
独自の化学系ナノテク
インクジェットプリンタの印刷、洗剤による食器・衣服の汚れ落としなど、表面界面科学の例は周囲に数多く見られるが、ナノテクノロジーで分子や原子の「表面界面」を追求するとなると、別世界の話だ。1ナノ㍍(nm)は1㍍の1億分の1で、分子1個分のスケール。原子はより極微細になる。
振動で分子同定
「物質を分子1個のスケールにすると、それまでとは異なる性質が表れる。その性質を利用したのがナノテクノロジー。STM(走査型トンネル顕微鏡)という特殊な顕微鏡を使い、細い金属針を通じて電流を流すと化学反応が起こり、原子同士が伸び縮みする分子振動が生じる。界面での特性が分子の反応や運動に決定的に作用することがわかり、強度の違いから分子の種類を同定することができた」
ソウルで生まれ、育った。年齢の離れた姉が化学者になった影響を受け、同じ道に進んだ。
ソウル大大学院修士課程のテーマは「還元触媒の電気化学的特性」。還元力の強い触媒がいかに水を浄化するかを追求した。
兵役終了後の一時期、大学に助手として勤務。触媒に関連した分野で世界トップの研究をしたいと考えた。「光触媒の父」と呼ばれる藤嶋昭・東大教授(現・東京理科大学長)のもとで、博士課程のテーマ「単結晶表面の光学特性」を研究した。
当時、光触媒は環境汚染を解決する手段として注目された。汚染原因である酸化窒素や二酸化炭素、硫黄などの分子を、触媒によって安全な分子に変える。例えば、車の排気ガスを低減させるため、マフラーには必ず触媒が付着された。
博士号取得と同時に、理化学研究所表面化学研究室に勤務。ここでナノテクノロジーを用いた単分子表面化学の研究に取り組み始めた。2010年にKim表面界面科学研究室を設置し、責任者となった。現在のメンバーは17人。韓国の大学などとも交流を推進している。
「触媒の表面に分子をおき、化学反応を促進することで原子の切り離しを可能にした。表面化学の研究はもともと触媒の研究。物質表面上の分子や触媒に関しては、それまでの膨大な知識の蓄積があったからこそ成功することができた」と自負する。
最も基礎的研究
「太陽電池など応用につなげたりするものの、研究は最も基礎的な内容。原子レベルでのエネルギー変換がいかに起こるかを解明することは、エネルギー利用の効率化などを進めるのに重要な要素だ」
環境、バイオ、エネルギー、次世代デバイスなど、さまざまな応用分野で最も基礎的なメカニズムを明らかにしていく。「世界でも分子1個ずつ解析できる研究所は数えるほど。他が物理系のナノテクノロジーであるのに対して、当所だけが化学系ナノテクノロジーで独特だ。これからは光を当てながらの反応を解明していく」と意欲的だ。
和光市から借りた農園で、週末にトウガラシやゴマの葉、サンチュなどの野菜を栽培するのが楽しみ。「子どもと一緒に、土と遊べる貴重な時間だ」
(2014.5.14 民団新聞)