掲載日 : [2003-11-19] 照会数 : 4506
「無年金問題」国賠訴訟 救済措置なく20年(03.11.19)
[ 大阪地裁で記者会見する原告と弁護士ら ]
同胞高齢者6人…日本の道義的責任問う
【大阪】日本の国民年金法改正時に経過措置がとられなかったため年金制度に加入できず無年金となった大阪市内の在日同胞高齢者6人が、「老齢年金」の適用を求め13日、大阪地裁に国家賠償請求訴訟を起こした。定住外国人が「老齢年金」をめぐり提訴したのはこれが初めて。提訴を受けてこの日、同胞市民団体が全国レベルの支援組織を発足させた。
原告6人は一貫して日本の国民年金制度から排除され、「老齢年金」の支給を受けられないできた。年齢的には現在77歳以上の外国籍高齢者がこうした無年金状態に置かれており、その数は全国で約3万5000人に及ぶと原告弁護団では推定している。
国民年金法は59年の制定時、20歳以上60歳未満の日本国民を加入資格と定めた。老齢福祉年金についても当時、70歳からの支給において「日本国民」たることを要件とした。
この国籍要件は82年に撤廃されたが、同年1月1日時点で60歳を超えていた原告らは被保険者としての資格を満たさず、そもそも国民年金に加入できなかった。無拠出制の老齢福祉年金についても国民年金法の付則5条で定住外国人への適用を排除、無資格・無権利状態のままにした。
86年の法改正で当時60歳未満の在日外国人について加入期間が支給要件(25年)に満たなくても救済する措置をとったものの、原告ら当時60歳以上の定住外国人については相変わらず経過措置もなく放置された。これは日本国民であれば保険料を収めていない未加入者でも経過措置を講じ、無年金にならないようにしたのとは対照的だった。
弁護団では、原告団に加わった女性(83)の1人が仮に日本人同様に老齢福祉年金を受領していたとすれば、その受給総額は532万円4700円(89年度〜03年7月)に達していたものと推算している。ちなみに現在の老齢福祉年金受給額は月額で3万4025円。
原告側弁護団は訴状で59年の国籍要件を「法の下の平等に違反」と指摘した。82年以降、一切の経過措置を講じてこなかった立法不作為についても「違憲」と断定、「国際人権規約にも違反し違法」と訴えている。
原告への損害賠償額は慰謝料も含め一律1500万円とした。
■□
裁判支援へ「全国連絡会」
「民族差別と闘う大阪市連絡協議会」(宋貞智代表)は13日、大阪市内の浪速人権文化センターで集会を開き「旧植民地出身高齢者の年金補償裁判を支える全国連絡会」を発足させた。連絡会には地元の民団支部を含む15団体が加盟している。21を数える協力団体と一緒になってこれからの裁判闘争を支援していく。
集会で原告の一人、尹賢培さん(生野区在住)は「子ども5人いますがみんな自分の生活で精いっぱい。国民年金がないので満足に医者にも通うことができません」と苦しい胸の内を語った。同じく原告の家族、周貞子さんは「1世は年金のないひどい生活に早く死にたいとさえいっている。生きていて良かったと思えるよう力を貸してください」と訴えた。
李仁夏さんとともに「全国連絡会」の共同代表に就任した田中宏龍谷大学教授は「この問題は公的で制度的な明白な差別である」と指摘、日本人自身の責任で解決に取り組まなければならないと述べた。同連絡会では今後とも全国各地で同様の裁判闘争に取り組むよう働きかけていく。
■□
老齢年金とは
59年からスタートした国民年金の一種。86年から名称が老齢基礎年金となった。20歳以上60歳未満を被保険者とし、60歳までに25年以上保険料を納付すると65歳以上から受給できる。制度発足時、35歳以上は保険料納付期間が不足するため日本人に限り50歳以下は納付期間を短縮、50歳を超える者は老齢福祉年金を支給している。老齢基礎年金の支給額は最大で月額6万7000円。
(2003.11.19 民団新聞)