掲載日 : [2003-08-14] 照会数 : 9688
対談 北韓核・拉致問題と在日同胞(03.8.15)
[ 左・黄迎満民団中央副団長。右・李鍾元立教大学教授 ]
[ 北韓核問題などをテーマに語り合う李鍾元教授(右)と黄迎満副団長 ]
「反対」を行動で示そう
黄迎満 民団中央副団長
李鍾元 立教大学教授
北韓の核開発問題は、韓半島平和の脅威になっているだけでなく、日本においては拉致問題と相まって「反北朝鮮」世論と共に「右傾化」を促進するなど、在日同胞社会にも大きな影響をもたらしている。「北韓核問題と拉致問題、そして在日同胞社会」をテーマに、国際政治学者の李鍾元・立教大学教授と黄迎満・民団中央本部副団長に対談してもらった。(司会・朴容正)
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「核」執着の理由
外交カード・軍事の両面 李
体制維持・対南向けにも 黄
−−北韓は、94年の核開発凍結に関する「米朝基本枠組み合意」を反古にして、なぜ再び核開発を推進、核の所有を公言するまでになったのか。中国、ロシアを含め北韓の核開発に賛成する国はないのに。
李 軍事的に考えると、北韓は89年米ソ冷戦の終結、その後のソ連の崩壊などでソ連からの「核の傘」を失い、軍事援助も基本的に途絶えた。政治・軍事的には絶対的な孤立無援の状況にある。
核開発は、北韓の立場から見ると二つの意味がある。ひとつは政治的な手段として、基本的には米国との改善を求めて、核という能力を誇示する。いわゆる外交カードとしての核です。そのように考える人も北韓の中にはいるようです。
もっと踏み込んで、軍事的に孤立している状況の中では核がある種の絶対的な抑止力となるので、いろいろな手段を使って最終的に核兵器あるいは核能力は持っておきたい。
それが外側から、とりわけ米国から軍事的な圧力が加わったときに対抗できる、ということなのです。通常兵力では太刀打ちできないので、それに執着する。純軍事的に考えると北韓にとってはあり得る選択だと思います。
しかし、軍事的な抑止力にはなるかもしれないが、政治・外交の面では非常に否定的影響をおよぼすという矛盾があります。
体制を維持し生き残るためには改革開放、対外関係の改善を求めざるをえず、米国を引き寄せるために核という手段を使う。もう一方では、最後まで体制を維持して、米国の揺さぶりに対抗するためには核兵器も必要だという論理。この二つが矛盾するのが北韓の一番のジレンマでしょう。
黄 おっしゃるとおりに対米交渉の側面と軍事的な側面があると思います。北韓があんなに無理をしてまで核を持つということには、やはり軍事的な側面に加えて対内的に政治的側面があるのではないでしょうか。
体制維持をしていくうえで、核を持っているということが、身近には北韓の人民軍の士気を昂揚・鼓舞するし、「われわれは不敗であり絶対に負けない」ということの意味合いもあると同時に、それを通じて体制維持をするという側面がある気がします。
さらに、もう一つは、韓国に対するある意味では、言葉を悪く言えば恐喝用ですね。差し迫ってはいわないが、最終段階では「われわれには核があるのだぞ」「韓国に大きな災難を与えることができるのだぞ」という、「無理心中用の核」として脅しをかける。
北韓が核にそこまで固執するのは、極端にいえば金正日政権当局の唯一の、それ以外は存在できない、いわばよりどころのような意味合いがあるからではないか。
客観的に見ると、核に固執することで失うものがはるかに大きい。だが、北韓の政権当局者が考えているのは、逆に核を持つことで失うものを補ってあまりあるぐらい、対米交渉を通じて一挙に解決する最終兵器として核を、という意識になっているのではないでしょうか。
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捨てきれぬ「革命幻想」
客観的には勝負つく
−−「核」問題と共に、韓国にとって、今後の南北関係を考えていく上で見落とせないものとして北韓の対南政策がありますが。
