掲載日 : [2004-02-04] 照会数 : 4930
民団ネット開設・座談会(04.02.04)
[ 在日同胞のキムチ業者は全国各地に存在しており、そのネットワーク化を望む声は強い
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[ 日本におけるキムチの人気は年々高まるばかりで店頭にはさまざまなキムチが売られている
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[ 金龍吉氏 ]
[ 朴健市氏
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[ 金永悦氏 ]
民団ネットの立ち上げで広がる在日のネットワーク
改革フォーラムを具体化…生活者団体へ転換図る
世界的に電子商取引が急速に普及する中にあって、在日同胞社会もインターネットを利用したネットワーク化を早急に推進しようとの声が高まりつつある。それにこたえるべく民団中央本部では「民団改革フォーラム」の一環として「KJ(コリア・イン・ジャパンの略)生活ネット」の立ち上げを急いでいる。そのテーマのひとつとして「チャンサ(ビジネスの意)ネット」を構築し、民団が名実共に生活者団体へと転換を図るかまえだ。チャンサネットの第1弾が「キムチネット」。そこで韓国食文化を正しく伝えようと努力している金龍吉・韓国惣菜「高麗屋」代表、朴健市・月刊「焼肉文化」代表、金永悦・「オフィス東京」代表の3氏に民団の生活ネットの意義などについて語ってもらった。(司会=李鐘太・民団中央本部民生局長)
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なぜ生活ネットか
原点「共助精神」の再生へ 金龍吉
青年の参加を促す契機に 朴健市
若手経営者にも機会提供 金永悦
〓〓民団改革フォーラムの重要課題として在日同胞の生活全体を結ぶ「生活ネット」を立ち上げる意義についてまず話してもらいたい。
求心力の向上へ重要なポイント
朴健市 民団は全国的な組織ではあるが、横のつながりが意外と少なく、せいぜい支部単位の交流にとどまっているのではないか。在日社会もいまや2世の時代に入ったが、これからの3世、4世を民団組織に目を向けさせるには、就職問題や結婚問題などさまざまな情報を提供できるネットというものがどうしても必要である。遅ればせながらも民団中央がネットに取り組むということは歓迎したい。
金永悦 同感だ。地元の民団支部活動などを通じて感じたことだが、青年会活動や民族教育を体験した2、3世の場合は民団組織に参加することが多い。そういう機会に恵まれなかった大多数の青年同士のネットワークづくりのために生活ネットは欠かせない。
金龍吉 時代の流れで、民団という組織全体の求心力の低下に歯止めをかけるとともに、在日同胞の生活面を強力にサポートしていこうとの意味だろうと思う。
〓〓もともと同胞社会にはネットワークがあった。たとえば冠婚葬祭の時にお互い助け合ったり、結婚相談にしてもそうだ。
金龍吉 そういう意味からすれば、かつての1世たちが運営していた民団には、まさしくネットワークがあったといえる。北海道から沖縄まで、中央本部を主軸に県本部、そして支部同士の横のつながりがあった。そのネット的役割が薄らいできたということかな。とすれば、生活ネットというのは本来あるべき民団の原点に戻ろうということになるね。
朴 民団は、1世の時代には基本的に権益擁護団体であったが、権利を獲得するための運動が主で政治的な側面が非常に強かった。それが世代交代をしていく過程で核家族化が進み、横のつながりが少なくなっていったのは当然な時代の流れともいえよう。そこで、民団が本来の権益擁護団体ならびに生活者団体として再生していくことが、同胞社会における求心力を高めることにつながる。多分野にわたる生活ネットの構築には、おおいに期待したい。
