黒沢明ら著名人も「下町以外編」資料集発行
1923年の関東大震災を契機に東京で引き起こされた同胞虐殺の実態と歴史的背景に迫る体験・目撃証言集『東京フィールドワーク資料(下町以外編)』(A4判78㌻)がまとまった。「投毒」「朝鮮人襲撃」といった流言蜚語が、戒厳令をバックにした軍隊や警察によってもたらされたものであることが、総勢284人の証言であらためて裏付けられた。昨年の『下町編』に続いての刊行。
虐殺そのものは散発的。残された証言も少ない。だが、事件は都内全域に広がっている。または虐殺が起きる寸前の状況があったことがわかる。これは公的史料では決してうかがい知ることのできない事実だ。黒沢明、木下順二、井伏鱒二、金子光晴、李方子、大岡昇平、島崎藤村、田川水泡といった著名人が登場するのも『下町以外』編ならでは。
大塚警察署の掲示板には「暴徒アリ放火略奪ヲ逞シウス。鎮圧ニ努メラレヨ」の貼り紙。ある自警団の一員は大震災から一夜明けた2日、「あっちこっちで朝鮮人が火をつけたり井戸に毒を入れたり、集団で火事場泥棒をやっているということは警察からもお達しがあるんだよ」と証言している。これを裏付けるのが下富坂警察署の警部の言葉だ。「抵抗するやつは叩っ殺しても罪には問わないから思い切りやって結構だ」。
ジャーナリスト出身の政治家、鈴木東民は関東大震災から40年後、「『朝鮮人反乱』のデマを流布するのに官憲も手伝ったことは事実。これを否定すれば非国民扱いだった」と振り返っている。
当時、小石川に住んでいた黒沢明は中学2年生のとき震災に遭遇した。後に自伝で「朝鮮人虐殺事件は、(電気などのライフラインが断たれたなか)闇に脅えた人間を巧みに利用したデマゴーグの仕業」と喝破している。
今回の資料集を編纂した西崎雅夫さん(関東大震災時に虐殺された朝鮮人の遺骨を発掘し追悼する会)は、「証言は生命をもっている。あのとき東京で何が起こったのか、この資料集を読むことで追体験してほしい」と話している。
頒価500円(送料は別途80円)。西崎雅夫さん(℡/FAX03・3614・8372)。
(2012.2.22 民団新聞)