黄 北韓の対南交渉というか対南政策は、以前から指摘されているように二面作戦です。これまで対南政策は、根底には「対南暴力革命」というのがあり、条件と都合によっては南北対話を強調する。そういうことを並行してやってきた。北韓当局は、いまだに対南暴力革命に対する幻想を捨てないでしがみついている。「核」と同じくらいの意味合いがある。
李 基本的には北韓の体制の体質と矛盾だと思いますね。そもそも韓半島全体の革命、解放というか、それを正統性の基盤にして存在している政権なので、南を認めるということ自体が自分の否定につながるという基本的矛盾の上に立っている。
南北首脳会談以後、誹謗中傷をやめるとか、あるいはさらに遡って「南北基本合意書」(南北間の和解と不可侵および交流・協力に関する合意書。92年2月発効)を結ぶとか、そういうことをしても依然として「朝鮮労働党規約」に対南革命が規定されたままでいる。北韓は、韓国の国家保安法が完全撤廃されればそれを変えるかもしれない、という話を水面下ではしているようですが。
それは、おそらく北韓という国家体制そのものが、そういう論理に立っていることからくる矛盾だと思いますが、その看板をまだ完全には降ろしていません。
だが、客観的状況が大きく変わっている。それこそ60年代ぐらいまでは北韓が様々な面で優位に立っていた時期があった。しかし、70年代から状況が変わり、80年代にはいると完全に逆転して、いまや南北の経済格差が広がる一方です。北韓が主観的にどういうことを言おうと、客観的な構図としては、もう勝負がついた。北韓もそれを徐々に認識してきている。
さきほど核兵器にこだわるいろいろな要因の指摘があったが、そのとおりでしょう。私は主に外交的部分だけを述べたが、やはり傾き始めた体制にとって、国民内部の士気高揚用にも核兵器が使われるので、国内政治的な動機要因が非常に大きい。それに対南政策との関連もあるでしょう。
ソ連のスターリン体制もそうですが、抑圧体制というのは自分の国民を信用できず、さらに外側に対して不信感を強く持つのが特徴です。だからすべてを放棄した方が明らかに自らにとっても利益なのですが、なかなかその決断を下せない。
これは矛盾なのですが、核を全部放棄すると、内部の国民にも統制力が利かないのではないか、対外的にも押さえ込まれるのではないかという危機意識が強く、いろんな手段を使い、最後まで核にこだわる。そのような状況にあると思います。
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「体制維持」保証論
追いつめられての叫び 黄
きわめて〞おかしい話〟 李
−−北韓は「6者会談」の開催に応じ、その中での「朝米2者会談」優先を強調しているが。
黄 北韓の対米交渉優先は、もちろん意図としてはわかる。特に、第2次イラク戦争を通じてフセイン政権の崩壊をみせつけられた。世界で自分たちを真っ正面で攻撃しうる能力を持っているのは米国だけだ。だからその米国と交渉する以外に方法はない―と。米国の攻撃をなんとか回避したいというのが、一番でしょう。
北韓が最優先視しているのが金正日体制の維持保証です。そのため米国の確約を取り付けなければならない。以前は韓国戦争休戦協定を対米平和協定に変えたいといっていたのに、最近は次善の策として米国と不可侵条約を結びたいといっている。
不可侵条約で「戦争」を回避すると同時に、自分たちの体制の保証をきちっとしてくれれば、国際的な経済制裁を受けず、孤立から脱することが可能だと主張をしているように見受けられる。
李 「不可侵」の話を持ち出したというのは、ある意味では北韓が条件を下げてきた、態度を軟化させたことを意味します。以前は対米平和協定、もっと昔は「在韓米軍の撤退」などを強硬に主張していた。それを時間がたつにつれ、立場が不利になっているので条件をだいぶ下げてきている。
去年の10月以来、新たな北韓核危機になってからは、少し前まで要求していた対米平和協定と経済支援とか、そういうものを取り下げて、「不可侵」の最初は「条約」、その後は不可侵の「約束」という言葉に変えています。
今は、とにかく攻撃しない、それから指導者としての金正日と現在の国家体制の維持・保証を認めることさえ明らかにすれば、彼らの言葉で「米国の安全保障上の憂慮を解消する用意がある」と核問題について行動をとる用意があると公言しています。いろんな言葉の遊びをしているが、クリントンとは違うブッシュ政権の強硬姿勢に対してかなり手こずっており、条件を下げてきた。