金龍吉 民団の求心力といえば、1世の時代が非常に強く、多くの人が集まった。その求心力の基はなにかといえば、本国から離れ異郷の地で生活するという帰属意識、民族的な意識に求められるのではないだろうか。それを2世や3世、4世に求めていくのは難しい。
これまでの民族心を民団の求心力にするというやり方に疑問を抱く人も少なくないはずで、求心力としてのバックボーンをどういうものにするのかという点を再考しなければならない。そういう意味からも2世や3世のためのネットワークづくりが、民団の生活ネットを構築する上でもっとも重要なポイントではないかと思う。
金永悦 まったくその通りで、民団のネットワークの再生は2世、3世と共に進めなければならない。生活ネットが若手経営者に活用されるようにすべきだろう。
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相互扶助のチャンサネット
まず共同購入を進めよう 金永悦
財政の立て直しに役立つ 金龍吉
権益守る交渉に効力発揮 朴健市
〓〓団員相互の情報交流や相互扶助を推進するための生活ネットのシステム化が必要だが、とくに経済活動をサポートする意味から「チャンサネット」について考えてみたい。
金永悦 それは、民団の傘下団体である商工会(現在の在日韓国商工会議所)を立ち上げたときの趣旨そのものだと思う。したがって、チャンサネットは原点回帰といえるのかもしれない。
朴 経済人同士のネットワークづくりという点で商工会議所の果たしてきた役割はそれなりに評価できるが、生活次元での経済活動のネットワーク化はイマイチで、各地にあった商銀も在日の中小零細企業に対するサポートが少なくなっているのではないか。
民団中央が直接ビジネスを手がけるということを避けてきたいきさつもあるが、チャンサネットを立ち上げれば在日同胞の経済活性化に大きく寄与することはまちがいない。たとえば、同業者が集まって情報交換をしたり、共同仕入れや新商品の開発などを進めていけば、ネット参加者の事業拡大につながるはずだ。
金龍吉 チャンサネットを多方面に展開していけばいずれは総合商社的な役割を担っていくとの構想をもった方がいいのではないか。在日同胞65万人の潜在的購買者のうち労働可能と推定される20万人ほどが販売者にもなりうる組織である。
民団組織をフルに活用すれば、日本の多くの消費者に物を売れるという潜在力を有しているはずだ。全国の団員が隣近所の人にいいものを宣伝して売れば、それが民団の財源になり、団員にも還元できる。
金永悦 最初はモデルケースの提示が大事だと思う。日本の場合、流通が複雑なために韓国の特産物を買おうとしてもわからないことがある。そこで民団では業者と共同で特産物のカタログ的なものを作り、通販なり前もって予約を受けるなどを具体的に示すことが必要だ。おいしいキムチがあってもそれをうまくプレゼンテーションできる人は少ない。企画や情報を提供すればネットへの参加は増えると思う。
金龍吉 阪神大震災のとき、ひどい被害を受けた場所のひとつが神戸の長田地区。この辺には在日同胞が多数居住していてサンダルを作っている店が多い。とてもいい商品が多いので日本の商社が買い付けに来るのだが、商品を買い叩かれるため採算ギリギリで出荷しているそうだ。泣いている業者が多いと聞く。もしチャンサネットが軌道に乗れば良い商品を別のルートで卸すこともできる。
朴 基本的にチャンサネットとは、同じ商品を作っている同業者たちの情報交換の場であり、切磋琢磨しながらより良い商品を作りネット販売していくことではないか。
〓〓過去において民団や商工会議所、商銀などでも経営コンサルティング的な試みは行ってきた。日本経済が低迷している中にあってこうした要請はますます高まっている。そこで、これからのチャンサネットはどういう役割が求められるのか。
金永悦 現在、焼肉業者やキムチ業者がいちばん望んでいるのは、包装や容器といった材料などを安く共同購入してほしいこと。個人レベルでは大手企業に価格面でどうしても負けるからだ。大手が1000円で手に入るものが個人だと1500円になってしまったりする。
