

自らのアイデンティティーに向きあう
呉夏枝さん(35、大阪府寝屋川市)は韓服をモチーフに、自らのアイデンティティーやルーツに向き合う創作活動を続けている若手美術作家の1人だ。主に布を用いて、刺繍・染織という手法で作品を制作している。
洋裁学校で学んだ経験を生かして家族の着物を手作りしていたオモニの影響で糸や布に親近感を持ち、余布で人形の服を作ったりしていた。そんな夏枝さんが韓服に注目するようになったのは、01年6月に亡くなった祖母の存在がきっかけだった。
当時、夏枝さんは京都市立芸術大学染織科で学び、「祖母、母にとってチマ・チョゴリとは何なのか、私にとっては何なのか」と、意識的に考え始めていたとき。オモニが創作に役立つのではと、祖母の韓服を娘に託した。夏枝さんもいつか作品にできたらと、遺品を部屋に掛けておいたところ、いつか祖母の存在を強く感じるようになったという。
「抜け殻となった遺品のチマ・チョゴリは、祖母の実体ではないけれど、祖母の存在やそこにあったであろう記憶を想像させる。私が聞くことができなかったそんな『沈黙の記憶』を、このチョゴリは知っている。雄弁に語られることのない、ある1人の女性の歴史をチョゴリを通じてたどっていけたら、と考えました」
大学在学中に関心を持ったのはコンテンポラリーアートだったが、卒業制作を機に自らの出自に向かい合う。本名を使うようになり、卒業した年の02年から2年間、韓国に留学。東大門市場でアルバイトをしながら語学学校に通い、民俗博物館では韓服の制作を学んだ。日本に戻ってからは母校の大学院美術研究科博士課程で学び、今年3月に修了した。財団法人韓哲文化財団から11年度助成を受けて本格的な研究に打ち込んでいる。
「京都府美術工芸新鋭選択展―新しい波」で審査員推奨作品(07年)、卒業制作展で奨励賞受賞など。
(2012.5.9 民団新聞)