掲載日 : [2004-11-17] 照会数 : 5541
集中活動中間総括 着実な成果(04.11.17)
17地方で研修と共同実践
テーマは地方参政権・住民投票権・年金問題・歴史教科書…
「中央とのパイプが太くなった」
「本音で語り合えば連帯感育つ」
「自治体との交渉に自信持てた」
「全国各地の奮闘が励みになる」
9月20日にスタートした民団の組織活性化集中活動は、12月20日までの3カ月間にわたる日程の3分の2ほどを消化した。中央と地方は研修や共同活動を通じて実践要領を確認し、煮詰めただけではなく、問題意識と士気を高めるとともに、それぞれの地域が抱える問題点を整理し、それを克服することで組織活性化につなげる確かな手応えをつかんだ。来年は光復60周年、在日100年など大きな歴史的節目があり、地方参政権獲得運動や歴史歪曲教科書の採択問題が山場を迎えるなど、民団にとって重要な課題が目白押し。組織の足腰の強化に向けた集中活動は終盤に入る。
居住者少ない地域を重点に
「中央とのパイプが太くなった。中央幹部と支団長の共同活動は実に有意義だ」。長崎本部の姜成春事務局長のこの言葉は、今回の集中活動の意義を端的に語るものだろう。姜局長は「これで弾みをつけ、県内のすべての市町村と教育委員会に、支団長とともに要望書を出しにいく。団員の戸別訪問にも力を入れる」と満々の意欲を見せた。
研修と共同活動をワンセットにした集中活動は、すでに17地方本部で終えた。範囲は関東・東北・中北・九州・四国の5地協におよび、そのなかで居住同胞の少ない地域を重点対象としてきた。
大手の地方本部と違って過疎地方の本部・支部は幹部の高齢化、あるいは逆に世代交代が進んだことで経験不足になるなど、活動力の低下が目立っていたからだ。
集中活動の柱の一つは研修と意見交換。民団を取り巻く情勢一般、来年の光復60周年に向けた朝鮮総連との和合事業、「新しい歴史教科書をつくる会」(以下つくる会)主導の歪曲教科書の採択問題、行政差別撤廃運動などが主なテーマになっている。
映像も使って親しみやすく
集中活動の皮切りとなった秋田・県南支部の白南徳さん(70)は、「支部では45年間、毎月会合を持ってきたが、本格的な研修は初めてだ。分かりやすく有意義だった」と語る。プロジェクターを用い、映像を駆使した講義方式も好評で、「中央も変わった。親しみやすくなった」の声も各地で聞かれた。
民団の多様な事業に舌を巻き、「こういうことまでやっているのか」と認識を新たにする同胞も多い。富山本部の宋勇事務局長は、「中身の濃い研修は久しぶり。親切で分かりやすく、民団の仕事がすごく大事だということを私自身も改めて感じたほど」と話す。
講義では、民団は構成員を「国籍」で仕切るのではなく、「民族」を軸にする方向を探っており、発想を転換すれば団員の確保に新たな道が開かれることも強調された。同胞過疎の地域だけに、真剣な面持ちで大きくうなずく同胞が少なくない。
もう一つの柱が共同活動だ。自治体に地方参政権の意見書採択と住民投票権の条例制定、地方公務員の国籍条項撤廃、無年金の高齢者同胞への特別給付金支給などを要望し、各教育委に「つくる会」教科書の不採択を働きかけた。
豊富なデータと経験に基づいて中央幹部がリードした交渉は、自治体側から前向きな姿勢を引き出すうえではもちろん、同席した地方幹部を刺激し、勇気づけることにもなった。
地方参政権の要望書提出にともなう話し合いで、中央幹部が「本当は帰化したらいいのにと思っていませんか」とズバリ突くと、自治体側には顔を赤らめうつむく関係者もいる。地方幹部も「そこまで言っていいのか」と戸惑い驚く。しかし、本音の交渉だからこそ、高位当局者ほど真摯な態度を見せ、前向きな反応を示すことも多い。
ある県議会議長からは、「要望書を請願書に変えたほうがいい」とアドバイスがあったうえ、「反対しているのは私の会派なので、話をしてみる。12月は無理でも3月には何とかしたい」との意思表明を受けた。前向きな反応を得ることで、「そこまで」と言った幹部も素直に感動し、「やればできる」という意識に変わっていく。
威力発揮した実績のデータ
各種交渉で力を発揮したのは、説得力だけではない。自治体側は、定住外国人に地方参政権を付与すべきだとする意見書の採択状況(10月末現在で全体の46%に当たる1520自治体。人口比で76%)や無年金の同胞高齢者への特別給付金支給が828の自治体で実現しているなどのデータに驚き、感心する。自治体には横並び意識が強いだけに、訴える力があるようだ。
政治的な要素が絡みやすい地方参政権は一筋縄でいかないにしても、無年金高齢者への特別給付金はとくに効果が大きい。高齢団員一般の福祉増進に直接的に結びつくだけに、地方幹部たちは「これは絶対やるべきだ」と受け止める。