金龍吉 確かに当社でもそうだが、これからの商品はきれいなパッケージに入れないといけない。ところが大手は何万という単位でパッケージを買うので安く仕入れることができる。まとめて共同仕入れする窓口があればかなり安くなるだろう。
朴 チャンサネットにはこれまで通りのコンサルティング的な役割は今後とも必要である。もうひとつはモノの交換、物流に関連したことだ。たとえば3年前と今回のBSE(いわゆる狂牛病)問題。また、キムチだって一時期週刊誌で麻薬的な要素があるとたたかれたことがある。そういったもので障害がでてきたときに、ネットがないと対応できない。
焼肉店の場合、3年前のBSE問題で、うちの統計だと昨年までに6000店はつぶれている。特に在日の店が多く、チェーン店展開している大手が近くに出店するとたちまち影響を受ける。当時、民団が強力な形で日本政府と交渉していれば、補助金は間違いなくおりたと思っている。全国の民団を結ぶ強力なネットがあればと惜しまれてならない。自分たちの権益、権利擁護のためにも、こういうネットは絶対に必要だと思う。
金永悦 ネットワークは、個人レベルでは難しいものを皆の力で解決できることがある。たとえばクレーム問題。個人では相手にするのが面倒くさくて泣き寝入りすることがあるが、専門的に法律面で対応できる窓口があればトラブルも少なくなるだろう。ほかにも、ラベル表示は今後厳しくなるのでそのデザインなどのアドバイスなどコンサルティング的手助けが必要になるはずだ。
〓〓チャンサネットというのは、業種ごとの協同組合的な役割、あるいは総合商社的な役割まで担うということか。ネットワーク作りと関連して団員らが果たすべき役割はなにか。
金龍吉 個人的な考えだが、チャンサネットができたら全国の団員が販売員と考えてもいいのではないか。同時に、販売するための優れた商品を発掘したり、アイデアを出してもらう。
これからは民団が中心になって販売を展開していくべきではないか。民団の財政問題を解決していく道でもある。
全国の団員通じ営業活動を展開
金永悦 これまで民団はビジネスをやることを避けてきた。しかし今やチャンス到来である。韓国焼酎の「真露」は日本社会でもしっかり定着したが、その成功の陰で在日同胞65万人の支援があったことを忘れてはなるまい。だから在日全体が立派な営業員といえよう。「民団新聞」という立派な媒体もあるのでチャンサネットを思い切って進めるべきだろう。
地方本部や支部ではここ数年、財政難に陥っているところが増えている。チャンサネットを立ち上げれば賛同する支部は増えるにちがいない。そうすれば、これまで活用されてこなかった潜在的人材の活用にも結びつく。
金龍吉 チャンサネットを開設するにはホームページを作るのだろうけれども、最近のネット取引は急速に増加し、そこに紹介されている商品はぼう大な数にのぼっているので、逆にそのホームページをどれほどの人が見るのか懸念される。ホームページはホームページでPRする一方で、やはりこちらから積極的にアクションを起こしていかなければならない。一歩進んで、民団の団員たちが「こんな韓国商品がある。いいですよ、一度買ってみてはどうですか」と訴えかけていく。待つのではなくこちらからアクションを起こしていく。そこまでできたらすごいだろうね。
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第1弾はキムチネットから
個性的商品で勝負しよう 朴健市
正しく伝えたい伝統の味 金永悦
白菜の確保が成功のカギ 金龍吉
〓〓生活ネットを具体的に立ち上げるには、在日のキムチ業者が全国的に存在するので「キムチネット」からスタートさせたいと考えるが、ネーミングは「キムチネット」でいいのか。
金龍吉 キムチこそ韓国食品の代表であると同時に日本人にもわかりやすいので、「キムチネット」の名称が適切だと思う。
金永悦 キムチは焼肉業界とも切り離すことができないし、韓国食品の代名詞としてのイメージがあるので「キムチネット」の名称に賛成だ。
金龍吉 最初はキムチ業者だけの方がやりやすいような気がする。まずは、共同購入を実現することによりキムチ業者が利益を得ることが第一。たとえばトウガラシや白菜、ニンニクといった原材料費が安く抑えられれば、販売する商品単価も抑えられる。
