掲載日 : [2003-08-14] 照会数 : 9267
各地民団に広がる老人福祉活動(03.8.15)
[ 上・アジメ奉仕隊。下・トラジクラブ。 ]
[ ふれあいデイハウス ]
〞ご苦労さま〟とねぎらいの声温かく
ウリ支部ウリチャラン運動モデルケース
日本社会の急速な高齢化に歩調をあわせるかのように、在日同胞社会でもお年寄りのケア問題がクローズアップされつつある。特に1世世代の場合、日本のお年寄りが通うデイサービスなどでは食事が合わず、日本語で意思疎通しづらいことから、家庭に引きこもりがちになる例も多い。98年8月、全国に先駆けて大阪の泉北支部が民団の支部会館を利用してデイサービスを開始した。以来、民団の老人福祉活動が広がりを見せている。本格的デイサービスから手作りのもてなしまで様々な形態はあるが、各地で老人福祉に取り組む本部、支部を紹介する。
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鳥取県本部…アジメ奉仕隊
安否尋ねてオモニが巡回…独居や寝たきり家庭など
全国で最も人口が少ない鳥取県―。東部の鳥取市に民団県本部、西部の米子市に支部がある。山陰本線が県を縦断しているが、移動は自動車が中心で、特にお年寄りにとっては不便な状況だ。
今年4月、新しく就任した薛幸夫団長(51)が取り組んだのは、東部地域の団員130世帯の状況を全て把握することだった。2カ月かけて全家庭を訪問した後、見えてきたのは、独居、寝たきり、老夫婦、施設入所など、苦労した世代が恵まれないまま居住している事実だった。
関西のようにある程度密集して居住しているわけでもなく、老人へのケアを考えるにしても集える場所がなかった。ならば「逆にこちらから出向こうじゃないか」というのが「アジメ奉仕隊」の出発だった。
まず、年金もなく暮らしている同胞老人16人を対象に、月に1度家庭訪問することを決めた。同胞の40〜50代の主婦らにボランティア参加を呼びかけたところ、「これこそ、民団や地域の同胞が互助の精神で進める活動だ」と黄梅子副団長はじめ9人の有志が集まった。
名称もその名の通り「アジメ(「おばさん」の慶尚道方言)奉仕隊」に決まり、お揃いのエプロンも作った。9人を4班に分けて、各班が4件ずつ巡回している。一番遠いところは、県本部から車で30分以上かかる。
6月からスタートした奉仕隊だが、「ハルモニ、今日は具合はどう?暑くなったけど大丈夫?」と、桃などの差し入れを手渡しながらお年寄りの安否を訪ねて回っている。痴呆症の施設に入所しているお年寄りも訪ね、手を握りながら「また来ましたよ。分かるかな」と温かい言葉をかけた。年齢を重ねると、すでに意思疎通できるのはウリマルだけというお年寄りも少なくない。ウリマルが話せるオモニが訪ねてくると、一生懸命に話しかけてくるハルモニたちが多いという。
オモニらは、足が悪くて買い物に不便を感じている老夫婦には、次は買い物もお手伝いできればと、奉仕の手を広げたいと考えている。
まだ緒に付いたばかりの活動だが、薛団長や黄副団長らは「継続こそ力」と最初から身の丈を超えた目標を立てるのではなく、できるところから始めたいという。気負わない活動こそが長続きすると見ているためだ。
より多くのボランティアを募り、より多くのお年寄りたちへの奉仕活動を広げていきたいという。
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滋賀・湖西支部…トラジクラブ
失った〞集いの場〟再現…韓食やカラオケで〞チャンチ〟
琵琶湖の西湖畔に位置する民団滋賀・湖西支部(金炳学支団長)の会館からは月に1度、同胞お年寄りたちのにぎやかな笑い声が聞こえてくる。
同支部では3年前の01年に結成した「湖西支部老人会」(金永珠会長)と支部とが協力して毎月、支部会館を利用してお年寄りの集い「トラジクラブ」を開催している。お昼前、三々五々集まってくる。毎回25人ほどが「また来たでー」と笑顔で門をくぐる。
食事は婦人会の担当。キムチにチヂミ、ナムル、テンジャンチゲ、カルグクスなどほとんどが自家製の韓式家庭料理がふるまわれる。「このキムチは誰が漬けた」「このコチュ、辛いで」と話も弾み、食欲も進む。1世にとって、何よりの御馳走だ。
