【大阪】大阪市の生野区と東成区にまたがる「猪飼野」地区は、在日同胞最大の居住区だ。行政地名としては73年を境に地図上から姿を消したが、いまも不思議なエネルギーと活気に満ちている。そんな「猪飼野」の知られざる魅力を1冊に凝縮したのが『ニッポン猪飼野ものがたり』(猪飼野の歴史と文化を考える会編、上田正昭監修)だ。
執筆陣は郷土史家、歴史学や考古学の専門家、文学者や社会・文化活動家など多士済々。総勢45人が旧・猪飼野地域の歴史と文化を、論考やエッセイ、コラムなどの形で50編に著した。かつては「恐い」「汚い」というマイナスイメージだけが先行し、外部から忌避されがちだった旧・猪飼野地域の新しい魅力を掘り起こしている。
編集者は「猪飼野の歴史と文化を考える会」(足代健二郎代表、あじろ書林店主・猪飼野探訪会)。その中心メンバーは旧猪飼野地域に住む在日韓国人や地域と密接な関わりを持つ日本人たちだ。足代代表が独断と偏見で編んだ「猪飼野ゆかり著名人番付」が遊び心にあふれていて楽しい。パナソニックの創業者・松下幸之助が東の横綱に、歌手の田端義夫が西の大関に名前を連ねている。指揮者として世界的に活躍する西本智実も旧・猪飼野地域出身だ。
A5判368㌻。批評社刊、2800円(プラス税)。
(2011.5.11 民団新聞)