掲載日 : [2004-03-17] 照会数 : 5482
〞どん底〟から共生へ 篠藤由里(作家)
ひょんなことから、芝居の制作に参加することになった。梁石日氏原作の映画「夜を賭けて」の監督もつとめた金守珍氏率いる劇団・新宿梁山泊の春公演に、座付作家と共同執筆という形で脚本を書くことになったのだ。
そもそもは、ゴーリキーの『どん底』を現代の大久保に置き換えられないかというところから始まった話だ。
新宿と隣り合わせの大久保は外国人の住居率が高い町で、ニューカマー、在日を含めコリアンも多いし、中国、南米、東欧、中近東など、様々な国からやってきた人々が暮らしている。そんな町にある、長期滞在者を受け入れる怪しい簡易宿泊所を舞台に繰り広げられる人間模様。そこから、今の日本が見えてくるのではないか。
執筆も大詰めを迎えたある日、在日の知人から、不法滞在密告制度反対の署名に協力してほしいというメールが送られてきた。2月16日から法務省入国管理事務所はホームページで、「不法滞在等の外国人情報」の匿名による情報提供の受け付けを始めた。
これはまさに密告制度、体のいい外国人狩りと言ってもいい。共生の時代などという口当たりのいい言葉が語られる一方で、現実の日本はこんな具合なのだ。
多文化が共生していくことは、日本にとっても財産となる。その事実を身をもって示すことができるのは、この国に2代、3代に渡って暮らしてきた在日の人々だと思う。
こんな息苦しい時代だからこそ、在日が果たすことのできる役割は大きいのではないだろうか。そのパワーがわが国に刺激を与えてくれることを、私は期待している。
(2004.3.17 民団新聞)