強制に抵抗感ぬぐえず
【大阪】大阪府が公立学校教員に対し、入学式や卒業式で「君が代」を起立して歌うことを義務づけた国旗・国歌条例を制定したことで、府内の韓国籍教員の間で葛藤が広がっている。条例に従うのは当然と受け止めつつ、過去の辛い歴史体験からして、力尽くで強制されることへの抵抗感も根強い。「強制」より「共生」こそ求められているのではという意見が出ている。
大阪市立小学校教員を30年間勤め、これまで59回の卒業式と入学式に出席してきたという在日3世の韓国籍教員。「日の丸君が代条例」にはとても寂しく、悲しいものを感じていると次のように述べた。
「国旗・国歌で懲罰を加えてでも無理矢理強制しようとするのは、よほどいまの国旗・国歌に自信がないのか。正式『教諭』になれず、『主任・管理職』にもなれない不合理な国籍条項を正当化したまま、国旗・国歌を尊重させようとするのは、あの忌まわしい大東亜共栄圏時代の発想ではないでしょうか」。
府内の公立中学校に勤務する韓国籍教員も「在日教員固有の存在意義を考えない一方的な押しつけ」と憤る。「私たち外国籍教員は教育実践を通じて、在日の子どもたちには自分たちの生活から生まれてくる感性や生活様式が日本人と違ってもいいんだと自己を肯定させることができ、日本人の子どもたちには自分たちと異なる価値観があることを身近で実感させられる。一つの考え方以外のいっさいのものをすべて認めないというのは、排外主義の思想につながるのではないのか」。
ある日本人教員は、「橋下知事にはとにかく、上司(知事)の命令に従わない公務員は排除するという強権的な発想があるだけ。教育から自主性、自立性を奪い去り、教員から『良心』を捨てさせる今回の条例は絶対に許せません」と話している。
民団堺支部支団長の呉時宗さん(民団大阪本部民族教育推進委員会委員長)は、アジア諸国民と在日に日の丸掲揚、君が代斉唱への忌避感が根強い事情を「維新の会」メンバーがどこまで理解しているのだろうかと疑問符をつけている。
柔軟な運用求む
「国旗・国歌とはすべての住民の心を一つにつなげるものでなければならないし、外国からは敬意を払われるものでなければならない。先の大戦は在日に差別抑圧を強い、日本国民にも多大な犠牲をもたらした。その記憶が完全には払拭されていない。戦後処理の信頼回復にはまだまだ長い対話が必要とされる」。
呉さんは、「共生社会実現と民主主義に逆流しているように思える」と指摘しながら、法や条例が制定されても実際の運用面では柔軟だった従来の保守政権のような対応を期待しているという。
大阪で社会福祉法人の職員を務める韓国籍の鄭貴煥さんは、「日本人が国旗、国歌に誇りを持つことは当然のことだと思う。ただ、その誇りには、歴史をどうみるかという視点が欠かせません。国旗・国歌に対しては様々な考え方を持つ人がいるということ、他者への尊厳と自己への敬愛こそが教育の原点であることを忘れないでほしい」と話している。
(2011.6.22 民団新聞)