掲載日 : [2003-05-21] 照会数 : 3571
安保の源は文化の力 小田川興(前朝日新聞編集委員)
新緑のソウルにいる。SARSの影響で例年ほどではないが、日本人観光客が目立つ。グルメ旅行に来た東京の友人たちを景福宮に案内した。
社会科見学に来た大田の小学生グループに出会った。「日本人は初めてだ」とはしゃぐ子供たちと記念撮影を楽しんだ。
国立民俗博物館で大田の別の小学生たちに会った。一人が言った。「日本人?怖い」。本当に逃げ出した。友人は二度目の訪韓だが、歴史に絡む体験は初めて。顔色が変わった。
と、近くにいた別の子が何か二、三度叫んだ。「セン…ヘンバン」。数秒後、今度は友人が叫んだ。「ああ、千と千尋だ!」。 韓国で「千と千尋の行方不明」は昨年、上映されて大ヒット。国際映画祭受賞作ゆえに一般公開されたのだが、日本文化の全面開放への先駆けも果たすだろう。友人には救いの神だった。
夜、屋台に繰り出した友人たちは、盛り上がるサラリーマンたちの姿に戸惑った。「北の脅威」に相当緊張しているはずなのに、というわけだ。
しかし、北の行動に対する厳しい認識は徐々に韓国社会に浸透しつつある。訪米した盧武鉉大統領はブッシュ大統領との会談で、対北朝鮮政策を巡る「厳しい落差」に直面した。両国指導者の焦眉の課題は韓米関係につきまとう不信感を拭い、安全保障の隙間を埋められるかどうかにある。
そして、日米韓安保体制の一翼を担う日本は何ができるのか。ここで共通の価値観が重要だが、特に日韓の文化のきずなを強めることは平和維持の源泉になる。在日の方々の架け橋は大きい。
(2003.5.21 民団新聞)