掲載日 : [2007-01-31] 照会数 : 9616
中央本部の財政問題と民団新聞(上)
宣伝機能を強化し苦境克服の尖兵に 直送規模の適正化に鋭意
中央本部の財政で最大の比重を占める民団新聞の普及経費に、厳しい視線が注がれている。政府当局の指導監査の結果、「発行部数を漸進的に縮小するなど、現実化のため相応の努力」を認めながらも、「発行および無料直送規模は依然として過多」であり、「民団全体予算に大きな負担」と指摘している。
これについて本紙の立場を明らかにしたい。民団の宣伝・広報活動とは何かを、団員皆さんとともに考えてみたいからだ。まず、「過多な無料直送規模」について。これには当然、財政的立場と運動論的立場、あるいは実と情が絡み合う複雑な実態がある。
本団規約の機関紙運営規定の第3条は、「民団新聞の発行は中央本部が担当する」とある。第5条は、「地方本部及び支部は機関紙発行の趣旨に則り、これを全団員の世帯に普及する責任を負う。団員世帯に対する配送は直送制を原則とする」と定め、第6条は、「民団新聞の製作及び配送の諸経費は受益者負担を原則とする。但し、不足経費に関しては、中央本部・地方本部・支部が負担する」と規定している。
20%台の配付率
①機関紙の製作は中央本部の責任で行う②全団員世帯への普及は地方本部・支部が責任を負う③諸経費は受益者負担とする−−これが3原則である。徴収団費の一部を購読料と見なすか、別途に購読料を集金するかはともかく、受益者負担を大前提に、郵送と戸別訪問によるとを問わず、機関紙を団員に届ける業務経費は地方本部・支部の負担とされている。
しかし、②の普及責任と③の受益者負担の履行は、過去の実態から難しいとの判断があった。それでも、機関紙はすべからく届けなければならない。直送制の導入と不足経費の組織負担が明記されるだけの必然性があった。
直送制の歴史は古い。79年3月の第39回中央委員会では、「完全配布を期すために中央直送制度を導入した」ことを報告し、「全国5万世帯に対する直送体制を確立する」方針を打ち出した。理由として、「過去の配布実態が中央‐地方‐支部‐団員という配布体制に依存した結果、発行部数に比して20%程度しか配布されていない」事実をあげた。同中央委は直送制によって、「支部活動が微弱な僻地団員に大きな好評を得、地方組織に山積されたまま廃紙に変わる醜悪な現状はほとんど解消された」と、高く評価している。
指導団体の決意
いま問題の大規模直送は、現行の機関紙規定を定め、全団員世帯への完全直送を決議した1996年3月の第47回中央委員会に始まる。直送規模は順次拡大し、最大で10万部近くを数えた。そこには、従来とはまた別の大きな理由があった。「唯一の同胞指導団体」として、それを自覚のみにとどめず、実体化しようとする民団の決意である。
この中央委では現行の第6次宣言を採択し、「反共理念のもとに全僑胞を包摂する」の常套句を削除し、「在日同胞社会が不幸な歴史の共有者であり運命共同体であることを認識し、国籍と所属を超えた幅広い交流・和合により同質性回復」に尽力することを挿入した。
同宣言にもとづいて、配布先を団員だけに限定せず、日本籍か朝鮮籍か、あるいは朝鮮総連系同胞かを問わず、可能な限り対象を広げた。また、地方参政権獲得運動や共生理念に対する理解を広げるべく、国会議員や大都市部の地方議員、各種公共機関や市民団体に送付したことなども、数字を押し上げた。
その間にも、大手本部を中心に、中央本部に納付すべき発送実費の長期滞納が再三問題になっており、47回中央委でも完納が厳しく督促されていた。繰り返し言って、機関紙規定が直送原則を打ち出したのは、地方本部・支部に留め置かれたまま配布率が低迷していたからであり、「無料」化したのは地方本部・支部の経費負担が原則でありながら、その実行がままならなかった実情による。現行普及体制の実態は、地方本部・支部による中央本部への業務委託である。
いずれにせよ民団は、普及の経費規模やそのあり方よりも、効果の拡大を優先してきた。しかし、機関紙の普及経費の現状は放置されるものではない。中央本部は04年6月に、専門委員会として民団新聞運営委員会を発足させ、紙面充実と合わせて経費節減に本格的に取り組み始め、05年と06年の中央委員会で、監察委員会から高く評価される実績をあげた。
04年6月時点の発送部数は約7万4000部で、昨年11月末現在は約5万2400部。ざっと2万1000部の削減だ。不実読者と同一人への重複配布の一掃化など地道な努力だけではない。児童・生徒の多文化共生意識を育ててもらう材料として、各日本学校に発送されていた部分まで打ち切った。この大ナタは前執行部によるが、本紙を教材としていた教師たちに失望を広げた。
運動論の観点も
民団新聞の読者は、一般に機関紙と称される新聞としては幅広い。私たちと共生理念を共有し、またそれが可能な日本人団体や個人も含まれる。同胞読者も、高齢化や生業引退で団費を払えないが、民団新聞を楽しみにしている熱心な団員、団員としての自覚は弱く団費も未納だが、民団周辺で何らかの協力をしている同胞、民団と何らつながりがないが今後、団員になるか協力者になり得る同胞など、さまざまな立場がある。
経費だけを考えて直送規模を縮小するのは、運動論の観点からは抵抗もでる。直送規模の適正化に鋭意努力するためには、読者全体の実態調査を実施すること、民団新聞の普及のあり方を機関紙運営規定に極力近づけること、この2つが前提になろう。財政的な苦境にある民団にとって、その苦境克服のためにも、宣伝機能の弱化は許されない。経費削減と宣伝機能の強化という、二律背反の課題を同時に追求する決意である。
(2007.1.31 民団新聞)