朴 キムチに一番合う白菜は韓国産だと思うが、現実的に韓国産は非常に高い。日本では、韓国から毎年種子を持ってきて高原野菜で作っているところもある。雨森芳洲の生誕地で知られる滋賀県高槻では町おこしの一環として白菜を作っているが、これが背丈があって水分が少なくパリパリ感がありキムチ用に向いている。
また、キムチ業者がほしいのが甘辛の唐辛子、ニンニク、そしてイワシのエキスかな。これらを共同で安く定期的に購入できるシステムを作れば、物販そのものも大きく広がっていくだろう。
〓〓百貨店やスーパーが産地直送でやるように、ネットを通じて希望者を募り日本や韓国の産地と契約し、各業者に分けてやる、ということでいいのか。
金龍吉 最初は利便性を図るためにその方がいい。
金永悦 いい白菜を大量に共同仕入れすれば、産地の農家も作ることに専念できて良い。これがキムチネットのメリットではないか。
金龍吉 しかし白菜に関していうと、これは季節商品なので一年中同じところでは採れないし、いいものは人気が高いのでなかなか個別的には売ってくれない。福島県内にもいい白菜を作るところがあるが、単独で頼んだ場合、冬季限定になってしまう。夏場の白菜でいいものは茨城県の一部と長野産になってしまうので買い手の競争が厳しくなる。
朴 その通りで、夏場の白菜でいいものは、国内では長野と茨城。どうしても業者が集中するので品不足になる。そこで日本の業者はオーストラリアやロシアなどで白菜を作っている。オーストラリアはちょうど季節が逆なのでいいが、おいしいものはなかなかできない。もう一つは、安いときに大量購入したものを冷蔵して保管しておく。よほどのネットワークを作らないと、夏場の白菜を確保することは容易でない。
〓〓白菜の共同仕入れは難しいということか。
朴 長野県の浅間山麓で作っている白菜は、耕地面積がかなり広く拡大の余地がある。その経営者も顧客を広げている段階なので交渉してみる価値はあると思う。キムチは品質のいい白菜が命といっても過言ではない。 金龍吉 まったく同感。品質や発酵なども重要だが、いい白菜を使うことがキムチのベースだ。業者はみな品質の良い白菜を確保するのに苦労している。冬場に比べて夏場の白菜価格は5〜6倍も高いが、買わざるを得ないのが現状だ。トウガラシやニンニクは少し高くても買うことができるが、白菜だけはそうはいかない。白菜を常時確保することができればキムチネットの目玉になる。
金永悦 共同仕入れできるキムチネットがあればこれ以上ありがたいことはない。どの業者も喜ぶはずだ。ところで、いま懸念されているのが、安い中国産キムチが日本に大量に入ってきている点だ。以前は質が悪いので売れないだろうと思っていたが、中国産の白菜やトウガラシが品質改善されつつある。トウガラシはいいものになってきている。今後は価格競争が激しさを増すと予想されるので、独自のおいしいキムチを開発することがますます求められる。
〓〓在日は品質で勝負ということになるが、本物のキムチとはなにかという話に移りたい。
朴 数年前の「キムチ論争」をきっかけにキムチの国際機関が設立され、国際規格ができた。その時を境にして日本の漬物業者も添加物の混入を抑える方向にある。国際規格が決まる以前は、小さなパックのキムチなどは、添加物を20種類くらい使っていた。とくにひどいのがいわゆるカットキムチ。細かく一口で食べられるサイズで作ったパックのキムチだが、これは基本的に発酵がなされていない。
金永悦 手間ひまかけた本来の手作りキムチをホールキムチというが、キムチネットで紹介する商品はホールキムチに限定すべきだろう。
金龍吉 重要なのはキムチに含まれる乳酸菌の量である。第一次発酵、第二次発酵したキムチは、1㌘中約8億個もあるのでとても体にいい。ところがカットキムチにはせいぜい30万個、多くて3百万個にすぎない。比較にならない差だ。テレビ番組「あるある大辞典」でキムチの本物と偽物について紹介していたことがあったが、こういうPRはキムチの品質向上には欠かせないだろう。
