チマ・チョゴリの格式活かし
凛とした気品 演出
テレビ、映画、舞台などのヘアメイクアーティストとして活動してきた在日韓国人3世の李佐奈恵さん(44、東京・豊島区)。二女の妊娠を機に退いたが、2年前に和・洋装、韓式スタイルを手がけるブライダルヘアメイクアーティストとして新たなスタートを切った。「いい日を迎えさせてあげたい」という思いを込める仕事に、こだわりと美意識が光る。
「誇りを崩さずに」
芸能界売れっ子から転身
佐奈恵さんは、結婚式を人生の一大イベントとしてとらえる。リハーサル前の入念な打ち合わせを通して、依頼者の人柄や思考、趣向などを把握したうえでテーマの提案もする。例えば「花」がテーマであれば、お色直しに数種の花を使ったり、花で埋め尽くすような演出をする。
人生最高の舞台だからこそ、依頼者もこだわる。「お客様の求めるものが多ければ多いほど、こちらもやりがいがあります。綺麗にして差し上げることは当然ですが、私がやらせていただくのであればこだわりとか満足感、安心感、期待感を持っていただきたい」
佐奈恵さんが細部にまでこだわり、気を配るのは自らの結婚式に起因する。「芸能関係の仕事をしていたとき、あまりの多忙さにリハーサルもほとんどできない状況でした。化粧も合わず自分でやり直したほどです。とても悲しかった」
学生時代、好きな映画の作り手に回りたいと思っていた。当時、あまり知識のないなかで、女性のできる仕事として思いついたのがヘアメイクだった。その後、通信教育で2年間、美容に関する勉強を続け、アルバイトで美容室に入り、技術を修得していく。
この時期、見習いにも関わらずカットやブローなどの指名が何度も入った。経験のないことを告げると「次にくるまで覚えて」と言われることもあった。
高島礼子さん専属のころも
転機を迎えたのは18歳の時だ。美容室の客だった編集者から声をかけられ、雑誌を皮切りに、CM界でヘアメイクアーティストとしてデビュー。おニャン子クラブのコンサート、アシスタントとして待望の1作目となる映画「湘南爆走族」に参加。2作目ではチーフとして起用された。また女優、高島礼子さんの専属以外にも有名女優、俳優を手がけてきた。
これまで順風満帆できたかのように思われるが、陰で人一倍の努力を重ねてきた。ただそのことをあえて口にはしない。また不規則な生活を送る娘を案じるばかり、烈火のごとく怒る父親との葛藤もあった。
長女出産後も実母の協力を得ながら仕事はこなしたが、多忙のために面倒を見ることもままならず、長女との関係が一時期、崩れたという。3年前、二女の妊娠を機に芸能界から退くことを決意。保育園に預けることを提案されたが、子どもたちを他人の手にゆだねることはできなかった。
以前から興味のあったブライダルの仕事を通して復帰を果たしたのは、「髪を振り乱していつも怒っているお母さんより、仕事をし生き生きしている姿を娘たちに見せるほうがいい」という判断からだ。
ブライダルで心がけるのは、「民族衣装や洋装にかかわらず10年、20年後に見てもおかしいと思われないように仕上げる」こと。特にチマ・チョゴリは「凛とした気品のなかに優しいイメージ」があるという。「格式の高い古典衣裳に今、流行のヘアメイクでは釣り合いが取れません。伝統の衣裳を着るという気持ちのなかに韓国人としての誇りを崩さずにいたい」。佐奈恵さんの大事にしているこだわりだ。
「お客様の内面から出るものを引き立たたせられたら大成功です。最高の幸せな日を迎える方たちの喜ぶ顔は綺麗なんです。これからもお客様とともに作っていきたい」と意欲を示す。
問い合わせ・申し込みはウェディングメイクアップ(℡03・5391・4488)、ホームページ
www.weddingmakeup.jp
(2008.1.16 民団新聞)