掲載日 : [2018-01-17] 照会数 : 7285
<寄稿>「歴史の教訓」訴えた反骨の作家…映画「抗い〜記録作家林えいだい」監督 西嶋真司
[ 林えいだいさん(右)と西嶋真司監督
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追悼 林えいだいさん
日本統治時代の朝鮮人徴用や人権をテーマにしたノンフィクションに精力的に取り組んできた記録作家、林えいだいさんをテーマにしたRKB毎日放送のドキュメンタリー映画「抗い〜記録作家林えいだい」を監督した西嶋真司さんが本紙に寄稿した。林さんは2017年9月1日、肺がんのため死去したが、映画は第23回平和・協働ジャーナリスト基金賞大賞を受賞し、現在も全国で上映されている。
2017年10月。福岡県香春町(かわらまち)の古宮八幡宮の境内に「アリラン」の歌声が響いた。歌うのは韓国の市民グループ「釜山同胞ネット」の40人。同年9月に83年の生涯を閉じた記録作家の林えいだいさんを追悼するために海を越えた。
誰からも親しみを込めてそう呼ばれたように、ここでも「えいだいさん」とお呼びしたい。えいだいさんが執筆したルポルタージュは58冊にのぼる。戦争中に朝鮮半島から徴用された労働者やその家族。炭鉱や石炭積出港で働く女性たち。えいだいさんの視線は、苛酷な運命にさらされながら、権力の前に口を閉ざさなければならなかった名も無き民へ注がれた。 北九州市の小倉駅からJR日田彦山線で筑豊方面に向かうと、約40分で田川郡香春町の採銅所駅に着く。林えいだいさんの生家は採銅所駅に近く、その隣に父親が神主を務めた古宮八幡宮がある。戦争が激しくなると炭鉱の重労働と民族差別に耐えられずに脱走してくる朝鮮人が神社の床下に隠れ住んだ。父親の寅治さんと母親の香さんは朝鮮人を自宅に匿い、身体を回復させてから送り出した。「脱走した朝鮮人を助ければ国賊や非国民と呼ばれた時代に、彼らを匿った父と母は僕の誇りですよ」(林えいだい)。
涙を流しながら祖国の民謡「アリラン」を口ずさむ朝鮮人を見た時、えいだいさんは加害者としての日本人の罪を感じたという。
いつの時代も権力者は歴史を自分の都合の良いように書き換えようとする。歴史書は権力者の意向を忖度する官僚や、権力におもねる学者たちによって編纂される。えいだいさんは、それを「歪められた歴史」と呼んだ。
2015年の「慰安婦」問題に関する日韓合意をめぐって日本と韓国のぎくしゃくした関係が続いている。こうした歴史問題は、日本による植民地支配に起因する。大切なのは合意を履行する如何ではなく、日本人として不幸な歴史を、これからも記憶しておくかどうかではないかと思う。
えいだいさんが遺した膨大な記録には、歴史の真実が忘れ去られようとしている今の日本社会への厳しい問いかけが込められている。
えいだいさんは古宮八幡宮に近い山里の墓地に眠っている。そこに建立される予定の墓標には、次のような言葉が刻まれるという。
「歴史の教訓に学ばない民族は、結局は自滅の道を歩むしかない。林えいだい」
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27日に上映会 韓国中央会館
民団中央本部は27日、15時から東京の韓国中央会館8階大ホール(港区南麻布1‐7‐32、地下鉄南北線麻布十番駅下車)で映画「抗い〜記録作家林えいだい」を上映する。入場料1000円。問い合わせは民団新聞 哲恩(03・3454・4612)まで。
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プロフィール
本名・林栄代。1933年12月4日、福岡県田川郡香春町生まれ。早稲田大学時代、足尾銅山鉱毒事件に政治家生命をかけて取り組んだ田中正造の生き方に強く影響を受け、北九州市教育委員会を37歳で退職して記録作家となる。徹底した聞き取り調査で『精算されない昭和‐朝鮮人強制連行の記録』(1990年)、『筑豊・軍艦島‐朝鮮人強制連行、その後』(10年)などを発表してきた。
(2017.12.20 民団新聞)