金永悦 カットキムチはわずかながらも発酵するので一般消費者にとって非常にわかりずらい。ただ、最近は少しずつ理解する人が増えてきているので、在日のキムチ業者は発酵ということを前面に打ち出して伝統的なホールキムチ作りを目指すべきだろう。
立ち上げの時の審査基準厳しく
〓〓本物の伝統のキムチを普及させていくうえで在日も大きな役割を担うが、品質向上にはどういう方法があるか。
朴 これからの食品は原材料名を表示することが大きな比重を占めるようになるので、添加物などが入っていれば、それで一般の人は区別がつくのでは。
金龍吉 それが意外と消費者は見ない。
金永悦 発酵キムチを普及させていく上で、たとえばキムチ製造協議会認定であるとか、ひとつの基準を提示するのが必要ではないか。そのためにも、生産者を厳しく選ばなければならない。キムチもどきのものを売れば、ネット参加業者皆に被害が及ぶ。とくに立ち上げの時は審査基準を厳しくしてもいい。
朴 同胞業者の場合、基本的に手作りをしているから、大丈夫だと思う。
金永悦 このクォリティをPRするのもネットの役目だ。
朴 私が最低限やってほしいのは、各業者によって作り方が違い、当然味が異なる。だから基準マークの認定をする時にそれぞれの業者の特性、個性を明確に出してあげてほしい。そうすれば、ネットを通じて「自分はこういうキムチが食べたい」といった要望にすぐに応えられるからだ。
金永悦 ネットワークのコンセプトはひとことで言って、正しく伝えるということ。韓国の伝統的味を日本のマーケットに広げるということは、結果的には食文化の正しい伝達になると思う。
金龍吉 うちの「高麗屋」のキムチは4カ条、つまり素材は最上のもの香辛料は韓国産ニンニクは青森産完全無添加を信条としている。
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新たな可能性求めて
フェスタ開催で販路拡大 金龍吉
次は「焼肉ネット」開設を 朴健市
同胞経済の底上げに活路 金永悦
〓〓最後に、生活ネットワークの実現によりどのような可能性、新たな広がりが持てるだろうか。
金龍吉 基本的に、日本の多くの人に知ってもらうことだ。そのためには本物のキムチを知る機会を増やしたい。たとえばキムチフェスティバルを定期的に開催したい。民団中央本部が実施している「民団フェスティバル」の会場でキムチの展示コーナーを作るのもひとつの手。ホームページで読ませるより、実際に目に触れ、味わうことができればこれ以上の効果はない。
朴 韓国でもキムチフェスティバルが開かれているが、そこは品評会であると同時に、ビジネスの場でもある。昨年11月のソウルで開催されたフェスティバルでは、新しい商品のキムチが紹介され、韓国のキムチは年々進化しているのがわかる。在日の作るキムチはなかなか進化しないので、日本で定期的にキムチフェスティバルを開けば、新商品の開発を刺激するだろうし、販路も拡大されていくはずだ。ビジネスチャンスの場を提供することもネットの役割だと思う。
金永悦 ネットの場合は在庫リスクもないし、人件費も少ない。
朴 最近はキムチ冷蔵庫があるので品質管理は数カ月間可能だ。
金永悦 品評会をやる場合には日本人の専門審査員を動員すべきだ。同じ熟成でもワインには基準があるのにキムチに基準がないのが悔しい。今後の課題の一つだ。
朴 日本の専門家にはキムチや塩辛類に関しては抜群の舌と経験と知識を持っている人がいる。そういう人に「5つ星」の段階的基準を設けて品評会をするのもおもしろい。また、優良焼肉店の経営者を講師にして研修会やセミナーなどを開催するのもいい。
金永悦 民団が本気でやればいろいろと面白いものができると思う。キムチフェスティバルをやるなら、民団は本物だけを選んでやらないといけない。
〓〓キムチネットが発展していくことで、既存組織も発展していく。キムチネットと既存組織の相関関係はどうあるべきか。
