相談者の便宜提供に努め、弁護士をはじめ専門家37人の協力を得た相談件数は800件を超えた。
脱北者支援センター
03年に開設した脱北者支援民団センターは、人道的事業として脱北者の日本定着を助けるための諸般活動を継続展開中だ。昨年は13人に対する定着支援金、18件の生活相談に応じた。同時に脱北者の実情を広報するため、5カ所で証言集会や講演会を開催した。
勿忘草(忘れな草)バッジの支援募金は6・25戦争時とその後に北韓に拉致された被害者約10万人余を家族のもとに帰還させるもの。北韓の深刻な人権問題に対する在日同胞社会の意識高揚のためにバッジをつけることを勧め、多くの賛同者を得ている。バッジは2003個頒布され、全額を「6・25拉北人士家族協議会」に11月28日伝達した。
済州島7大景観推薦
スイスN7W財団の世界7大自然景観の選定最終候補地28カ所に済州島が含まれ、全世界で電話やインターネット投票が実施された。選定されれば、韓国の国家ブランド価値を高めるだけでなく、観光先進国に向けて大きな契機になるため、支援活動を展開した。
第65回中央委員会に出席した済州道の禹瑾敏知事から協力要請を受けた。また昨年5月7日、中国の北京で開催された海外韓民族代表者会議で日本地域の名誉委員長に中央団長が推戴された。11月12日、「選定された」との朗報が届き、65周年記念式典で済州道知事が直接謝意を述べた。
歴史教科書の要望活動
全国統一要望活動は、教科書展示会の意見書提出と各教育委員会に対する要望書活動を展開した。しかし、問題の歴史教科書を東京や横浜など大都市の教育委員会で相次ぎ採択、きわめて深刻な事態となった。
このため、問題教科書の採択率は3・7%に達した。日本社会の保守化、右傾化を顕著に示すもので、4年後を見つめながら抜本的な対応策を講究しなければならない。
在日韓人歴史資料館
在日同胞の生きた歴史教育の場である「在日韓人歴史資料館」は活発な活動を展開してきた。在日同胞と民団を紹介する場はほかになく、貴重だ。毎月、さまざまな講師を招聘して開催する土曜セミナーは多文化共生の場を提供している。
韓日祝祭と10月マダン
第3回韓日祝祭フォーラムは、韓日間の文化交流を象徴する場として定着しつつあり、両国民相互間の理解を促進している。
韓日文化交流において民団が推進する事業が「10月のマダン」。昨年は28地方33カ所で開催、延べ7万人の同胞および日本人が集い、文化交流と地域住民間の相互交流の場になっている。
麗水世界博を支援
今年5月から3カ月間にわたり、全羅南道の麗水市で「麗水世界博覧会」が開催される。
昨年7月12日、東京で説明会を行い、麗水博成功のため民団新聞およびホームページで紹介すると同時に広報協力に努めた。
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むすび
同胞愛の発揮に感謝
昨年の本団は、創団65周年を中心にした1年であった。諸先輩の創団精神を再確認し、「明るい在日同胞社会構築のため全在日同胞を網羅する指導母体としての責務と指導性」を発揮しようと努力してきた。
この間、組織活性化のためぼう大な活動を行い、多くの実績をあげてきた。それにもかかわらず、組織の求心力は低下していると言わねばならない。このような現実を直視しつつ、第52回定期中央大会を契機に、より本格的な組織基盤の再構築が緊要である。
困難で実に苦しかった11年を、各級組織幹部の誠実な努力により乗り切ってきた。全国地方本部と支部、傘下団体と関連団体の物心両面にわたる同胞愛と同志愛の発揮に対し、改めて感謝の意を表する。
(2012.2.8 民団新聞)