しかし、体制の認定とか体制維持の保証というのは、考えてみるとおかしい話です。外側が認めると表明しても、体制が存続するかどうかというのは、本来体制内部の話なのですから。それに固執するのは、おそらく北韓自身のメンツなのだと思うのです。
もう一つはイラクの例を見ていますので、米国が本当に軍事的に圧力を加えて揺さぶるようなことが起こるかもしれないという恐怖を北韓、とりわけ軍部は抱いてると思います。
米国は、直接の軍事行動はとらないという約束はするかもしれない。しかし、体制を認めるからといって、体制の問題をまったく指摘しない、批判しないということにはならないでしょう。人権問題を批判されること自体が、やはり北韓には圧力となる。
それがどうなっていくかは、北韓内部の状況にかかっており、外から軍事行動をしなくても、逆に関係改善を進めれば北韓の体制自身が急速に変わる可能性もあります。
黄 体制維持を米国に保証してもらうというのは、どう考えてみてもおかしい話です。そもそも自国民なり人民の支持が基本であり、第3国の保証があって体制なり政権が維持ができ、第3国が保証しないと維持できないというのは、本末転倒ではないでしょうか。
「民族の自主性」を強調しながら、こともあろうに「米国のお墨付きがないと体制が維持できない」のだみたいなことを叫んでいるのは、金正日政権が、よほど追いつめられたせいでしょう。
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「対米一辺倒」の過ち
断ち切る決心求められる
−−ブッシュ政権の登場と「9・17同時多発テロ事件」の影響が非常に大きい。それに対イラク戦争…。
黄 94年の「米朝基本枠組み合意」はあまり効果的でなく、実質的には北韓の体制維持、存続のための核開発推進を許した。そうしたクリントン政権の対北韓政策を根本的に批判をしながらブッシュ政権は登場した。「9・11同時多発テロ」が起きて、そこから今度は国際的な反テロ戦争を宣言し、その一環としての北韓の核・ミサイルを重視するようになった。
米国にとっては、北韓の核が得体の知れない国際テロの組織に流れて、攻撃の矛先が自分たちに向かうというので、対北韓政策が基本的に変わってきたのではないか。
李 レベルが変わってきた。以前は、米国から見ると北韓そのものはそれほど強い関心の対象ではなかった。イラクとも大きく違うのは、イラクは中東で一番強い国であり、放っておくと拡大するかもしれない。しかもそこは油田地帯です。北韓は北東アジアの片隅の非常に貧しい国で産油国でもない。もし核問題がなければ、ちょっと面倒なやっかいな国ではあるけれど、そんなに大きな問題ではない。
伝統的には、主に国務省が北韓政策の担当だった。90年代に入って北韓が核を対米交渉のために手段として切り出したために、北韓問題が米国全体の安全保障、国家戦略の問題に格上げされ、いまや国防総省とホワイトハウスが管轄する問題になった。
非常に逆説なのですが、北韓から見て。米国の関心を引き、交渉をすることには成功したが、ただ関心を引きすぎて、米国の国家戦略全体の文脈に位置づけられ、安易な妥協のできない原理・原則の問題になってしまった。
これもまた本当に「民族共助」とか、そういう立場から見て正しいのかどうか。韓半島の問題が完全に米国の政策次第で左右されることになり、民族の手から離れてしまったわけなのです。
北韓は自分たちに余裕のある時はずっと「南北」、「民族」と主張していた。70年代までは米国を除いて「自主の原則」で南北だけで話しをしようと。当時は自分の方が強いと思ったのでそういう主張をしたのですが。90年代に入って状況を見ると韓国が圧倒的に強くなり、南北間だけだと圧倒されて吸収されるかもしれないということで、以前からのフィクションに基づき対米交渉を強調、「対米一辺倒」に傾いた。だが、その自業自得に苦しんでいる状況です。今それをいかに断ち切るかという決心を北韓は求められている。