金永悦 いいものを作っていい商売をやりたくても、個人の力が弱ければどうにもならない。民団が、生産者である団員たちに基準を示していくべきだ。民団が交通整理をするというか、誘導・案内役をしてほしい。いいビジネスを行なう上で民団はそういう役割をできるのではないか。そしていいビジネスができれば結果的に民団にプラスになる。韓国商工会議所が中心的役割を担っていけば難しいことではないと思う。
朴 キムチネットを立ち上げて、実際に動いていきながら、一般消費者にとってもよりいいものが食べられて、業者にとっても商売が拡大していくということになれば、キムチはいわば韓国食品の王様だから、韓国の食文化とは何なのか、韓国の伝統文化とは何なのか、あるいはネットの中心となる民団に対しても関心がわいてくるだろうと思う。
キムチがこれだけ普及したのは、韓国と日本の一般市民の相互交流と相互理解を高めてきた触媒の役割を果たしてきたということだと思う。このネットが機能することで、在日のものづくりに対する情熱と、誇り、それから民団の役割といったものも見直せるだろう。このネットが成功すれば、違ったネットもどんどん作っていけるし、そうすれば同胞社会の経済活動も活発化していくだろう。
金龍吉 キムチのみならず、ほかにもさまざまな業者がいるわけだから、在日を中心としたネットをたくさん構築していけば、その結果としてチャンサネットあるいは民団商社のような形でネットワークをひろげていく。
そうしなければ、これからの民団あるいは在日社会というものは生き残っていけないのではないか。そういう方向性を提示する上で非常に意義のあるネットだと理解している。
朴 私は、キムチネットをつくったら、早急に焼肉店のネットを作ってほしいと思う。焼肉店は在日同胞食文化の総合的な販売店だからだ。焼肉店は非常に困難な状況に陥っているから、いまこそ横の交流、共助、といったことができれば在日同胞の焼肉店ももっと発展するだろうし、3世、4世も韓国の食文化に興味を持って、自分もそこでビジネスをやってみたいという者も出てくると思う。だからキムチネットの次には「焼肉ネット」をぜひ立ち上げてほしい。
在日業者に対し強力サポートに
金永悦 最後にこれだけは言わせてほしい。キムチがこれだけ認知されたことで、一番得したのは誰かというと、それは日本の漬物業界である。それに比べて在日の業者は苦労している。なぜかというと、漬物業界の場合は大きな団体のバックアップが強くあったからだ。今後はキムチネットによる全国的なネットワークを築けば在日業者の大きなサポートになるはずだ。
〓〓キムチネットの成功が、在日同胞の組織や経済面での活性化につながることを期待したいということですね。ありがとうございました。
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「高麗屋」代表 金龍吉氏
キム・ヨンギル 1953年福島県生まれ。明治大学卒。在日韓国青年会中央本部副会長、民団福島県本部副団長などを歴任し、現在は県本部副議長。韓国惣菜「高麗屋」(こまや)を営み、福島県内のスーパーなどにキムチを中心に卸している。本物のキムチの普及を目指し、最上の素材にこだわる。
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月刊「焼肉文化」代表 朴健市氏
パク・コンシ 1948年横浜市生まれ。明治大学卒。88年に㈱アールオーケイを設立。在日同胞文化の代表といえば「焼肉」であるとの強い思いを抱くようになり、92年に月刊「焼肉文化」を創刊し現在に至る。焼肉店の地位向上と、韓国の食文化を正しく普及させることに努力している。
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「オフィス東京」代表 金永悦氏
キム・ヨンヨル 1953年韓国忠清北道永同生まれ。拓殖大学卒、商学博士。元在日本韓国留学生連合会会長。現在は㈱オフィス東京代表。在日本韓国食品協議会会長を務めながら「発酵してこそ真のキムチである」と訴え続け、韓国の伝統キムチ、ひいては正しい韓国食文化の普及に努めている。
(2004.2.4 民団新聞)