掲載日 : [2010-02-10] 照会数 : 14139
<地方参政権>一部全国紙の反対論を検証する
悪意先行で自己矛盾
「共生」より「排除」か…「名誉ある地位」想起すべき
永住外国人への地方参政権付与法案が今通常国会に提出される可能性が高いとして、これに反対する言論が激しくなってきた。大きな影響力を持つ全国紙の一部にさえ、肝心な参政権付与の趣旨を無視した反対のための反対の論調がはびこっている。「読売新聞」(2月1日付)の「外国人参政権‐党略で国の基本を歪めるな」と題した社説はその典型だ。①憲法に照らして問題がある②安保政策が歪む恐れがある③選挙協力を引き出す党略ではないか−−この主要な論点を検証する。
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憲法に違反する?
憲法解釈から三つの見解がある。禁止説=公務員の選定・罷免の権利は国民主権原理の帰結であり、地方参政権といえども国民固有の権利としてその保証は日本国籍保持者に限られる。要請説=永住者については住民自治の理念、民主主義における地方自治の重要性から、日本人と同じく保証される。憲法93条2項に定める「住民」について、前者は日本国籍者に限定し付与は違憲とする。後者は外国人も含まれているとの見地から付与しないのは違憲とする。
「違憲でない」全判事が一致
これらのいわば中立に位置するのが15年前、最高裁が判示した許容説だ。「日本国民たる住民」と「外国人たる住民」のうち、地方参政権が憲法上保障されているのは前者であるものの、「民主主義における地方自治の重要性」から一定の要件を満たす後者に「選挙権」を付与することは違憲ではなく、「専ら国の立法政策にかかわる事柄」だとした。矛盾のない実に明確な論旨である。
ところが反対論者はこの許容説を、「判決理由」ではなく法的拘束力のない「傍論」に過ぎないと貶めている。しかし、法的な解釈と事実上の拘束性は別であり、地方選挙権付与を直接論じることになれば、最高裁第3小法廷の判事全員の一致した見解であるこの「傍論」が判決理由となることは自明だ。
憲法解釈をもって反対するのであれば、最低でももう一つ念頭に置かねばならないことがある。永住外国人への地方参政権付与法案は98年10月以来、計11回も国会に提出されており、「政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する特別委員会」だけでも4会期にわたって約15時間の審議を重ね、採択段階に至った経緯のことだ。法制局の審査でも違憲ではないからこそ、提出・審議が可能だったことを想起すべきである。付与法案を違憲云々することは、自国の国会の権威を否定することになろう。
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安保政策を歪める?
先の沖縄県名護市長選挙で米軍基地問題が争点になったケースを挙げ、永住外国人が「集団移住」して陸上自衛隊の配備への反対運動を展開する可能性などを強調する。荒唐無稽の、外国人敵視の次元さえ超えたあまりに危険な発想だ。自治体と特段の関係を持つに至った永住外国人に対し、その国籍がゆえに特定の帰属意識と思想信条を持ち、当該国の影響力行使によって日本の安保に害をもたらす存在と見なしている。
太平洋戦争の開戦とともに「敵性外国人」として強制収用された日系人の不幸を忘れたのか。米国への集団移民は開戦を想定し、米国内を撹乱しようとする日本軍部の布石だったわけではあるまい。当時の在米日本人社会は、日本と米国との帰属意識をめぐって葛藤を余儀なくされながらも、日系人のみで編成された連隊戦闘団が家族や愛する人々を強制収容された苦痛に耐え、ヨーロッパ戦線において多くの戦功を立てた歴史がある。
自由権脅かす危険な発想だ
永住外国人の内部ではむしろ、母国への帰属意識の希薄化が憂えられている。思想信条にしても、軍事大国化を唱えるものから安保破棄・非武装中立を主張するものまで様々な体系化された価値観が混在する日本社会の範囲を超えるはずがあろうか。「集団移住」によって「安保政策を歪める」という考えは、特定の意思をもつ日本国籍者の「集団移住の可能性」を想定すれば、思想信条・居住移転の自由を侵害する発想につながりかねない。「危険」と指摘したのはその意味からだ。
そもそも国はなんのためにあるのか、その国と地方公共団体との基本関係をどう捉えているのか。地方自治は法律によって日本の国土の一定の範囲内で、一定の公共サービスを自主的、自律的に決めていこうとする制度だ。無限に広がるものではなく、国民の代表である国会、つまり国権の最高機関が定めた法律の範囲内で運営される。
「武力攻撃事態等において、国民の生命・身体及び財産の保護を図ることを目的」とした「国民保護法」は、国の方針に基づいて「国や地方公共団体等の責務や役割分担を明確にするとともに、住民の避難に関する措置や避難住民等の救援に関する措置」を定めている。このように、安保政策は専ら国がつかさどる事項である。
ちなみに、「保護法」では「国民」と「住民」の関係、「住民」の法的な概念について仕分けをしている形跡はない。永住であろうと観光目的の短期滞在であろうと、外国人をも救済の対象とするのであるから当然のことだ。「住民」レベルで求められる「安保」に国籍は馴染まない。外国人集住地区ほどそうだ。必要なのは交通安全・児童保護や犯罪を起こさせない地域づくりであり、阪神淡路大震災で見られた国籍を超えた助け合いを常態化する共生理念とシステムの構築である。
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党利党略で扱う?
「法制化を政治目標に掲げる韓国民団から、参院選に向けた選挙協力を引き出したいからではないか/民団は昨年の総選挙で多くの民主党候補を支援/国の基本にかかわる問題を党利党略で扱うことは許されない」。
住民として当然の要請を「政治目標」などと恣意的に規定したことをここでは問わない。しかし、付与法案をめぐる歴史的な経緯を知らないか無視しての憶測を、本団を名指ししながら流布することを黙過するわけにはいかない。
民団は昨年の総選挙で史上初めて、日本の国政選挙に関与する苦渋の選択をした。民団内部には様々な政党支持者がいて、有力団員を中心に韓国との関係が密接だった自民党の支持層がもっとも厚い。付与実現についても、執権与党の協力が肝心として連携強化に努めてきた経緯がある。したがって、総選挙でも政党を問わず、自民党を含む付与賛成の候補を特定して支援する大原則を立てた。民主党候補に支援が向かったのは、それだけ付与に積極的な候補者が多かったからだ。
連立合意から翻意こそ不当
1999年10月、自民党・小渕恵三総裁、自由党・小沢一郎党首、公明党=改革クラブ・神崎武法代表の3者が会同し、「3党連立政権合意書」に署名した。その「政治行政改革」の項に「永住外国人地方選挙権付与」について「成立させる」と明記されている。
自公連立時代もこの合意は一貫して引き継がれた。3者のなかで意を翻し反対に回ったのはひとり自民党である。付与推進政党との連立与党時代と野党になってからでは計算が異なるというのであれば、それこそを党利党略と指摘すべきだ。
地域を愛する住民としての願いを、悪意に受けとめることがいいのか−−。影響力の大きい最大手全国紙であれば、付与法案の趣旨、国会審議を含むこの間の経緯に思いをめぐらせ、日本の未来をこの地で生きる全ての人々とともに築いていく発想から問題を吟味して欲しい。
日本国憲法前文に「国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ」とある。永住外国人への地方参政権付与は、その名誉ある地位を築く大きな流れを創り出すことになろう。
(2010.2.10 民団新聞)