ブッシュ政権は、「6者協議」でいくつかのちょっとした妥協、譲歩はするかもしれません。しかし、劇的な進展はなかなか難しい。北韓はもっと現実的に考えなければなりません。「対米一辺倒」の戦略はもはや現実にも合わないし、その必要もない。北韓自身がそこから得るものも少ない。これまでのドグマから解放されることが肝要です。
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小泉訪朝後の日本
排外主義的な傾向に懸念 黄
〞針路〟めぐりせめぎあう 李
−−「9・17小泉訪朝」後、日本人拉致問題の衝撃に加えて、不審船問題と北韓核問題の再浮上により日本の北韓に対する見方がかつてなく厳しくなっただけでなく、在日同胞社会にも大きな影響をおよぼしているが。
黄 表面的な流れから言えば、拉致問題が日本の一般庶民層にまで火をつけてしまった。それ以前から多少北韓に対しては疑念が絶えずつきまとっていたが、核・ミサイル問題をきっかけにまたも「韓半島有事」が叫ばれるようになった。それとあわせて、以前から進められていた「戦後日本」・「平和国家」の見直しの総仕上げに向けて「有事法制」、イラク派兵問題が処理されている。これは、日本の国家の基本方向に関して憲法第9条に対する今までの解釈をはみ出してまでも方向を転換させようとしているように見受けられる。
小泉総理の靖国神社参拝、新しい歴史教科書問題など、小泉政権になり、ますます一部の国粋主義的なナショナリズムに火をつけるやり方が目立つようになり、国の総体として方向を変えつつある。その過程で付随して外国人排斥など排外主義的なものを呼び起こしている。
こういう点から見て、日本の対北韓政策はわれわれ在日同胞にとっては、非常にゆゆしき問題であり注視せざるを得ない。
李 今日本が北韓に対してどういう政策の方向性を示すのか、また韓半島全体に対してはどうするかをめぐり、日本国内の考え方が分裂しているように思うんですね。分裂というかいろいろな考え方が競合している。あるいは、悪く言えば混乱している。日本の世論一般の認識もある意味では分裂していると思うのですが、その中で大きな流れとして日本社会全体で、保守化・右傾化が急速に進行していることは否定できないと思います。
グローバル化の中で「アイデンティティーの政治」という言葉が盛んになりますけれど、さまざまなアイデンティティーを求める。そういう意識が高まる。それがナショナリズムとか民族集団へのアイデンティティーとかですね、宗教だとか、そういうものが急に浮上してくるということだと思うんですね。日本だけでなく、グローバルな現象です。
加えて、日本の場合にやっかいなのは、北東アジアの地政学的な変化とも関連している点です。地政学的な変化とは、ちょっと堅苦しい言葉ですが、一言で言うと中国の台頭です。中国の台頭を中心とした、北東アジアの地域の形成。その中で日本の相対的な低迷であり、韓半島も紆余曲折ありながら、緩やかに共存と統一プロセスに入っている状況です。
北韓が核危機を起こしたりしているのは、まさにそういうプロセスに入っているからでしょう。北韓は着実に縮小していき、韓半島は緩やかに、おそらく不安要因を抱えながらも一つにつながっていく。そういう意味で平和共存と統一のプロセスにあります。
そこで、中国に対抗する地域秩序というものを考える古典的な発想も生まれてきます。だから、米国や日本の中で中国脅威論がいわれている。
それと結びついているが北韓脅威論であり、韓半島全体に対する懸念、韓半島全体がどこに向かうのかという意識が日本の中でちらほらでてくるわけなんですね。
こういう状況の中で日本をしっかりと体制を整備する必要があるというのが98年から表面化しつつある潮流です。国旗・国歌法、住民台帳基本法、憲法改正を視野に入れた憲法調査委員会、有事法制、日米新ガイドラインなど、すべてが「日米同盟」をベースにして、日本の国家体制を整備するという点で一貫した動きです。教育基本法や「愛国心教育」など、言ってみれば民族意識を鍛え直し、軍事力に課せられたさまざまな制約も取り外して、北韓や韓半島だけじゃなくて、中国をも視野に入れた日本の国家体制の整備を進めようとする考え方です。
