掲載日 : [2004-02-04] 照会数 : 4888
バイオリン製作の第一人者 陳昌鉉さん(04.02.04)
[ 世界に5人しかいない「無鑑査製作家」の陳さん ]
高校の課題図書に…漫画化も
バイオリン製作者として名実共に日本で第一人者の地位を築いた在日韓国人、陳昌鉉さん(74)の波乱に満ちた人生の軌跡に注目が集まっている。
きっかけとなったのは陳さんの語りをもとに聞き書きした『海峡を渡るバイオリン』(河出書房新社、02年9月刊)。本書で陳さんは、在日韓国人として辛酸をなめながらも独学を重ね、84年に米国バイオリン製作協会から世界に5人しかいない「無鑑査製作家」として特別認定され、故郷に錦を飾るまでを振り返っている。特に、慈愛に満ちた母への哀切を語ったくだりは多くの読者に感銘を与えた。河出書房新社によればすでに10版を超えたという。
本書は03年の「第36回岩手読書感想文コンクール」の課題図書(高校の部)20冊のなかの1冊にも入った。審査の結果、最優秀賞(県知事賞)に選ばれたのは「『海峡を渡るバイオリン』を読んで」と題した石川芙由子さん(盛岡一高2年)の作文だった。
コミック作家の山本おさむさんも陳さんの原作にほれこみ、03年4月から小学館「ビッグコミック」創刊35周年を記念して連載を始めた。タイトルは「天上の弦」。表現の難しい韓国の風物や時代背景については陳さんが随時FAXで質問に答えており、「リアリティのある表現」に仕上がっている。コミック単行本第1集は韓国と台湾でも翻訳出版された。
陳さんは広がる反響に「意外」と驚きを隠さない。とりわけ読書感想コンクールで作品を取り上げてくれた石川芙由子さんの感想文には感激している。
最近は近隣の小中学校に呼ばれ、子どもたちを相手に講演する機会も増えた。陳さんは好奇心を大事にし、面白いと思ったことに夢中になれと強調している。ちなみに陳さんはいまでも高校生用の化学参考書を開く。バイオリン製作上の意外なヒントが隠されているのだという。
自作の楽器でコンサート…23日、日経ホール
陳昌鉉さん製作のバイオリンとビオラを使って陳さんのこれまでの人生を彩ってきた小品を聞くサロンコンサート「第307回日経ミューズサロン」が23日、午後6時半から千代田区大手町の日経ホールで開かれる。
演奏曲目の「鳳仙花」は陳さんの母が生前、折に触れて口ずさんでいた曲。陳さん自身、人生に挫折しそうになるとこの曲を聴き、心を慰めた。今回の演奏会用にバイオリン二重奏に編曲した。また、「荒城の月」は植民地統治下の韓国で初めて聴いて感動し、最初に習った曲だ。このほか、陳さん自身の波瀾万丈の人生をそのまま投影したかのような「ツィゴイネルワイゼン」、新作「天上の弦」など。
出演は各交響楽団のコンサートマスターなどを務める著名な演奏家。陳さんの処女作からアメリカの製作者コンクールで金メダル5個を受賞した中期の作品、そして円熟期のバイオリン、ビオラまでが勢揃いする。
大人3500円、子ども2500円。問い合わせは日経文化事業部。電話は03(5255)22852へ。
(2004.2.4 民団新聞)