食事の後は、「あの人は、どうしてる」から始まって「昔はなー」とお決まりの昔話に花が咲く。興が乗れば「恨五百年」も飛び出し、〞チャンチ〟が始まった。
70〜80年代、同地区には今より多くの同胞が住んでいた。「河原部落」と呼ばれる密集地域もあった。当時は、冠婚葬祭があれば、寄り合う共同体だったが、代を重ねるに連れて大都市へ移動する同胞も増え、共同体の集落は影を薄れさせていった。
集える場を無くした1世のお年寄りが、家の中に引きこもっている状況を見て、民団が何とかできないかと考えたのが老人会の結成だった。設立の翌月、支部の食事会には予想を上回る20人以上が集まった。腰が立たないと嘆きながら参加したハルモニが、大勢の顔を見たとたん、チャンゴを叩いて大喜びする姿に、皆が驚いた。
ヘルパー2級の資格を持ち、クラブを支える白政子事務部長も、お年寄りが集える場があるだけで、これだけ生き生きするものかと改めて実感したという。老人クラブ初代会長の金点植本部常任顧問も、「互いに顔を見て近況を報告できる場所が必要」という。
クラブ開催以来、ハラボジ、ハルモニを車で送り迎えするために初めて支部を訪れた息子や孫が、顔なじみになりつつある。「今まで出入りしたことがない若い世代が、民団を認識したことから始めなければ」と金支団長はいう。民団に対する見方が明らかに変わりつつある追い風を受けて、若手層の掘り起こしにつなげたいともいう。
今後は、老人医療の相談窓口や介護保険の申請手続きなど、管内お年寄りの手助けも視野に入れた活動を進めるという。
支部役職員と婦人会など少人数ながら、手作りの老人ケアが光る活動だ。
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大阪・西成支部…ふれあいデイハウス
要介護者も受け入れへ…〞見える事業〟に団員の信頼
大阪府下ではすでに4支部がデイサービスをスタートさせている。5番目の支部として「ふれあいデイハウス」を立ち上げたのは西成支部(崔長煕支団長)と婦人会だ。民団としては大阪市内で初のスタートとなった。
大阪府下は街角デイサービス、大阪市はふれあいデイサービスとして、資金が助成される民間委託事業制度があり、民団が実施するための条件はある程度揃っている。
既に開かれていたデイサービスが好評なのは知っていた。団員のために、支部のためになるのならと、先行する支部を視察した。各支部で多くの同胞お年寄りが押し寄せ、明るい表情で語らっている状況を見て決意した。
民団として大阪市で初の開設計画だけに、市が認可するかどうかがネックだった。「市は認めない」という「通説」をよそに、ぶつかってみると、紆余曲折はあったものの、険しい山ではなかった。
崔支団長は、高齢者介護事業を在日のアイデンティティーにのっとった介護サービスが提供できる団員の目に見える事業ボランティア育成につながる新たな雇用を生む―と位置付け、広く団員に呼びかけた。
スタートした頃「あんた、生きてたんかー」と再会を喜びあうハルモニの姿に皆が感銘を受けた。今ではすっかり定着して、毎週火・金曜にはハルモニらが韓式の食事でお腹を満たし、韓国のカラオケや昔話に興じている。
現在開設しているデイサービスは他の4支部と同じく、閉じこもり老人を防止するために自立しているお年寄りを対象にしている。しかし、当然足が悪い、歩けない、など介護が必要な同胞老人までも含めた「通所介護事業所」の開設を目指して認可申請を進めている。早ければ9月1日にも許可される予定。
通所介護事業所は、介護保険の対象となり、週4日以上の開設が条件。また、現在の施設に加えて相談室や静養室の設置も義務づけられる。
しかし崔師団長はじめ婦人会スタッフらも、尻込みするどころか、お年寄りをいたわる目は輝いている。
デイサービスを初めて以来、「何でもっと早くやってくれなかった」と叱咤激励と同時に温かい支援の声を受けることも多くなった。民団の活動が本当に評価された瞬間だったと崔支団長は喜ぶ。
(2003.8.15 民団新聞)