まかり通る北韓の「公開指令」
許す土壌 一掃急げ
暴漢に襲われ、顔の右側を80余針も縫う大けがを負ったマーク・リッパート駐韓米大使が10日、退院すると同時に公務に復帰した。事件から5日後のことだ。韓国ではこの事件を機に、大きく3点が論じられてきた。
第1点は、改めて浮き彫りにされた北韓に従属する従北勢力、北韓にシンパシーを持つ親北勢力の危険性だ。大使を切りつけた金基宗(55)は、1999年1月から2007年4月までに、「植樹行事への出席」を目的に計7回も北韓入りしている。大使襲撃直前に「韓米合同軍事演習反対」を叫んでいたほか、この間の北韓礼賛言動も確認されている。
第2点は、韓国の「公職者」への啓発だ。リッパート大使は噴き出す血に恐怖を覚えなかったはずがないにもかかわらず、病院に搬送される途中で「私は大丈夫だ」、手術後には「一緒に進みましょう」とのメッセージをおくり、逆に、心配する韓国国民を労わった。なにかと無能・腐敗、事なかれ主義が取りざたされる韓国の公職者も、この毅然とした態度に学べと訴える声が大きくなっている。
首の皮一枚で幸運を拾った
第3点は、韓米同盟は揺るがず、いっそう強固になったというものだ。韓日間の歴史認識摩擦をめぐって、ウェンディ・シャーマン米国務次官による日本寄りとも受け取れる発言に対し、激高していた世論も急速に鎮静化した。むしろ、韓米同盟の重要性を再認識する流れが生まれている。
韓国の国柄と威信ばかりか、最も重要な対米関係をも損ないかねない事件であったにもかかわらず、「雨降って地固まる」式に論じることができるのは、「幸運」を首の皮一枚でかろうじて拾い上げたからにすぎない。狂刃は大使の頸動脈を断ち切る寸前まで食い込んでいたのだ。
もし、失命していたなら、と想像するだけでも恐ろしい。韓国は国際社会から人災の多いルーズな国であるだけでなく、危険な国とのレッテルを幾重にも貼られたことだろう。2006年5月の統一地方選挙に向けた遊説中、ハンナラ党(セヌリ党の前身)の党代表だった朴槿恵大統領が襲われ、同じく顔の右側を60余針縫った事件も思い起こされる。
取り調べ中の警察によれば、金基宗は「金日成は20世紀における民族の指導者」だと言い、その理由として、日帝統治期には抗日独立運動を行い、6・25韓国戦争後は自主国家を建設し、統率してきたからとする一方、韓国は立派な大統領のいない半植民地社会だと述べている。
北韓の「わが民族同士」など対韓宣伝メディアは襲撃事件の前に、「(リッパート大使の)命を絶つべきだ」などと扇動し、事件後は安重根義士による伊藤博文射殺にたとえ、「正義の刃の洗礼であり、南側の民心の反映だ」と主張した。
金基宗が重家俊範駐韓日本大使にコンクリート片を投げつける事件(2010年)を起こす前も、北韓の対韓メディアは「日本の反動に鉄槌を下せ」との「公開指令」を繰り返し、事件後は同じく、尹奉吉義士が日本軍高官を爆殺した行動にたとえた。
「(扇動)公開指令」↓テロ実行↓擁護というパターンが見て取れる。金基宗と従北・在野勢力との深いつながりも確認されている。だからと言って、憲法裁判所が解散決定を下した統合進歩党の中心人物で、内乱扇動罪と国家保安法違反で有罪が確定した李石基らとは違って一匹狼的な要素が強く、今回の事件も従北勢力による組織的な犯行とは言いきれまい。
堅固な安保は国民意識から
恐ろしいのは、このような人物が野放しになっているだけでなく、生み出し続ける土壌の深さである。韓国当局は、従北・親北勢力がアクセスする北韓の対韓メディアの危険性が改めて実証されたとしている。少なくとも数万人が対韓メディアに掲示される「公開指令」を学習し、闘争方針としてきたという。
それは、今回のようなテロだけではなく、過激な集団行動にも発展してきた。盧武鉉政府時代の従北・反米勢力によるマッカーサ‐の銅像と平沢米軍基地建設現場への攻撃、李明博政府時代のBSE(牛海綿状脳症)問題を機に一般市民を巻き込んで展開された反米騒擾が典型だろう。しかし、より深刻なのは金基宗がいみじくも体現したように、北韓を礼賛し韓国を貶める歴史観を浸透させてきた従北勢力による日常活動である。
国の安全保障とは軍事力だけでは担保されない。もっとも重要なのは国民意識である。国を、社会を、共同体を、個々の人命を、尊重し、守ろうとする意識の確立だ。歪んだ歴史観で自国を見つめ、自らが生活する社会を否定的にとらえる勢力がはびこっていて、どうしてそれが可能なのか。
自由・民主主義と市場経済の原則に立つ韓国という国の、存立基盤を内部から突き崩しかねない社会的な要素の摘出に、ためらいは許されない。
(2015.3.18 民団新聞)
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