掲載日 : [2004-04-14] 照会数 : 4102
無年金定住外国人への救済措置に関する要望書 全文
全国の民団幹部による8日の統一陳情行動で衆参議員らに伝達した「無年金定住外国人への救済措置に関する要望書」(全文)は次のとおり。
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拝啓 ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。
平素から国際社会における人権擁護と社会保障にご尽力されている貴殿に対して心からの敬意を表します。また、韓日親善並びに在日韓国・朝鮮人の地位向上にご理解頂き、感謝申し上げます。 さて、今国会におきまして最大の焦点であります年金制度改革関連法案が、さる4月1日より審議入りしています。折しも、3月24日には学生無年金障害者訴訟で、東京地裁は『日本政府が保険給付を受けられる立法措置をとらないまま放置したのは法の下の平等を定めた憲法に違反する』との判断を示しました。この無年金障害者の問題は、2002年7月に坂口厚労相が発表しました救済試案によりますと、当初、学生に限定していましたが、定住外国人を含めた全ての無年金障害者を救済対象と拡大しております。長年にわたって定住外国人の無年金障害者の救済を訴えてきました本団は、大きな前進と考え期待もしていましたが、今日まで何ら具体策が講じられていないのも事実です。
今回の東京地裁の違憲判決では年金制定時に20歳前と20歳を過ぎて障害を被った人に対する取り扱いに差があったにもかかわらず、1985年の改正時にさらに拡大したことを指摘しています。このことは定住外国人が1961年の制定時に納税義務を果たしながら無年金状態におかれたまま、何の措置を執られず放置されている状況にも同じ事が、言えるのではないでしょうか。本来であれば、国籍要件から居住要件に改定した1982年に、社会的状況の変化に照らして、日本人に対して取ってきた様々な経過措置が執られるべきであったと思います。
国籍要件の撤廃によって年金の強制適用を受ける定住外国人は、保険料によって日本人高齢者を養いながら無年金状態の親も養うと言う二重の負担を強いられているのです。また、定住外国人無年金障害者は他の障害者家庭と同様、頼るべき親は高齢化し、なおかつ無年金状態にあるのです。このように定住外国人の障害者や高齢者は生活上の困難を抱えている人々が少なくありません。
本来、国民年金は生活を営むうえで必要最低限の保障制度です。しかしながら、無年金状態にある定住外国人の人々は本人の意志にかかわらず、国民年金制度から排除されてきました。
このような状況を踏まえ、今回の違憲判決の対応として超党派の議員連盟が提出しました緊急決議文に則った無年金障害者への救済措置とあわせて、定住外国人無年金高齢者への救済措置をこの度の年金制度改革関連法で施していただけることを強く求めるとともに、一刻も早く解決されるようお願い申し上げます。敬具
記
1、要望
(1)1986年4月1日の時点で、60歳を超えていたという理由で、老齢福祉年金(86年から老齢基礎年金に変更)の受給が認められていない無年金定住外国人に対する年金制度による救済措置
(2)1982年1月1日の時点で、20歳を超えていたという理由で、障害福祉年金(86年から障害基礎年金に変更)の受給が認められていない無年金定住外国人に対する年金制度による救済措置
2、理由
ご存知の通り、無年金定住外国人の多くは、在日韓国・朝鮮人一世であり、日本の植民地支配の結果、日本に渡日を余儀なくされ、最も辛苦を背負った人々です。更にこうした人々は、時の日本国政府の必要に応じて天皇の臣民とされ、1952年のサンフランシスコ講和条約発効時には、一方的に外国人にされ、一切の権利を剥奪されました。つまり日本国は、この人々を一人の人間としてみなさず、物を扱うように必要な時に使い、必要でなくなったら捨てたと言わざるを得ません。 営々と納税義務を強いられながら、日本人なら受けられる年金を受ける権利も保障されず、高齢が故に生活の不安にさらされながら、無年金のまま置かれています。また、時代の流れと共に、こうした人々の中には、既に亡くなった人も多数おられ、一刻も早い救済措置が求められます。
さて、日本政府は難民条約批准に伴う国内法整備の必要を迫られたことから、1982年1月1日、加入資格が日本国民に限られていた「国民年金法」を改定しました。 その結果、国籍条項が撤廃され、定住外国人にも国民年金加入の道が開けました。ところが、25年間の支払期間を満たせないという理由で、当時35歳を超えていた人々を老齢基礎年金から排除(当時の受給は60歳からだったことに依る)し、同じく20歳を超えていた障害者を障害基礎年金から排除するという理不尽な対応でした。
その後、1986年の改定により、老齢基礎年金に関しては、いわゆるカラ期間(資格期間とは見なすが、年金支給額の計算には入れない期間)が導入され、1982年当時に排除された方々が、一部救済されました。
とは言え、1986年改定時点で、当時60歳を超えていた方々は、物理的に加入期間が全くないことを理由に排除された上、日本人同等に税負担をしてるにも拘らず、同様のケースの日本人高齢者ならば受給できた老齢福祉年金(全額国庫負担)の受給が一切認められませんでした。
また、障害基礎年金に関しては一片の改定もなく、弱者の中でもさらに弱い人たちが切り捨てられたまま、今日に至っております。
1961年の「国民年金法」施行時、年齢的に25年間の加入期間を満たせなかった人々には、10年間の短縮年金などが認められましたし、1972年の沖縄本土復帰の際には、制度が施行できなかった約10年間を保険料免除期間とするなど、日本人に関しては充分な経過措置がとられました。 ところが、国籍要件から居住要件に改定した1982年には、日本人に対して取った様々な経過措置がまったく適用されなかったために、無年金定住外国人が生まれるに至ったわけです。
一方、現状を踏まえ700以上の地方自治体が、地域住民であるこれら無年金定住外国人に対して、独自の福祉手当として「高齢者特別給付金」や「障害者特別給付金」を支給しています。
こうした特別給付金は、地域住民である定住外国人が、健康で文化的な生活が営めるよう配慮した、地方自治体の自主的な取り組みとして高く評価できます。また、無年金定住外国人の介護保険制度による保険料負担や基礎年金との格差を是正するために、特別給付金の増額に踏みきった自治体もあります。
しかし、各自治体のこのような取り組みは、あくまでも「国民年金法」の根本的不備によって起きた定住外国人に対する不利益を、人道的な立場で救済する措置であり、金額も国民年金に比して低額であります。
また、特別給付金を支給していない多くの自治体は、無年金者の問題は、国のレベルで調査・検討されるべき課題との認識を示しています。数多くの自治体からは国に早期是正措置を要請する意見書が提出されています。
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日本の行政府、立法府はこのような状況を直視し、該当する定住外国人が本人の過失で無年金状態になったのでないことを認識した救済措置を早期に施していただきたいと思います。そして、本当に厳しい生活を強いられている無年金定住外国人に、これまでの労苦を思い、豊かな老後を保障する取り組みが「人権国家」、「国際国家」を提唱する日本国に求められています。
2004年4月8日
在日本大韓民国民団中 央本部 団長 金宰淑
(2004.4.14 民団新聞)