「共同活動は予想以上に大きな意味があったと思う。自治体との面談手続き、要望の要点、やり取りの要領などを学んで自信をつけた支団長たちは、独自活動に前向きになった」(青森本部・安明洙事務局長)。
「中央との連携ができたのがすごくいい。自治体も中央幹部が来るということで緊張していた。県では関係担当者が10人も同席したほど」(熊本本部・崔相哲事務局長)。
「中央幹部は地元の同胞以上に押しが効いた。さすがに説得力がある。また、中央から幹部が来てくれたことで、支部役員の士気が高まった意味も大きい」(佐賀本部・朴弘正事務局長)。
問題点整理し信頼関係築く
この運動を統括する鄭夢周事務総長は、「本部・支部は多様な日常業務を抱えていて、組織強化に結びつく活動が後手に回るケースが見られる。問題点を整理することで、克服への意欲も湧いたのではないか。研修でも目の色が変わるのが分かったし、一緒に活動することで信頼関係が築かれたと思う」と語る。
集中活動は中央と地方が本音で語り合い、相互理解を深め、連帯感を培うものになっている。集中活動が進展するにともない、中央幹部は共同活動のノウハウを積み、地方では受け入れ準備が整うようになった。終盤はより多くの成果を期待させるに十分だ。
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全国運動と地方課題の調整カギ
密接な連携で打開を
芽生える「全国の砦」意識
民団はいうまでもなく全国組織である。しかし、地方本部・支部はそれぞれの地域に密着し、同胞ばかりか自治体や市民団体からの要望にも応えなければならない。全体的な運動と地方独自の課題との調整が、専従活動家の少ない同胞過疎の地域ほど困難だ。どうしても地元の事業を優先しがちになる。
組織の足腰を鍛えるために、この隘路をどう打開すべきか。一つは、中央幹部が各地方で強調したように、「必要とあれば呼んで欲しい。いつでも駆けつける」という、中央本部の姿勢である。もう一つは、地方・支部の幹部が活動能力を高め自信を持つことだ。研修で民団事業の大切さを得心し、共同活動で信頼関係を築くことができれば、隘路打開へのきっかけをつくれる。
もう一点、重要な要素も見えてきたのではないか。それは、地域の事業に手一杯なため、閉塞感にとらわれがちだった同胞過疎の本部・支部の幹部たちに、自分たちこそ全国組織の一角を構成する重要な砦だとの意識が強まったことだろう。
中央本部が準備した対自治体交渉の実績データは、自治体を驚かせただけではない。支団長たちも目を見張った。また、数字に過ぎなかったそのデータが、共同活動の現場での交渉過程を目の当たりにすることで、実際の活動の成果として実感できるようになったのも大きい。
鄭夢周事務総長は、「地方参政権活動が滞っている地域の場合、『全国が頑張っているのだから、原点に返ってもう一度アタックしてみる』と受け止めてくれるようになる」とその意味を強調した。
同胞過疎の地域ではどうしても、民団の存在感が薄くなる。地方幹部の士気も上がりにくい。だが、全国組織を背景にして、その重要な一角であるとの実感が持てれば補えるはずだ。
青森県は同胞過疎の典型的な地方である。自治体交渉に中央と地元幹部合わせて11人が参加した。民団は在日韓国人を代表する団体であること、全国に49の地方本部があること、青森本部はこの県を担当する地方本部であること、これらを説明すると自治体側の見方はがぜん違ってくる。
自治体側の見方は当然、地元幹部に跳ね返り、全国組織の一線で活動することの意義を感じさせずにはおかないのであろう。青森での集中活動に参加した孫成吉文教局長は、「自治体交渉の回を重ねるにつれ、地方幹部に自信が膨らんでいくのが分かる」と振り返った。
民団は全国に組織網を張っている。特定地域だけに存在し、全国活動を遊軍的に行って済ませる組織ではない。いわば、全国的な拠点組織である。しかも、本部・支部の役員は中央派遣ではなく、その地域に定住し、その地域に愛着を持つ同胞がボランティアで担う。日本における他の外国人組織はいうまでもなく、世界各地にある海外同胞社会でも真似のできない組織体系を持っている。
民団の最大の強みは、共同体としての在日同胞社会に基礎を置いた機能体組織であり、全国組織であるという点にほかならない。集中活動はこの強みを再確認し、より実体のあるものにしていくことになるはずだ。
24日からソウルで、全国支団長交流会が開かれる。全国組織の第一線で踏ん張る支団長たちに、この場を借りてエールを送りたい。
(宣伝局長・哲恩)
(2004.11.17 民団新聞)