掲載日 : [2009-09-16] 照会数 : 8417
学ぶ喜びいまが青春 天理市立北中学夜間学級
[ 朴尚任さん(右)と姜必善さん ]
朴尚任さん(90) 一念発起して入学
姜必善さん(89) 初めての紙と鉛筆
【奈良】在日1世の朴尚任さんは90歳、姜必善さんもすでに89歳。二人とも「文字を覚えたい」一心で桜井市の自宅からいまも毎日のように天理市立北中学校夜間学級に通う。1日4時間の授業が終わり、終礼のチャイムが鳴っても、すぐには机から離れられない。学校に通えることが喜びであり、生きがいになっているのだ。学びに対する情熱は誰にも負けない。
二人とも解放前は女性ゆえに歴史の大波に翻弄され、教育の場を保障されてこなかった。渡日後は家事と子育てに追われ、一段落すると賃労働に追われてきた。自分のために使える時間はほとんどなかった。
朴さんは亡き夫を見送り、2人の子どもを結婚させてからようやく自分の時間が取れるようになった。夜間中学に通う同胞に「一緒に」と誘われたのは、そんなときだった。「この年で学校に通うなんて」と、朴さんは恥ずかしさに体を震わせた。
だが、「文字を覚えたい」という気持ちはどうにも抑えられなかった。職員室で面接した教員に、「幼稚園の1年生から来ました」と話した。よっぽど緊張していたのだろう。鼻から汗がにじみ出ていた。
1年もすると、どうにかひらがなが書けるようになった。通学で留守にする時、「ふろをわかしています。ふろにはいってください」と書き置いた。「学校に行って良かった」。朴さんはしみじみ喜びに浸った。
慶尚北道大邱市生まれ。当時、女性が学校に通えるのはごく一部だった。父親は「女の子が学校に行って文字を覚えたら、ロクなことはない」と許さなかった。学校に通えるいまは「生まれてから最高の幸せ」と話す。
姜さんが大阪の布施に住む子息に会いに行くときは、駅まで長男のお嫁さんがついてきて切符を買い、ホームまでついてきた。一人では電車に乗れないからだ。帰るときのため「桜井」という字を必死になって覚えた。 長男から勧められ夜間中学の門を叩いた。「初めて紙と鉛筆を持ったときはもううれしくて。このときの気持ちは今も忘れません」。一人で切符を買えるようになったのも、夜間中学に通ってからだ。テレビを見ていても、ニュースを理解できるようになった。
北中学校夜間学級の教員、福島俊弘さんは、「二人とも痛い足を気にもせず熱心に通学されています。書いては消し、消しては書くその姿は、『文字を刻み込むように書く』と言う表現がぴったり。夜間中学で学ぶ中で、〞人生の澱〟をこす作業をしてもらえたらうれしい」と語った。
(2009.9.16 民団新聞)