掲載日 : [2009-12-09] 照会数 : 5639
北送開始から50年 総連の責任追及にまたも「時効」の壁
[ 最後まで闘うと涙ながらに話す原告の高政美さん(左) ]
元在日同胞脱北者の訴え棄却 大阪地裁
【大阪】北韓を「地上の楽園」と偽り続け、在日同胞とその日本人妻を含む9万3000余人を北韓に送り出した総連の責任を問う元在日同胞脱北者、高政美さん(49、八尾市)の訴えに対し、大阪地裁の徳岡由美子裁判長は11月30日、「時効」を理由に棄却判決を下した。同様の理由で、04年には金幸一さんが最高裁で敗訴している。北送第1船が新潟港を出発してから14日で50年を迎える。
除斥期間を適用 損害賠償認めず
高さん側は、「北送事業は北韓の指示命令に従った総連による誘拐・拉致」として慰謝料などの損害賠償1100万円を請求していた。
これに対して判決は、05年7月28日に日本に戻ってから提訴するまでに2年10カ月余りが過ぎていることを理由に、賠償請求権が消滅するという除斥期間を適用した。
裁判所側が要求する提訴までの猶予期間は6カ月以内。高さんのような脱北者が北韓に残る親族を案じつつ、本名をさらしてまで提訴を決心するのがどれだけ大変だったのかについては一顧だにしていない。ちなみに高さんが提訴して以来、北に残した家族とは音信不通になっているという。
また、北韓による誘拐行為、実行正犯たる総連の誘拐行為という原告側の主張についても触れようとしなかった。
「帰国者」の保護 総連の責任不問
帰国事業の実務一切を取り仕切った総連と「帰国者」の間には「帰国契約」が成立するというのが原告側の主張だった。 原告側代理人によれば総連側は新潟港からの乗船を前に決意の揺らいだ同胞らに「いったん、船に乗れ。後で降ろしてあげる」と説得したり、はなはだしくは飲酒で正体不明にしてから船に担ぎ込んだ例もあったという。北朝鮮帰国者の命と人権を守る会副代表の山田文明さんは「北朝鮮による日本人拉致の原点がここにある」と強調した。
だが、判決文では「原告の帰国はあくまでも原告、日本赤十字社、北朝鮮赤十字会及び北朝鮮政府を当事者として行われたもの」とした。総連が「帰国事業の実務を取り仕切っていた事実から直ちに『帰国契約』なる契約関係が成立していたものと認めることが困難」というもの。
「証拠」精査せず 実態審理を回避
原告側をはなはだ失望させたのは、「帰国者」の安全配慮義務としての保護義務が総連にはなかったと結論づけたことだ。これについて山田さんは「総連が北送開始当初、北朝鮮の実情を知らなかったとしても、その後の家族からの連絡を通じて北朝鮮の窮状を知らされていた。総連には北朝鮮の実情について説明責任があった。裁判所は証拠書類をきちんと精査せず、実態審理を回避した」と不満を露わにした。
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控訴審へ決意新た
判決言い渡しを受けて大阪弁護士会館会議室で記者会見に臨んだ原告の高さんは、涙ながらに悔しい胸の内を述べ、最後まで闘い続ける決意を露わにした。
「判決の結果次第では朝鮮総連を許す気持ちでした。これでは北送事業が正しかったと歴史に残すことになる。それが悔しい。裁判長は一瞬たりとも私と目を合わさず、判決を淡々と読んで帰った。この裁判は私一人の問題ではない。9万3000人をとんでもない地獄に連れ去った歴史に正当な審判を下すまで闘っていきます」
高さんは63年、3歳の時、「地上の楽園」という宣伝を信じた両親らと大阪から北に渡った。兄は北韓に到着するや「約束が違う」と船から下りず、そのまま精神病院に送り込まれて廃人と化した。総連の元幹部だった養父はスパイ疑惑をかけられ、生死をさまようような拷問を受けた。高さん自身も日本製ブラウスを「思想が悪い」と破られ、下着一つでトイレに隠れたことがある。
結婚後の95年には全土を襲った食糧危機で餓死した人の遺体処理をさせられ、「この国では生きていけない」と00年12月に脱北を決行した。
(2009.12.9 民団新聞)