掲載日 : [2002-11-27] 照会数 : 4334
母国修学・自己見つめ直す契機に(02.11.27)
[ 今年ソウルで開かれた在日同胞母国修学生研修会 ]
母国修学・国語、文化修得のチャンス
幅広い視点を育む
帰国後は同胞社会で活躍
体験談から
民団が在日同胞社会の後継者育成のために本国政府に要請し、1962年からスタートした「母国修学制度」。同制度は母国の大学や大学院が、母国での学生生活を望む在日同胞学生を定員外入学として受け入れている制度で、昨年までの修学生数は4600人を超えた。ウリマルや文化、歴史などを学ぶのはもちろんのこと、韓国人としての自覚や自信をはぐくんで帰国する同胞学生は多い。母国修学体験者に話しを聞いた。
母国修学を選択する理由は、言葉の習得、親の薦めなど千差万別だが、李鳳来さん(55・美術商)=東京在住=は、日本での大学生活を通して、このままでは韓国人として物足りないまま終わってしまうのではという一種の危機感を感じて決意したという。また、李菊枝さん(47・広島韓国学園講師)=広島在住=は、韓国に対してマイナスイメージを持っていたが、高校2年生の時に夏季学校へ参加したことが契機になり、母国をもっと知りたいという一心から選択したという。
意気揚々と母国に足を踏み入れてみたが、最初に突き当たるのが「言葉」の壁だ。朴英美さん(49・韓国語講師)=大阪在住=は、自分の気持ちや考えをうまく伝えられないことがこんなにも辛いことかと思ったと、当時を振り返る。全く話せない状態で修学生となった楊松美さん(34・主婦)=埼玉県在住=も、大学での講義を理解するのが1番難しかったと話す。
ウリマルの習得にはもちろん時間はかかるが、修学を通して得たものは大きい。李和枝さん(50・東京韓国学校初等部教師)=東京在住=は、韓国人であり祖国があるという自己の再確認ができたと強調する。鄭文植さん(48・大阪韓国商工会議所)=大阪在住=は、修学当時、韓国はダメな国だという固定観念にとらわれ、韓国のよさに気づいていなかったが、修学を通して視野が広くなったという。
朴英美さんは「韓国人に対する劣等感、韓国人らしくない韓国人だという〞引け目〟がなくなった。母国語を話せるようになり韓国を知り生活することで、韓国人の〞血〟だけだったところに骨や肉がついた感じ」だと自身の変化について語る。
一方、母国で大学や大学院を卒業した彼らは、その体験を現在、どのように生かしているのだろうか。
李和枝さんは、ソウル教育大学を卒業し、海外同胞国家公務員第1号として本国の国民学校で教鞭をとり、現在は東京韓国学校初等部で勤務。満29年を迎え、教務主任の仕事に携わっている。朴英美さんは金剛学園幼稚園の先生を務め、現在は韓国語通訳や講師、それから子どもの通っている学校の民族学級保護者会で活動をしている。
そして、李菊枝さんも現在、広島の小、中学校で国際理解教育の講師、日本の高校で韓国語の非常勤講師、そして、広島韓国学校で月2回、土曜学校で在日のオリニたちを指導している。
苦労も多いが、それ以上に得ることの多いのも母国修学だ。彼らにとっての母国修学とは何だったのか。鄭文植さんは、「一人の人間として成長するのに貴重なものを与えてくれた」、楊松美さんは「自分を再認識させてくれた」、朴英美さんは「心の宝物」、李菊枝さんは「自己と向き合う接点になった」と、それぞれに貴重な体験を積んだと表現している。
李尚美さん(25・アシアナ航空広島支店)=広島在住=は、どんな状況にも負けずに、最後までやりとおすことの大事さに気がついたという。
大学(院)を修了する同胞学生の中で、挫折して帰日する学生がいるのも確かだ。これから修学を視野に入れている後輩たちについて、李鳳来さんは「なぜ自分が韓国で勉強するのかということを、きちっと考えてほしいし、覚悟がいる」と指摘する。李菊枝さんは「修学中、在日であるからこそ自分が何ができるかを考える時間を送ってほしい」という。
鄭文植さんは、在日韓国人の青年にとってアイデンティティの確立のためには、母国修学は大きな役割を果たすと思うので、行く機会があれば、韓国というものを素直に受け入れてほしいと語る。
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母国修学制度の沿革
「日本に居住する在日韓国人で、日本の学校教育課程を12年以上履修した者、または同等以上の学力があると認められた者に対し、大学入学を認める」制度。62年から実施された。当初、学生指導はソウル大学校の附属機関である学生指導研究所が担当、ウリマル教育は同大学「語学研究所」が担当したが、現在は組織改編され、国際教育振興院が受け持つ。81年短期教育課程が新設、語学研修だけの志願者も受け入れる。92年「教育部」直属機関として、ソウル大学校の在外国民教育院を吸収、現在の「国際教育振興院」として改編。大学(院)への予備(長期)教育課程(約7カ月間のウリマル講習を受け、翌年に大学を受験する)と、短期間の語学教育を実施する短期教育課程の2課程が実施。
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全国7都市で事前説明会
母国修学をめざす同胞青年と父母らを対象にした全国巡回事前説明会が25日、札幌を皮切りにスタートした。12月5日まで全国7都市で開かれる。
巡回説明会は、勉強、下宿、費用など母国修学に必要なすべてを国際教育振興院の担当者が説明する。
日程は次の通り。
▽仙台=27日14時・民団宮城県本部▽東京=29日14時・韓国中央会館▽新潟=30日14時・民団新潟県本部▽愛知=12月2日14時・民団愛知県本部▽大阪=3日15時・民団大阪府本部▽福岡=5日16時・民団福岡県本部
(2002.11.27 民団新聞)