黄 一般の人も日本自身が経済的に低迷してますので、社会の内部にかなりフラストレーションがたまっています。その不満をそのように中国脅威論とか、北韓脅威論に誘導すると、世論がそれに反応しやすくなる。そういうのが相まって今北韓に対して、私から見てもかなり異常なほどバッシングが進んでるのですが、これはいくつかの重層的な要因が重なって、出てきてるものです。もっと端的に言えば、日本人が拉致されたという悲劇が直接の契機ですが、それが「朝鮮」(韓半島)によってやられたという、歴史的な先入観とか偏見の裏返しみたいなものですね、それも恐らくあるんだと思うんですけれども、それが今非常に収拾つかないほどの状況になってきている。
李 ただ、こういう状況の中で全般的に右傾化ですけれども、日本経済そのものは、韓国や中国を含めた北東アジア、東アジアとの結びつきを急速に強めているのももう一方であるのですね。地政学的に安全保障から見ると脅威論ですけれども、社会経済的に見るとますます結びついているので、文化的にも一体化が進み、大衆もそれを感覚として受け入れています。
このように考えると、日本の生きる道は北東アジアと東アジアとの結びつきの強化だ、韓半島、中国との関係強化だという現実や考え方ももう一方であります。そのどちらに重点を置くのか。アジアとの関係強化のためには韓日関係も大事だし、北韓とも正常化を進めるべきだという風に考えるか、いやもう少し「日米」に軸足を置いてどちらかというと韓半島、中国とは距離を置く政策をとるべきだという風に考えるか。その二つが今せめぎあっています。
それが、北韓との関係をどう進めるかをめぐり激しく戦っている。なかなか決着はつかず、当分日本自身もかなり揺れ動きながら進むと思いますけれども。
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「拉致」と朝鮮総連
民族史にも大きな〞汚点〟 李
北韓追従は在日への犯罪 黄
−−このような日本の状況の中で「拉致問題」に対してどう見たらいいのでしょうか。
黄 昨年9月の「朝日首脳会談」の時、金正日国防委員長自らが、「南に対する革命工作のために日本人を拉致した」と認めた上で、謝罪を表明した。以前からうわさはされていたことだが、北韓の最高責任者があっさり事実を認めたことに在日同胞はびっくりしたし、特に13歳の女子中学生までも拉致したことに大きな衝撃を受けた。
ことに朝鮮総連系同胞に与えた影響は深刻なものであったと思う。総連中央は一貫して否定してきたし、日本当局の陰謀だとまでいっていたから二重、三重のショックでパニック状態におちいっていた。
日本のマスコミは北韓の核問題とあわせ、この拉致問題を連日のように報道し、なかでもスポーツ紙までがトップで報ずることによって、日本の一般庶民の潜在的に持っていた「嫌北朝鮮」感情に火をつける結果になって、「反北朝鮮・嫌総連」の世論をいっきに高めてしまった。
先ほどの話のように、日本社会の排外主義的な傾向をさらに強めることになってしまった。一般の日本の人に「韓国人」と「朝鮮人」が区別できるわけもないし、いわんや、韓国民団だ、朝鮮総連だか、はっきり見分けがつくわけでもないので、在日同胞全体に大きな影響をもたらしています。
李 北韓も墓穴を掘っているところがあるのです。基本的に拉致問題、とりわけその家族の問題は外交カードとして使うべきではない。ただ、よくわからないのは拉致問題というのがどの程度根が深くて広いものなのか。「拉致」を認めた以上は早く病根を取り除いた方が、北韓にとっても新たな可能性が生まれてくるのですが。
核問題以上に拉致問題は処理しやすい問題のはずなのに、固執するのは、これは認識が足りないのか、体制の閉鎖性なのか、あるいは問題そのものが根が深いのか。それで、全部解決しようとすると体制にかなりダメージあるのか、分かりませんが、基本的に政治カードとして使うべきではない。
もう一つ、これは韓国の立場から見て、韓半島の民族の歴史の大きな汚点なのですね。民族同士で戦争をしたというのも汚点ですけれども。それ以上にこれはたとえ「革命」のためとはいえ、明らかに理不尽で、その必要性すらよく理解できない犯罪行為なんですね。
