掲載日 : [2007-12-05] 照会数 : 12474
開設2周年の歴史資料館 来館者と心通わせ
開設2周年を迎えた在日韓人歴史資料館には、来館者から様々な声が寄せられる。それらの言葉は資料館の存在意義を映し出す。同胞にとって自分史再発見の場であるだけでなく、日本人にとっても在日の存在と韓日関係史を知り、歴史の教訓から共生社会実現の必要性を学ぶ貴重な施設になっている。
自分史再発見/日本の過去直視/共生社会へ決意
準備不足を時が補い展示資料が充実してきた。同胞たちの記憶を刺激し、資料の寄贈意欲を掻き立てるのだ。都内の同胞主婦は「すっかり忘れた子どもの頃の生活用品が懐かしい。とくに炊事場周辺の物や洗濯道具。自分も家で探して見る」とのこと。「これからの人たちに在日が歩んできた大変な時代をぜひ、深く広く見て欲しいし、在日初の歴史・生活資料館として大きくなって欲しいから」と付け加えた。
三鷹市の姜朋子さん(主婦・55)は「生活史はある程度両親から聞いていたが、《もの》を見、写真を見て、このような中で私たちを育て教育してくれたのかと、涙が流れた」と語り、「お役に立てることがあれば、声をかけてください」とも。札幌市の趙善子さん(主婦・56)は、「母が調布に住んでいたので、多摩川べりの砂利採取の模様が興味深く、展示物の中に母がいるように思えた。話には聞いていたが、実際に写真などで見ると迫ってくるものがある。まさに私たちの歴史だ。上京のたびに訪ねるつもり」と言う。
年配の同胞たちにとって資料館はまさに、自分史の記憶を引き出す打ち出の小槌、歴史認識を鍛える道場なのであろう。歴史を整理し、認識を深める‐しかしそれは、日本人にも言えることだ。
夫婦でじっくり見て回ったという都内の小幡詩子さん(翻訳家)は、「日本人は今、自信を失いつつある。負の遺産に直面しなかったし、しようとしていないからだと思う。日本全体の来し方を見つめ直し、行く末を眺めたい」と話す。ホームページを見て立ち寄った金沢市の公務員・赤堀康子さん(54)は、「祖父・父が朝鮮で働いていたことがあり、解放以前の資料に関心があった。日本と日本人がした事実を直視するため来た」と述べる。
母から日本軍がアジア諸国に酷いことをしたこと、戦後も在日を差別してきたことを教えられた調布市の和田京子さん(主婦・38)は、「大人になった今、もっと深く在日の歴史を知りたいと思った。娘が学校の宿題で差別を取り上げるので、娘にぜひ伝えたい」と語ってくれた。
研究・研修のための来館者もタイプは様々だ。指紋押捺撤廃運動に関心が深い佐賀里有加さん(大学院生・23)は、「卒業研究で福岡市の3・1文化祭を調べている。その文化祭が行われるようになった背景に、指紋押捺問題があったので」とのこと。「ゼミで各班に分かれて在日を調査している。まったくゼロの状態から始めたので、展示すべてが興味深かった」という大学生も。研修目的の松館寛さん(団体職員・53)は、「強制連行の実態がとても有意義だった。日本と在日が相互信頼関係をつくるには、強制連行を正しく知ることが重要だ。若い人たちにもっともっと足を運んでもらいたい」と強調する。
教育現場に生かそうと来館する教師も目立つ。「差別される側のことを考えさせられる。子どもを教える立場の人はとくに知っておくべき展示と解説だ」(都内の教員・宮田京子さん)。「厳しい生活のなかでも、民族の誇りを忘れず、祖先への行事を行っていたことに驚いた」(都内の小学校教諭・亀ヶ谷眞百合さん)。
日本人は在日史や韓日関係史への興味を触発されずにはおかないようだ。「戦中の同化強要から戦後は一変して排除する経過があったことに驚いた」と語る春日部市の島本彩加さん(大学生・20)も、「土曜セミナーや文化的な交流会にも参加する」という一人。「3・1独立運動の前に東京で2・8運動があったことを知らなかった。展示すべてが充実していて、いくら時間があっても足りない。わが国の一員となり、根を下ろしている在日の歴史と現状をもっと知らなければ」と三宅島三宅村の松浦賢治さん(公務員・34)。
再度来館したいという人、周囲に来館を勧めるという人が予想以上に多い。「前を通りかかって」という坂田佳奈子さん(ヴァイオリニスト・28)は、「全部が印象深かった。日本人として言葉も出てこない。在日の友人から話は聞いてきたが、もっと勉強したい。また、ゆっくりと見るつもり」。
親に教えられて来たという日本人は、「新聞で在日についての記事を読んでも、関係ないと思ってしまう人は多い。資料館のことを友達に話す。多くの人に知ってもらいたい」。前述の小幡詩子さんも、「私たちにできることは少ないが、同年代の夫婦やその子どもたちに、資料館の存在を知らせて行きたい」と言った。
相互理解の深化と共生社会実現への決意も、自ずと導き出される。家族写真が強く印象に残った会社員・具志潤子さん(54)は「家族の姿も笑顔も同じなのに、溝をつくる勢力があることが悲しい。従軍慰安婦問題も、自分の妻や娘を考えたらただ頭を下げ、謝ることしかできない。お互いが理解し合い、違いを尊重できる日が実現することを望んでいる」。
ある日本人大学生は、「歴史は風化する。このような形で残さなければ、いつしか日本のなかで在日の歴史は忘れ去られてしまう。それは日本人にとっても、とても悲しいことだ。日本社会をマイノリティーが住みやすい国にするために、資料館のさらなる発展を願う」と結んだ。
(2007.12.5 民団新聞)