これは変に正当化せず、「植民地時代の強制連行のほうがもっとひどい犯罪だ」とか、「それも拉致だ」とかという風に。そういう論理を持ち出すこと自体が韓国、韓半島の民族史に対する侮辱だと思います。私たちが受けた民族の受難を、そういう犯罪行為と同列で帳消しするような行為です。
同時に強調したいのは、この問題を解決していくことが日本を危ない方向にいかせないためにも、望ましい方向に日本という国家が進んでいくためにも、北韓の行動が非常に大事だということです。
黄 「拉致問題」の解決が長引けば長引くほど、総連組織は壊滅的打撃を受けるでしょう。現に「金正日将軍のやり方、総連中央のやり方には、もうこれ以上ついていけない」といって、総連組織から離れる同胞が日増しに増えています。
拉致問題は韓国も抱えておりますが、日本人拉致問題は、北韓と日本の2国間で解決すべき問題であると思います。
この日本の地で行われた拉致問題。しかも在日同胞全体に大変な影響をおよぼしている拉致問題に対して、総連が態度をはっきりさせて、「金正日将軍様」の目の色ばかりうかがわずに、北韓にも日本政府に働きかける役割を果たすべきです。 総連がこれ以上事実を歪曲し、北韓に追従して沈黙を守っていることは、在日同胞全体に対する犯罪行為だといわざるえません。
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今後の展望と役割
韓半島平和・今こそ全同胞的な行動必要
われわれの生活に直結…総連も即刻明確な姿勢を
−−最後に、今後の展望と在日同胞の役割について。
李 外交の面では、今月下旬にも「6者会談」という枠組みがスタートします。その中でやはり最終的には北韓の核をかなり透明性の高い形で、放棄させることが大前提ですね。非常に時間はかかるでしょう。最低うまくいっても2、3年以上かかる問題ですので、そう簡単ではありません。 ただ、基本的には北韓が最初の会合で、どの程度真剣な姿勢を示すか、これが大きなバロメーターだと思います。まだ米国には強硬派がおり、不信感がありますけれども、韓国や日本を含めた域内諸国では、北韓が真剣な姿勢を示せばいろいろ国際的に協力をしていこうという動きがあります。
日本は何ができるかということですが。日本にいる韓国人・朝鮮人が、問題の一番最前線に立たされている部分があります。そういう意味から、それこそ日本と北韓双方に対して、核問題や人道的な問題の包括的な解決を急ぐように、こういう問題をそれぞれ政治的な目的、体制の目的のために利用しないように、と求めていくことです。
その際、日本の「異常さ」を批判するだけではなく、それこそ私たちが、日本人一人ひとりの意識に対して問いかけをしていくことも必要でしょう。直接的には総連のコリアンコミュニティも、この問題については真剣に考えて、日本社会に姿勢を示すことを期待したいですね。
黄 「6者会談」の展望に関してはおっしゃる通りだと思います。核問題の解決はいうまでもなく、北韓がまず、核の開発と保有を放棄することを鮮明にし、国際機構の査察を全面的に無条件受け入れて、核放棄の姿勢が真剣であることを透明性を持って保証すべきです。そうすれば、2千万人民を飢餓から救うための食糧支援と、破綻している経済の立て直しのための改革・開放をより促進する国際的な支援が可能になるでしょう。
「拉致問題」は、基本的には日本と北韓の2者間交渉で解決すべきで、「6者会談」で議論すべきではないと思います。
在日同胞にとって最近の一連の災難はすべて北韓の金正日政権がもたらしたものです。在日同胞は、教授もおっしゃるように、限定的であっても韓半島問題(核・ミサイル、拉致問題など)の最前線にいやおうなしに立たされています。そして、北韓の核・ミサイル、拉致問題が日本の社会の右傾化に大きな口実を与えているのも事実です。
在日同胞は、声を上げるだけでなしに、北韓の核に反対する行動を全同胞的に起こす必要があります。総連と総連同胞は、「拉致問題」に対しても北韓当局と日本政府に働きかけ、一日でも早く問題解決すべきでしょう。民団も、総連がそのように在日同胞の立場に立って行動するならば、支援する用意があります。
韓半島の平和と安定は、在日同胞の平和と安定、さらに日本社会の安定と国際化に直結しています。
(2003.8.15 民団新聞)